第35話 恋敵(ライバル)達
☘安祐美side & 愛side
私は顔面蒼白で額に油汗を滲ませて落したトロフィーを無視して、愛にメッセージを送る
『愛、試合は?準決勝どうなったの!?』
直ぐに既読が付かない・・・私は焦っている・・チームメイトが私の様子に違和感を感じ察してくれたのかトロフィーを拾ってくれて私のバッグの上に戻してくれた
お礼を言う余裕が無い・・スマホの画面を見つめる・・・
『5回コールドって・・織田君に何かあったの?』
相変わらず既読にならない・・・私は焦る・・・(愛・・早く返事して!!)
『愛!!お願い返事して!!』
それから結局地元の最寄り駅に着いても既読にならない・・・私は心配してくれるチームメイトに「お疲れ――」と挨拶して別れると家の近くの公園で愛からの返事を待つ片手にはスマホ、反対には信一君の財布・・
【ピコン】!?メッセージの受信音に反応する
『試合は残念だったけど負けたわ』
愛のメッセージに反応する
『今日、織田君が投げたんだよね、彼に何かあったの?』
『ごめん、その事はまた説明するけど信一は試合後そのまま病院に搬送されて私も付き添いで今病院なの』
頭が真っ白になる・・・織田君が病院・・・私のせい?私が彼を走って向かわせたから?・・・それなのに私は自分が勝ったって喜んで・・・
ただ後悔と自分への怒りで涙が溢れてくる・・・
後に人伝に聞いた、決勝直前に球場入りした織田君は全身汗だくで顔色も悪くとても試合に出れる状況では無かったらしい、しかし決勝の5回を同点で迎える
大和中の3年生ピッチャーの投じた初球は見事に弾き返えされ運悪く3年の投手の頭に直撃してしまってそのまま昏倒して倒れた先輩の後に登板する
周りの心配の声を笑顔で「大丈夫」と答えジュニアの日本代表選抜投手として相手に警戒されながらマウンドに上がった信一君は、3アウトを取れないまま50球以上を投げ込み1回10失点でチームはコールド負け
MAX148㌔を誇る自慢のストレートも最初の1球だけであとは110㌔も出てなかったらしい、彼は極度の疲労と脱水症状の上、なんと利き腕の右肩を脱臼してたらしい
試合後すぐに救急車で近くの病院に搬送され、手早く処置してもらったがその後、彼が中学生の間でもう一度マウンドに立つことは無かった
☘優side & 安祐美side
「安祐美さんの話しも詳しく聞いたの初めてです、怪我した時も信ちゃんは何も言わないし・・・」
「でも、その時の信一君を支えたのは間違いなく愛だった・・・私には何も出来ない・・何かする資格もない・・そう思ってこの気持ちに蓋をした」
「私もです・・その時自分がどれだけ子供だったか・・・今では分かります・・お姉ちゃんを羨ましがるだけで自分から行動できない・・本当に子供でした」
優は俯き、安祐美は相変わらず空を見上げる
「それでも、好きって気持ちは無くならない、躊躇った事をずっと後悔していた・・」
「そんな私が見ていたのは二人の背中では無く二人の間・・・二人の距離・・心の何処かでその隙間が大きくなれば・・・隙間に私が入る事が出来れば・・って考える事が増えて行った」
「親友の恋路を表面では応援してて、心の奥底では別れて欲しいって思ってる自分が居て、本当にそんな自分が嫌いだった」
優は心配そうに安祐美を見つめそして俯きながら呟く
「そ、そんなの・・・私も・・・同じです・・」
そんな事を力なく呟く優に視線を送る事も無く空を見上げ笑い飛ばす
「あははっは、でも、私分かったの、昨日愛から別れたって話を聞いて」
「分かった?」
「ええ、私は自分が愛に劣ってるって感じたから、信一君を諦めたんじゃないって・・・」
その言葉に優も強く頷く
「信ちゃんの幸せな笑顔をいつも見て居たいから、自分の気持ちを胸に押し込めてでも、お姉ちゃんを応援してた」
(やはり・・・この子も・・私と同じ事を感じていたのね・・)
「でも、愛は信一君の笑顔を守れなかった・・・いえ笑顔に出来なくなった・・だったら私が信一君を幸せにする」
「なるほど・・・安祐美さんの覚悟・・分かりました・・その想いの強さも」
優はスクっと立ち上がると私に向かって手を差し出す
「私正直言ってお姉ちゃん以外は敵じゃ無いって思ってました、でも安祐美さんは手ごわい恋敵と認識を改めました」
私はベンチから立ち上がるとその手を取り握手する
「ふふ、それは私の台詞よ、まぁ勝つのは私だけどね♪」
そんな朝の校庭の脇で交わされる女としての想いを正々堂々とぶつける二人に
「へぇ・・・面白いじゃない私も混ぜて貰おうかしら」
校舎の脇から現れたのは・・・
「美空先輩・・・」「これで役者が揃った訳ね・・・」
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