夕闇に酔う鬼宿り
03
第一章
第1話 紅鬼
私にはある疑問がある。
人は霊とかあやかしとか信じるものなのか?
私は信じていない。信じていなかった。
だってこの世界はすべて形あるもので作られているのだから。当然のことでしょ?
だから、霊やあやかし、そういう
私はそう思う。そう言える。言えるはずだった。
でも私は言えなくなってしまった。
“
学校終わり、放課後。
太陽は隠れ、とっぷりと夜の闇に浸かった校舎。
誰一人としていない暗い教室。
そこである怪物は現れた。
血濡れの刀。ポタポタと紅い血を滴らせ、私の目の前に現れた。
次の瞬間、刀はひとりでに動き出し、私の腹を貫いた。一瞬の出来事。白かったシャツはみるみるうちに赤く染まっていく。
私の身体の中に異物が入り込んだ感覚。痛い。痛い。痛い。痛かった。血が大量に流れた。
朦朧とした意識の中、私はそのまま倒れた。
目を覚ました時は、何事もなかったように見回りの警備員が立っていた。
床に血痕は無く、あの刀も無かった。
私がただ床で眠っていただけだったらしい。
貫かれたはずのお腹も元通りになっていて、倒れる前のことが夢でないことを決定づけるものはなにも無かった。
その後は時間も時間だったため、私は強制的に家に帰らされてしまった。
あの時の事が頭から離れない。考えないようにしてるのに何度も頭の中でちらつく。おまけに目も赤くなってきた。幻覚? いや幻覚じゃない。
薄々感じてはいたのだ。あれが現実だと。
自分の感覚は自分が一番信じるべきだ。自分の感覚が現実だと告げているのだから、あれは現実だ。
しかし、非現実的。本当に何だったのか。
それからすぐに私はあれの正体を知ることになる。
ある男が言った、あれは"
◆
今日は悪い日だった。
私は家から歩いて一時間の高校に通っている。
学校では至って普通の生徒。優等生でもなければさして不良でもない。
しかし昼休み、私は生徒指導室に呼び出されていた。
「その・・・・・・先生としてもこういうことは言いたくないんだけど、校則にあることだから、カラーコンタクトはしちゃだめよ。
至って普通の生徒。可もなければ不可もない。
ある意味そういうのを真面目な生徒というのかもしれない。
じゃあなぜ生徒指導室にいるのか。
答えは簡単、私の目が赤いから。冗談じゃない。本気で赤い。
別にカラーコンタクトをしてるわけではない。自然の色だ。漫画とかでしか見たことが無いが、しかし天然の色。
「・・・・・・先生、これを見てもらってもいいですか」
地毛ならぬ。地色を証明する紙。
一昨日病院に行って医者に診てもらった。そこで天然の色ということが動かざる事実だと発覚した。
「あ・・・・・・あら、本当にカラーコンタクトじゃないのね」
「はい」
「うーん、ならいいのだけれど・・・・・・」
先生の言いたいことはわかる。もともと茶色目、もしくは黒目だった人間が、急に赤色に変わるなんてことは早々ないだろう。というか絶対にない。
私のこれは明らかに異常だ。もはや天然でない方がよっぽど自然。自然・・・・・・そう、自然なのだ。
この目は私がアレに取り憑かれたことを如実に表している。
「とりあえず、もう教室に戻っていいですか?」
「あっ、えぇ。ごめんなさいね、疑いをかけてしまって・・・・・・」
「いえ、大丈夫です」
私は生徒指導室を出た。
先生の疑いは普通のことだ。明らかに私がおかしいだけ。おかしいことを自分で自覚しておいて、それを話さない私自身もおかしい。
どうやら私は、普通の生徒ではなかったようだ。
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