警察官の話
よ、久しぶり。……痩せた? ていうか、やつれた?
そう……。大丈夫なんだ。ならいいけど。
私? ……うん、異動した。捜査一課から所轄の生活安全課。定期異動だけどさ、実質左遷だよ。川田夫妻の迷宮入りも関係あったかもね。
そう。……迷宮入りになりそう。スノウ製菓も、どこを叩いても埃が出ない。……結局あの音声じゃ、本社にガサ入れするほどのパワーはなかった。
……悔しいよ。でも、どうしようもない。
それで……スノウ製菓の本社で聞こえた爆発音と、行方不明者の件ね。
びっくりしたわ。現場に行ったら、あんたが担架で運ばれてるんだから。
……うん、あたしも現場に行った。管轄外だけど、スノウ製菓に関することだから。――けど、ビルに異変はなかった。ほんとに爆発があったら、現場検証とかなんとか理由つけて、入り込めたのにって思ったけど……。
通報者が聞いた爆発音が何の音だったかは、不明。
……え、地下? あのビルに、地下はないって話だけど。
そうそう、搬送された……中塚さん、だっけ。アンタが粗塩ぶっかけた妊婦さん。あれなんだったの? 安産祈願? はぁ?
……まぁいいや。無事に出産したらしいよ。早産だけど、母子ともに健康。……うん、よかったよね。
……それで、さ。今日呼んだのは、藤村に聞いてほしい話があって。
あたしが今いる生活安全課って、行方不明者の届け出を受理するところじゃない? ……一昨日、変な夫婦が来てさ。
すごい暗い顔で、おどおどしながら窓口に来たの。「捜索願を出したいです」って。いなくなった娘を探して欲しいんだって言うから、記入用紙を渡したのね。
そしたらさ……二人ともその用紙見て、難しい顔してるの。あんまり長いこと固まってるから、どうしたのかと思って聞いてみたら「わからないんです」……って。
娘の名前も、年齢も、身長とか体重も、ぜんぶわからないって。住民票とか、公的資料にも彼女の名前が載ってないんだって。でも確かにいたはずなんだとか言うのね。家にその子の部屋もあるし、顔は覚えてるんだって。
……いや、受理できるわけないでしょ。娘の名前もわからないなんて聞いたことない。だから、丁重にお帰りいただいた。帰ってもらう前に、一応話は聞いたけどね。
その話も支離滅裂でさ。居なくなった日、何故か自分たちは大量のお菓子を買ってきていて、それを食べてたと。そしたら娘が出ていって……そのままいなくなったって。
そのお菓子がね……ぜんぶ、スノウ製菓のお菓子だった。――そう言うの。
だから、一応……藤村に言っとこうと思って。
諦めきれないのかもね。私も……あの会社のことが。
……これが娘ですって言われて、見せられたのがこの写真。
……どうしたの、その顔?
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