この会社は実在しません

ヨシモトミネ

◆この作品について

 ある日、勤め先の書庫で資料整理をしていた私は、奇妙なダンボールの箱を発見しました。

 

 しっかりとガムテープで封をされており、赤字で「開封厳禁」と書かれたコピー用紙が何枚も貼り付けられています。埃の積もり方からして、そんなに古いものではなさそうでした。

 

 機密書類の類は、まだ必要なものは施錠できる専用の保管庫に保管し、不要なものなら速やかにシュレッダーで廃棄する決まりです。量が多いものは廃棄業者に回収してもらいます。

 こんな状態で放置されていることには違和感しかありせんでした。場所も取りますし。


 少し迷いましたが、ガムテープの封印を解いて中身をあらためました。内容によっては廃棄申請をしようと、真面目なことを考えてのことです。

 ――好奇心が少しでもなかったとは、言えないのですが。


 ダンボール箱の中には、几帳面にファイリングされた書類たち、そして、USBメモリがひとつ入っていました。

 

 その場でファイルをパラパラとめくり、すぐにその内容の異様さに気づきました

 私は少し迷いましたが、そのファイルとUSBを箱から取り出して、こっそり家に持ち帰ることにしました。

 

 私は学生の頃から趣味で小説を書き、それをWEBサイトにアップしています。書いているのは女性向けの異世界ファンタジーですが、自分で読むのはホラー小説がほとんどです。

 

 私はホラーが好きです。――しかし、好きすぎて書けない、とでも言うのでしょうか。いざ自分が筆を執ると、どれだけ筆を尽くしても陳腐な表現になってしまうのです。 

 それでもやはり。一度くらいは自分も、身も凍るような怖い話を書いてみたい。という願望は以前からありました。

 

 ――この資料の中身は、そのヒントになるのではないか、という下心が芽生えたのです。


 帰宅して自宅のノートパソコンにUSBをつなぎ、中身を見てみました。保存されていたのは、音声や動画ファイルが中心でしたが、これも書類と同様に異様なものばかりでした。


 以下にまとめていく文章は、箱の中身に入っていた資料(紙、音声、動画諸々あります)を文字起こししたものです。

 会社の事業に関する機密情報などは含みません。ただ――とても、異様なだけで。


 なお、当然ながら会社名は伏せます。また、登場する人物名は全て仮名としておりますのでご了承ください。


 弊社と私に対するご詮索はおやめください。

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