□藤村勇那の話 決着

 以上が、俺の知る全てを記録したものである。


 瑞穂ちゃんがまとめていた部分はそのまま、その他の部分は、俺の脳内で混ざりあった「かぞく」たちの記憶をもとに書き起こした。


 俺と瑞穂ちゃんは、結局あのあじゃさま――雪子さんには、傷一つつけることができなかったらしい。


 いや、少なくとも本社での騒ぎ以降、スノウ製菓絡みの妙な事件はなくなった。これは雪子さんを抑え込んだため、というよりは……彼女が学習したためだろう。

 ――あまり大っぴらにやりすぎると、俺たちのように殴り込みをかける輩が出てくるのだ、と。


 それは決して殊勝な反省などではなく、動物じみた狡猾さに基づく進化である。事実、事件になっていないだけで、社員の狂人化は続いているし、死人が当たり前のように働いている。会社に難癖をつけた人間の不審死も、心筋梗塞などに形を変えて続いているようだ。

 

 それでもスノウ製菓は、今日も元気に営業を続けている。最新の四半期決算では、過去最高益を記録したらしい。

 社長の矢中田耕輝は、文句も言わずに働き続けるイカれた社員たちに支えられ、高笑いでもしているだろうか。もしかしたら彼自身も、もう雪子さんの操り人形なのかもしれないが。


 この記録をつけるにあたって、雪子さんには散々邪魔された。なのでこれは小説だ。フィクションだ。今流行りのモキュメンタリーだ。そう言い逃れすることで彼女の納得を得て、ようやく俺はこれを書き残すことができている。

 

 これに関することを人に話したり、紙で渡そうとすると雪子さんに阻止される。だが、色々試してみたところインターネット上に投稿するのは大丈夫らしい。――なので、ここにアップロードした。


 この話に出てくる社名、人物は全て仮名である。特定ができないよう、あらゆる設定にフェイクを入れている。

  

 でも俺は誰か、霊能者とかそんな感じの人間にこの会社を見つけて欲しい。


 ――わたくしはわがしゃにあたらしいかぞくをおむかえしたいとおもっています


 そしてどうにかして欲しい。こんな異常なことになっている会社が、存在していいはずないだろ


 ――かぞくのためにともにはたらいてくださるかたをおさがししております


 それに、もしかしたらこの会社は、あんた……これを読んでるあんたやあんたの家族の、就職先とか、取引先になるかもしれないぞ?


 ――おいしいせんべいをつくりましょうわたしのこどもたちがつくったおいしいものを


 もっと言うと、ここが作った商品を買っちまうこともあるだろうな。どこのスーパーでも並んでるぜ。夜中に変な営業マンがチャイムを鳴らしてきたりさ。それにクレームなんて入れたが最後、焼き殺されるかもしれない。


 ――あなたたちはわたしのこどもこどもこどもそだててててててだいじょうぶげんきににににに


 なぁ、他人事じゃないんだよ。……頼む。そして、俺と、宮下と、瑞穂ちゃんを、いつか


 ――だいじょうぶですからね


 かいほうしてほしい 


 ――やなかたのためにやなかたのためにやなかたのためにやなかたのために


 おねがいします、じゃないと、もう、だいじょうぶになってしまう


 ――かぞくになりましょう



 おれもかぞくがもてるんですか

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