冥府帰りの胡母班
青星明良
獄中
中国で二番目に古い
四百七十余の
その中でも、
という男である。
彼は、史書によれば、
「本当に馬鹿な話さ」
その男――胡母班が投獄されてから数日が経つ。
彼は、暗い牢の中、何もない壁に微笑みかけ、さっきから延々と独り言を呟いていた。
「人生は後悔の連続だ。望んだ道からどんどん外れ、たいていの者は大事を為せずに死んでいく。この俺のようにな。まことに愚かなものだよ、人間というのは――」
彼を監視している牢番ふたりは、気味悪そうに顔を見合わせていた。捕虜の頭がおかしくなったのでは、と疑っているのだ。
しかし、冴え冴えとした星の
ならば、この男はいったい何のつもりで狂態を演じているのか……。
「断っておくが、後悔とは、董卓のために働いて殺されようとしていることではないぜ。俺が董卓のためではなく帝のために働いていたことは、
俺が言う後悔は……自分の無邪気さだ。信じるべきではなかったのだ、あの人を。昔、この無邪気さのせいで、取り返しのつかない過ちを犯したというのに、またやってしまったよ。そりゃぁ、あんたの主人が手を叩いて笑うわけだ。アハハハ。…………残念だが、任務はこれで失敗だ」
囚人の不気味な
――そこまで後悔なさっているのなら、助けてさしあげましょうか?
という声が、
独特の雰囲気のある胡母班のかすれ声とは違う。やや甲高いが、感情や温もりというものが感じられない、年若い男の声だった。その声は、胡母班が
胡母班はハハッと笑い、「助けるだと? あんたは、俺を迎えに来たのだろう?」と壁に語りかける。
「俺はいつ死ぬ? 今すぐか? それとも今夜か?」
予定では明日の昼ですね、と壁は答えた。しかし、貴方は我が主人とは顔馴染み。多少の融通は利きます――とも。
「融通が利く、とはいかなる意味だ。あんたが手に持っているその
胡母班は笑みを消し、鬼気迫る表情で問うた。
すると、彼にだけ見えるその対話者が、牢番たちには聞きとれぬ忍び声で、何事かを告げたらしい。何日も食事を与えられておらず
「ぐふっ……ぐふふふ……。アハハハハハハハ!」
と、腹を抱えて笑い始めた。
狭い牢獄内に狂ったような
「や……やっぱり、噂は本当だった!」
牢番のひとりが、息切らせて走りながら叫ぶ。
相棒は「う、噂とは何のことじゃ!」と
「そうか。お前はここの生まれではないから知らぬか。
「冥府帰り……? 何じゃ、それは」
「言葉のままよ! あの男は冥界を訪問したことがあるんじゃ! 冥府の神と友人だという噂もある! 奴が対話していたのは、きっと冥府からの使者じゃ! こ、殺されるぞ……。あんな恐ろしい奴をうちの主人が捕縛したせいで、我らまで呪い殺させるやも知れん!」
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