第23話 美しき先輩 美空 雀

♠信一side



商店街の古本屋で同じ本を手に取ろうとした女性は学校の先輩だった


「美空先輩?・・・御無沙汰してます・・」




美空 雀(すずめ):大和高等学校 3年 美術部部長 琥珀色の瞳と茶色がかったウーブの長い髪が特徴の落ち着いた雰囲気を持つ美女、その琥珀色の大きく美しい瞳は彼女の性格の通り優しく輝く


大企業の社長令嬢でもある彼女は美術だけでなく茶道に華道、書道にも精通しており、中学時代は愛と二人で都内のコンクールで数多の作品が入賞していた


身長こそ平均的だが、その抜群のプロポーションも相まって学校内では石川さんと人気を二分する美女だ、実際、優や市江の居る今の1年が入学する迄は、愛も入れて大和高3大美女の一角だった


実は彼女と顔を合わすのは気まずくて学校でも極力出会わない様に気を付けていた・・・・


「信一君こそ、高校では野球を辞めてしまったみたいだね、あの大会は本当に残念だったね」


「・・・その事はもう・・終わった事ですから・・」


「そうか・・すまない・・配慮が足りなかったね」


「いえ・・・折角、美空先輩達美術部の方が作ってくれた応援のタペストリーを全国に連れていけなくて申し訳ありません・・」


「ふふ、それこそ終わった事だよ、地方の大会の間だけでも皆の応援になったなら本望だよ」


「それはそうと、愛・・彼女さんは今日は一緒じゃないのかい?」


「・・・・・そ、そうですね・・」


「ん?どうした?なんか悩みが有るなら聞こう」


美空先輩の押しに負けて、近くの喫茶店で話をする事になった


「先輩その本、結局買ったんですね」


雀の座るテーブルの横には先ほどの古本屋で購入した中世ヨーロッパの古城特集が置かれている


「ああ、今絵の題材を探していてね・・高校最後の思い出に自分の想いを込めた、今までで最高の作品を描きたいと思って色々と模索中なんだよ」


「なるほど、流石先輩、その情熱は本当に素晴らしいです」


「まぁ今は私の事は良いから、信一君の悩みを聞こうじゃないか」


「そうですね・・実は俺と愛は昨日別れまして・・【ガシャッン!!】先輩!?」


先輩は俺の話しを聞く前に驚いた表情のまま固まって口に運ぼうとしていたコーヒーカップを床に落した


「す、すいませぇぇぇん」


店員を呼び、落して割れたカップを片付けて貰ってる間も先輩は固まったまま動かない、俺は片づけてくれた店員さんに何度もお礼を言いもう一杯コーヒーを注文した


「先輩―—っ」雀目の前で手を振ってみるが瞳孔が開いたままだ


「お待たせしました~ブレンドコーヒーで【ドッン!!】「きゃあぁぁ」【ガシャッン!】」


「どういうことだぁぁ!!」


せっかく店員さんが持って来たコーヒーは先輩がテーブルを思いっきり叩いた振動でひっくり返り無残にもテーブルの上に湯気を上げながら零れて床に垂れ落ちる


「も、も、申し訳ございませんお客様!!」店員さんは再び零れたコーヒーをふき取り倒れたカップをトレーに戻し何度も頭を下げて謝っていた


「ち、違うんです、店員さんは何も悪くありません!!お代はお支払いするので・・・片づけお願いします」


店員さんは最後まで申し訳なさそうしながらカップを片付けて下がって行った


「先輩落ち着きましたか?」


「す、すまない・・私とした事が取り乱したね」先輩は見るからに肩を落として反省してる様だ


「いえ、僕も話の入り方に配慮が足りませんでした」


「全く・・君は何時もそうやって・・・まぁいい、で?」


「で?」


「いやいや、なんで愛と別れたんだって話ぃ!」


「そうですね、実は愛と最近上手く行ってなかったんです、二人の会話も二人の時間も無くて、でもそれが寂しいとか悲しいとか感じなかったんですよね・・でも・・ある人にもう別れた方がいいって背中を押してもらって」


「ある人?」


「ええ、実はオンラインゲームで知り合った人で実際に会った事も見たことも無い人なんですが、顔が見えないから安心という事も有って色々相談していたんです」


「なるほど・・でも信一君がそう決断した切っ掛けが有るんだろ?」


「そうですね・・実は前々から関係の在り方に疑問は持ってました、でもこの間、久しぶりに愛の家に寄ろうとして玄関を開けて俺を招きいれる時に見せた愛の困った様な表情が決め手と言えば決め手ですかね」


「そうなんだ・・でも部屋が散らかってるとか、見られたく無いものが置いてあるからとか、愛の方にも事情が有ったんじゃないかな?」


「そうだと、俺も思います・・ですがそれは俺が恋人だから困るんですよ、もし俺が幼馴染のままなら、『散らかってるから勝手に変なもの見ないでよ!』とか、そういう言い方が出来る距離感で居れたはずなんです」


「・・・・・確かに・・君の言う通りだと思う」


「その時思ったんです、愛を困らせてまで恋人を続けるより元の幼馴染に戻って接した方がお互いに幸せで居れるんじゃないかな?って」


「で、愛も同意したと・・・・」


「ええ、愛の方も僕とほぼ同じ様な気持ちで居たみたいで、すんなり元の幼馴染戻るという事で話も済みました」


「そう・・・か・・・しかし私としては、少しショックだな、私でも君らの間に割り込めなかったのに顔も知らないネットの友人にあっさりやってのけられるとはな・・」


「・・・・」


「私も自分が人より容姿やスタイルが優れてる自覚はあるし、その為の努力も惜しんだことはない」


「そうですね・・先輩は当時から凄くモテてましたし」


「と、言うが、私が人生で唯一好意をいだいて、本気で付き合って欲しいとお願いした君にはあっさりフラれたがな」


「・・・・その・・その節は申し訳ありません・・」


「・・・まぁいいよ・・過ぎた事だし当時は私もショックで落ち込んだが、知らなかったとは言え相手があの瀬川 愛となると確かに分が悪かったかもしれない」


「!?」


先輩は妖艶な笑みを見せながらそっと俺の手に自分の手を重ね、人差し指を動かし俺の手の甲をなぞる


「でも、これはチャンスかもしれないね・・・」


「先輩?」


「信一君は、私以外にこの事を話したかい?」先輩の目つきが若干鋭くなる・・


「はい、家族と・・あとサッカー部の武田 勝に朝、話しました・・・」


すこし考えるそぶりを見せてから、なにか納得したように頷くと


「話は分かった、君の悩みの解決には、きっと私の力が必要になるから此れからも、こうして二人で会う様にしよう」


優しく微笑む先輩に一瞬、ドキッとした・・


「分かりました・・ではまたこうして相談させて下さい」そう言い先輩と連絡先を交換して会計を済ませ店の前で先輩と別れた



(信一君、私は最高の題材を見つけたよ・・この恋愛は高校生活の最後に相応しく私の全力の想いを込めた最高の作品にする事を約束するよ♡)

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