第21話 親友達の密談

♦安祐美side & 勝side




安祐美はスマホでとある人物に密かにメッセージを送る


返事は思ったより早く返ってくる


『取り合えず昼休憩、部活用具室で落ち合おう』


『了解』


そして昼休み、後ろの席の愛が声を掛けたそうにしていたが敢えて気付かないフリして教室を後にした


用具室は部活で使う用具の予備を保管しておく為の部屋だ


「私の方が先かと思ったけど・・」


「ああ、俺は意外と人気者だから昼休み前にトイレって言って抜けてここで待ってた」


「人気者が聞いて呆れるわね・・・武田君・・」


「急に俺に連絡を寄越したって事は、愛ちゃんと信一の事だよな?」


「ええ、その反応からすると武田君はもう知ってるのよね?」


「ああ、今朝信一と少し揉めた時に偶然にな・・」


「石川もか?」


「ええ、私は朝、教室で愛から聞いたわ」


「それで?俺に話というのは?」


「そうね・・・時間も無いし単刀直入に言うわ、私は信一君が好きなの、だから愛が手放した事を、後悔する前に私が信一君と付き合える様に協力して欲しいの」


「へぇ・・・男子の間で噂になってた石川の片思いの相手って信一の事だったのか」


「私は噂なんか興味ないし、他の男子にも興味ない・・・私が欲しいのは信一君だけ」


「なるほど・・・ライバルになりそうな女子に二人が別れた事を気付かれる前に行動に移したいと?」


「話が早くて助かるわ」


「で?俺に見返りは?」


「そう言うと思ったわ、見返りは貴方と愛が付き合える様に協力するってのはどう?」


「・・・・・・・・俺がその提案を受けると?」


「ええ、女の感ね、あなたが信一と絡む時にたまに向ける愛への表情からそう感じただけよ?」


「へぇぇ―――」


「まぁ違ってても構わないわ、例え貴方の協力が無くても私は信一君にアプローチする」


「石川が信一にそこまで入れ込む理由は・・中学の大会の件・・・」


「私の事への詮索は無意味よ、私が信一君を好きな理由をあなたに話ても意味はない」


「・・・・確かにな・・」


「で、どうなの?受けるの?受けないの?」


「・・・石川、もうひとつ聞かせてくれ・・お前は愛ちゃんの親友か?」


「ええ、そのつもりよ?」


「だけど、今親友の彼氏を奪いに行こうとしてる」


「違うわね、元彼氏よ私は愛の親友としてこの気持ちを2年以上胸に秘めて来た、決して報われない恋心だと判っていても消せなかった・・・」


「そんな時、親友がその彼氏を手放した・・・そこに遠慮出来る程私の気持ちは軽くないの・・誰が相手でも蹴散らして信一君の心も体も私が手に入れる」


「・・・覚悟か・・・」


「覚悟?そんな生易しい感情じゃない、これは動物としての本能よ愛した異性を手に入れる為の・・その感情に男も女も無いわ」


「まぁ貴方に強制はしない、親友との友情も大事・・・これ以上話しても無駄な様ね・・貴重な時間を潰してしまってゴメンなさいそれじゃ」


安祐美がそう言い用具室から出ようと振り返ると


「まてっ!・・・その話・・受けよう・・・」


勝のいつに無く力の無い返事に、無表情で振り返る安祐美


「そう、これでお互い契約成立ね」


「ああ・・・」


二人は狭い用具室で握手を交わす


「お互い行動をどうするかは後で相談するとして、当人以外の目先のライバルね・・・」


「そうだな・・・二人が別れたと知って愛と信一にアプローチしそうな連中と言うと・・・・」


「まず、愛の方は上杉先輩ね」


「上杉 誠也か・・確か中学時代、信一が入ってた野球部の先輩で高校でも中学同様キャプテンで正捕手だったな」


「ええ、愛も中学時代は美術部の合間で時間有る時は野球部のマネージャーの手伝いもして、その時に一度だけ上杉先輩に告白されたって聞いた事があった」


「あ、その噂本当だったんだ・・・その時はアッサリ愛ちゃんにフラれったって」


「そう、当時はまだ信一君と付き合っては無かったけど、意識はしてたみたいね」


「あと、信一君にちょっかいかけそうなのは美術部の美空 雀 先輩かしら」


「ああ、確か愛ちゃんの先輩で、当時いくつも都のコンクールで入賞してた愛ちゃんを一方的にライバル視していて、付き合い始めた彼氏の信一を奪おうと告白したけど見事に玉砕したって、それも噂になったよな」


「まぁ・・・真実は違うけど・・本人が何も言わないのだからそう言う事にしときましょう」


「なんだよ勿体ぶって・・でも今思うと、上杉先輩も美空先輩もスゲースペック高いのにその両方が玉砕したって噂があったから、信一と愛ちゃんの間に割り込もうって連中が現れなかったんだよな」


「・・・武田君は鋭いのか鈍いのか分からないわね・・・」


「いずれにしても、先に動かないと手遅れになる、お互いに作戦を練りましょう」


「ああ、そうだな・・取り合えず俺達は部活があるから休日に信一を連れ出して石川と引き合わせるか・・」


「無難ね・・最初はそれで行きましょう、私の方も愛を連れ出す方法探してみる」






こうして長い密談を終え、二つの秘めた想いが親友への配慮と言う枷を失い止まらない風となって舞い踊る



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