第15話 家族への報告と後戻り出来ない運命

♠信一side



食事を終えリビングには俺と片づけをしている市江と母さんだけだ、父さんは未だ仕事から帰って来てない


「なぁ、二人とも・・・少し話が有るんだがいいかな?」


俺のいつに無く真剣な雰囲気に母さんと市江はお互いに顔を見合わせてエプロンを外してリビングのテーブルに着く


「なぁにぃ?改まって」「おにぃ、今朝から様子おかしいよ?学校で何かあったの?」


「実は、今日、愛と別れた」


「「ええええ!?」」


「ちょっ、ちょっと待って!」「はぁ~?なにしてんのおにぃ」


「少し待って・・・落ち着くし・・・はーすーはーすー」


母さんは胸を押さえて深呼吸をしてる、俺は表情を崩さず話を続ける


「最初に言っておくけど、どっちかが浮気したから別れたとか喧嘩したから別れたとかじゃないからな、その証拠に別れても元の幼馴染として仲良くするし」


「じゃぁ何で別れるの?愛姉の事が嫌いになったの?」


俺は黙って首を振る


「実はこの1年位だけど愛とはあまり上手く行って無かったんだ・・会話も殆ど無いし、二人で出かける事も無くなったし、倦怠期というのかな・・」


俺はスマホのメッセージを二人に見せた、今日送ったメッセージ『あ、ああ』のメッセージが約半年前でその前が『お母さんに伝えとく』の一言だけ


二人は俺と愛とのメッセージ履歴の最後の方を見ながら黙ってしまった


「俺も悩んでいたよ?愛の事は別に嫌いじゃないし、むしろ好きだよ?でもそれってこの世で一番好きな人か?と言われたら即答で答えられないんだよね」


「多分だけど、愛の方も同じ様な気持ちだったんじゃないかな?なまじお互い知りすぎててお互いの事に興味を持てなくなったんだと思う・・」


「・・・・・・・そんな・・・じゃ優とも・・・」


「優?さっきも言ったけど円満に別れたから今後は幼馴染として仲良くするし、勿論、優とも今まで通り仲良くするさ」


「・・・今まで通り・・・ね・・・そう上手くいくかな・・」


「そう・・確かに瀬川家とは昔からの付き合いで家族ぐるみの親交もあるけど、その事で信一と愛ちゃんの気持ちを縛る訳には行かないのね・・・」


「おにぃと愛姉二人の事だから、私達が口を挟むべきじゃないのは分かるけど、学校や回りで広まったら多分とんでも無い事になるから、そこは覚悟はしておいてね」


母さんは折を見て愛のお母さんとも話してみると言って片づけに戻った、市江は友達とメールするからと部屋に戻っていった


俺もスマホでゲームアプリを立ち上げラブにメッセージを入れる


『ラブ、今日彼女と別れたよ、その事を家族に説明しててログインできそうも無いから、また明日報告するね』


直ぐに既読にはならなかったが、愛との関係に区切りを付け気持ちが楽になったり、家族への報告で緊張したりで精神的に疲れてしまったのでゆっくり湯船に浸かりリフレッシュする事にした。




♡愛side



出張で来週一杯帰って来ないお父さんが不在だがリビングのソファーに瀬川家の女性3人が顔を見合して座ってる


「愛、どうしたの?急に話があるって・・」


「・・・・・もしかして・・信ちゃんの事?」


流石にこの間の夜の会話で優は何か察してる様だ、私は静かに頷く


「え?え?何?お母さん全く分からないんだけど?信ちゃんがどうかしたの?」


「今日、信一と別れたの」


私の言葉に一瞬でリビングが静まる・・・テーブルに置いてあるアイスコーヒーの氷が解けて崩れる音が合図になるまで、どのくらいの時間静寂が続いただろう?


「え?愛?別れたって?恋人を辞めるって事!?」


「・・・・お姉ちゃん・・・冗談・・・・だよね?・・・信ちゃんと別れるなんて・・」


当然の反応だろう、もう十何年もお互いの家に行き来してここ一年位は信一が家に来ることが無くなったとは言えお母さんもお父さんも息子の様に信一を可愛がっていた


両手で目元を覆い項垂れる優を見つめる、優に至っては信一に対して幼馴染として以上の気持ちを抱いてる様だった、私がその事に気付いたのは私達が付き合いだして1年目のデートに出かけるのに、カラーリップを切らしていて優に借りに部屋に行くと


明らかに目を赤く腫らし、無理やり笑顔を作る優の姿があった

私が「リップを貸して」とお願いすると「ちょっとまって」と立ち上がった妹の座ってた足元のクッションの隙間に信一と優の二人で写った昔の写真が挟まっていた


「はい、お姉ちゃん!これで信ちゃんとのデート頑張ってきてね♪」無理やり元気な笑顔で私を送り出した



そんな一途に信一への想いを胸に秘めていた妹は今どんな気持ちだろう・・・


「この間、優に言われた事・・あれ図星だったの」


「私?私が何か言ったからなの!?ゴメンなさい!!お姉ちゃん達の邪魔をするつもりなんか無くて・・・私の余計な一言で・・二人が・・」


「違う!優に指摘された通り・・・信一とは最近上手く行って無かったの・・殆ど会話も無いし二人で出かける事も、それこそメッセージのやり取りも・・こんな状態で恋人だって言えるのかな?って思う様になって・・」


「そ、そんなぁ・・・二人はあんなにお似合いだったのに・・・私の自慢の・・うっううう」


「優・・・お姉ちゃんも貴方もまだ高校生・・子供と大人の境目で昔から仲の良かった男の子を好きになって一緒に居る時間が長くなるうちに気持ちが変わる事だって珍しくないわ・・」


お母さんが優の横に座り直して肩を抱いて慰める


「私は別に信一を嫌いになった訳じゃないし、今でも好きよ?でも、恋人として好きなのか・・判らなくなったの・・だから二人で話して元の幼馴染に戻ろうって、そう決めたの・・」


「愛・・貴方はそれで良いの?もしかしたら信ちゃんに好きな人が出来て、幼馴染よりそっちを優先する事になるかもしれないのよ?」


その母の言葉に優はビクっと肩を揺らす、母は心配そうに私を見つめる


「ええ、その時は信一の新しい恋を応援するつもり・・信一もそう言ってくれた・・恋人として支え合う関係では無くなったけど、幼馴染として応援する関係は続けるつもり・・」


「嫌・・・いや・・・私は絶対に嫌ぁ!!」


優はそう叫ぶと勢い良く立ち上がり、あの日の様に赤く腫れあがった目で私を睨み付ける


「もうお姉ちゃんに信ちゃんを任せて置けない!!信ちゃんは私が支える!」


「ちょ、ちょっと優・・・お姉ちゃんだって・・悩んで・・」


優の袖を引っ張り宥める母に向かって私は目を瞑り小さく首を振る


「そう・・私はもう信一の彼女じゃない・・優の事を邪魔する気も資格もない・・だから・・」


「お姉ちゃんと信ちゃんは本当にお似合いで、二人は私の理想だった、でも私のこの恋心はそんな気持ちと関係無くずっとこの胸に居続けた!」


そう自分の胸に手を充てる


「え?優・・貴方まさか!?」「うん・・知ってた・・・」「え?愛?知ってたって・・?」


「私が信ちゃんを幸せにする!もう誰にも邪魔させない、勿論お姉ちゃんにも」


「・・・・・・・・」


そう言うと優はリビングから立ち去ろうとするが、入口で此方を振り返り私を横目で見ながら告げる


「お姉ちゃんは解ってない・・信ちゃんほど優しくて誠実でお姉ちゃんの事を想ってる人・・・他に居ない事・・でももう遅い・・後で後悔すると良い・・」


その背中には、女としての強い意志を感じた


母と私はそんな妹の背中を見つめる事しかできなかった



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