第5ー2話 俺はギルド職員のはずだろぉぉぉぉ!
ギルマスは受付裏にある棚をあさり始めた。
上段中段下段と、くまなくあさり何かを探しているようだが、ケツが半分出ているのには気づいてないのか。
女性3人からは受付台に隠れて見えてないだろうが、俺にはバッチリ見えてんだ。
きったねえおっさんの尻が……。
呆れ顔でギルマスの手元を見てると、とある引き出しから色々と掘り出していた。
なんかの書類やら、ペンやら、コインやら、ディ……?
なんでそんなもんがここにあんだよッ!寝室においてこい!
「こんなとこにあったか。アイシャ!今晩使うぜ!」
「あいよ」
ディ……を投げるな。
消しゴムの貸し借りじゃねえんだよ!
ちょっと隠すとか、恥ずかしそうにするとかないのかね。
チラリと女性たちの反応をうかがうと、意外にも、みんな落ち着いていた。
たぶん、なにか分かってないのかも。
レイアはそもそも見たことないだろうし、アドミラは…よく分からん。興味がないって感じだ。
シェリスは逆に、使いすぎて、見慣れてんだろうな。
……終わってらあ。
ヒロイン失格だ。
もっと恥ずかしそうに「キャッ」とか「エッチー」と言ってくれよぉぉ。
ヒロイン役を逃してもいいってのか!
「おおあった。ほれ、この依頼受けてくれや。ゴブリン討伐だから、イケるだろ?」
ギルマスが受付台に乗せたのは、一枚の紙だった。
女性たちは、それを覗き込み、互いに顔を見合わせる。
「どうするみんな」
「私は構わないぴょん」
「私も……シェリスちゃんがいるから、いいよぉ!」
こうして依頼ってのは始まるわけか。
なるほどなあ。なかなか面白い。
今まで見たファンタジーものの、答え合わせをしてるみたいだ
「よーし。じゃあ受諾ってことで……ジュン!おめえも行ってこい。暇だろ」
はあ?ヤだよ。
「え?忙しいです」
「てめえこの野郎。早速、義理を叩き込んでやろうか?」
「……行きます嘘ですごめんなさい」
クソゴリラめ。
拳がデカすぎて怖えよ。
てゆーかさあ、いきなりさあ、ゴブリンてさあ。
マジかよ。
俺に、殺れるのか。
ゴブリン、殺せるのか?
なんだか怖くなってきたー。
ケツがひゅんひゅんしてきたー。
もしも討伐失敗したら、俺はやはり掘られるのだろうか。
あのディ……のようなモノで、貫かれてしまう。
あ、めっちゃ怖い。
「やっぱ――」
「武器がねえのか。だったらほれ」
半ケツのビリガンが、受付の下に潜り込んで引っ張り出したのは、手斧だった。
正直な話、実物は生まれて初めて見た。
押しつけられたので、手に握ってみる。
――悪くない。
日本で模造刀を握った事があったが、あれは見かけによらず重かった。軽く振ったら体が持っていかれたし、ピタリと止めるのが難しかった。
けどこれは、悪くない。
「フッ。馴染んでるじゃねえか。それで頭をかち割ってこいや。ゴブリンなんざ鼻くそみたいなもんよ」
「あの、アドバイスとかは」
「知らねえよ行け!行けば分かるさ!」
「……ぇぇ」
ため息まじりに困った顔をしてみせた。
ギルマスに効果があるとは思えないが、もしかしたらババアの方に効果てきめんの可能性がある。
「あんた、ジュンが困ってるわよ」
「ああ、ったく仕方ねえ。じゃあ受付にいろ!」
というやり取りを期待したわけだが……。
「……」
ジロリと睨んでやがる。
ビリガン夫婦が、示し合わせたように俺を睨んでいる。
ああ、そういうこってすか。
俺は全てを察した。
コイツら、
またヤル気だな!
こっちは貞操と命がかかってるんだぞ!
「おい」
しかも拳を握りしめ、脅してきやがる。
「私が守るぴょん」
「ありがとうねえシェリス。よしよし」
「初任務か、ようやく私の夢が叶う!」
アイツらは、楽しそうだしよお。
充実しててよろしいですなぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!
「はいはい。行けばいいんでしょ。行きますよッ!」
そうして俺たちはギルドを出たわけだが……。
ビリガン夫妻は、俺たちの見送りも早々に引き上げ、奥へと引っ込んでいった。
仲良さそうに。
もういっぺん言おう。
充実しててよろしいですなぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!
――――作者より――――
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