この会社は実在しません

代表電話の録音データ

代表電話の録音データ

覚書

　・ 電話の主は老年と思われる男性。

　・ 社員と思わしき女性が対応している。

　・ なお、特定に繋がらないよう下記では弊社名は伏せている

（女）はい。株式会社xxxxx、代表電話でございます

（男）あのですね。カワダタクジというもんですけどね。お宅のねぇ、会社はいったいどういう教育してるのよ。

（女）カワダ様、でございますか。失礼ですが、なにかございましたでしょうか？

（男）お宅の社員がね、昨日――いや日付変わってからだから、今朝かいね。とにかく夜中にうちの玄関のチャイムを鳴らしてきたんですよ。二時だよ、夜中の。ありえんでしょう。

　それでね、一方的に商品？の説明まくし立てて……。一喝したら帰ったけどね。本当、迷惑したんですよ。おかしいんじゃないの？

（女）それは……大変申し訳ございません。弊社の方で事実確認をさせていただきたいのですが、その社員の名前はおわかりですか？

（男）名刺置いていったよ。――ええと、セリヤマショウイチ、って書いてある。営業一課？だと。

（女）……少々お待ち下さい。上のものに確認いたします。

――保留音が一分ほど続く

（長谷川、以下「長」）お待たせいたしました。責任者の長谷川です。先程対応した者から事情はお伺いしました。

（男）はいはい。で？厳重注意してくれるんだよね？

（長）事実確認をさせていただきたいのですが、詳しくお伺いしてもよろしいでしょうな？

（男）だからね。夜中の二時に、うちのチャイムが鳴ったの。それで起こされちまって、いたずらかと思ったから無視してたんだけど二度三度鳴るから、腹立って玄関出たのよ。

　そしたらセリヤマっつぅのが立っててさ。……気持ち悪いくらい笑顔だったよ。そんで無理やり名刺押し付けてきてさ。なんとかってぇ商品がすごくいいからぜひご契約を、とかぬかすんだわ。

　我慢できずに怒鳴りつけたけど、ずっとにこにこしたままで、最近結婚したから家族のために頑張らなきゃいけない、とか抜かすの。もう話が通じなくて。

（長）はい……はい……

（男）今朝聞いたらね、隣近所の家も大体回ってたみたいよ。ありえないだろ。注意してくださいよ本当。おかげで寝不足だし、妻も怖がってるし

（長）それが……私共も困惑しているのですが……。芹山は、先月末に退職しております。すでに弊社の社員ではございません。

（男）あ？……なんだって？

（長）弊社の社員を名乗って迷惑行為をしている者がいるということで、こちらも法的な措置を取る必要があります。……一度ご自宅にお伺いして、お話をお伺いしてもよろしいでしょうか？

（男）（おお、ともああ、ともつかない声）

（長）では、ご住所をお伺いしてもよろしいですか？

――以下、カワダ氏が自宅住所をボソボソと伝える音声と、日程調整をする会話が続く

（長）ありがとうございます。それではその日に、弊社から担当の者がお伺いさせていただきます

（男）はぁ、はい……ん？　なに？　なんだ？

（長）どうされましたか？

（男）――あんた、どっから入ってきた。ミチエは？……なに、え？なにして、

　やめろ！　やめろ！　くるな！　ミチエ！　――――――――逃げ――――――――――ぁが――――――――ご――――――――――――ぐ――――――――ッ――――――――ぎぎぎ―――――――――――――ざ――――――――――――――――――

（長）カワダさん？　どうしました？　カワダさん！

――物が倒れる？音、何かを殴打する音が数十秒続き、静かになる

（長）カワダさん！　……おい、警察！　警察に連絡して！　この住所に行ってくれって……　カワダさん！　大丈夫ですか！　カワダさん！

――長谷川氏がカワダ氏に呼びかける音声がしばらく続き――音声は途切れている