マナアレルギー
公園は閑散としていた。
時間帯もあるだろうが、最近夜は冷えるからそれも原因かもしれない。
公園と言っても遊具なんてほとんどなくて、ただの空き地って感じだ。
ベンチに二人で腰かけた。
「さて、なんの話だったっけ?」
「シラネさんが一体何者なのかということについてです」
「何者とか言われてもなぁ」
「Sランクダンジョンのモンスターに圧勝するBランクの冒険者というのはやっぱりどう考えてもおかしいです。じ、実は人間ではないとかですか……?」
「ハハ。なんだそれ。普通に人間だよ。まぁ確かに俺みたいなのは珍しいかもしれないけどさ。でも、俺はリーダーが思ってるほど強いわけじゃないよ。リーダーはさっき圧勝って言ったけど、牛肉戦士とは相性が最高だから簡単に勝てたってだけで、他のやつじゃあんな風にはいかない」
「えっと。僕のことはもうリーダーって呼ばなくていいですよ」
リーダーは照れ笑いを浮かべながらそう言った。
「あ、確かに。俺もうパーティーメンバーじゃないもんな」
「トウゲンって気軽に呼んでください」
「おっけー」
リーダー改めトウゲンは
「脱線しちゃったので話を戻しますけど、牛肉戦士……カウボーイと相性が最高というのはどういうことですか?」
と訊いてきた。
俺はちょっとうんざりしながら答えた。
「何回か言ったけど、俺マナアレルギーなんだよ」
トウゲンはポカンとした。
「え……。それはだって、なにかしらの意図があっておっしゃっていた嘘ですよね?」
「それが嘘じゃないんだなぁ。マナアレルギー……っていうか魔法アレルギー? なんかその辺の話は難しいから俺にもよく分かってないんだけどさ、俺って魔法攻撃食らったら咳が出たり目が痒くなったりするんだよ」
「……聞いたことのない症状です」
トウゲンは信じられないというように顎に手をやって眉間にしわを寄せた。
「マジで珍しいからな。さっき言ったのは軽い症状だけど、食らい過ぎると呼吸困難になったりすんの。だから魔法を使うやつとは相性が悪い。逆に言えば牛肉戦士みたいなのはめちゃくちゃ相性がいいんだよ。あんなモンスター滅多にいないけどな」
「今回は偶然カウボーイが相手だったから簡単に勝てたと」
「そうそう。マジ運良かったよなぁ」
「じゃあもし僕たちが遭遇したのが魔法を使うモンスターだったら……」
トウゲンはブルブルと身震いした。
「ははは。舐めてもらっちゃ困るなぁ。大概のモンスターには勝ってみせるさ。流石に魔王とかは無理だけど」
トウゲンはしばらく黙り込んで、急に何か思いついたように訊いてきた。
「ちょっと待ってください。やっぱりおかしいですよ。マナがアレルギーなら体内のマナについては一体どうなるんです?」
「いい着眼点だなぁ。そうなのよ。人体にはマナが流れてる。よく知らないけど、その辺に漂ってるマナを取り込んだり体内で生成したりするんだろ?」
「そうです」
今更だけど、さっきから言ってるマナっていうのは魔法の元みたいなもんだ。
俺もよく分からんから詳しくは説明できないけど。
トウゲンは真剣な顔で言った。
「呼吸しただけでも大気中のマナを取り込んでしまいます。マナがアレルギーなんて生きていることすらできないはずです」
疑われてるなぁ。
信じてくれないなら別にそれでいい……というよりむしろそっちの方が俺としては都合がいいのだが、まぁここまで来たらちゃんと答えてあげよう。
「えーっとね。説明がダルいんだけど、マナにも種類があるのよ。そこら辺に漂ってる自然のマナ。人間やらモンスターやらが自然のマナを取り込んだり体内で生成したりしたマナ。仮に前者を自然的マナ、後者を生物的マナと呼ぼう。まぁもっと細かく分けることもできるらしいけど、とりあえずこの二つがあると思ってくれ」
「はい」
「俺がアレルギー持ってるのは生物的マナ。自然的マナに対してのアレルギーは持ってない。だから呼吸でアレルギー反応が起こったりはしない」
「そ、それでも体内に取り込んではいるんですよね?」
「うん」
「だったら取り込んだ時点では自然的マナでも、体内で生物的マナに変化するのでは?」
「そこなのよ。まさにそこが肝心なの。俺は生まれつき自然的マナを取り込む器官が無い」
「それはつまり……マナを取り込めないってことですか?」
「取り込めないってか、取り込んでもそれを吸収して生物的マナに変換する器官がないから、そのまま放出される。呼吸の場合だったら、息を吸う時に空気と一緒に肺に取り込んだマナが息を吐く時にそのまま出て行っちゃうの」
「……」
トウゲンは口を『え』の形にしたまま絶句していた。
「ついでにマナを生成する器官も無い。だから俺は生きている。……マナアレルギーっていうもの自体も少ないんだけど、それで生きてる人が極端に少ないのは俺みたいに特殊な条件で生まれてこないといけないからだ。赤ん坊が原因不明の死を遂げた時、実はマナアレルギーで自分のマナで死んじゃってたってことがたまにあるらしい。っていうかマナアレルギーを持って生まれちゃったやつは大体生まれてすぐ死んじゃう。俺は本当に珍しい事例」
「そんな恐ろしいアレルギーがあったんですね……知りませんでした」
「まぁ無理もないさ。症状を持った人間なんて普通身近にいないだろうし」
トウゲンは自分を納得させるように何度か頷いた後、また何かに気づいたように訊いてきた。
「あれ? だったら魔法を使う時はどうするんですか?」
「俺は魔法使えないよ」
「……え?」
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