第8話 祈りを侮辱せし愚か者めがッ!

「ジュン。もしかしてきちんと治っていなかったのか?」


「いいや。完璧に治っている」


「だが……腰が曲がっているぞ?」


「ふっ、気にするな。少し暗器が暴れているだけさ」


「大変だなあ。暗器使いも」

(きっと暗器の後遺症だな。何万回も触れてきたと言っていたし)


二人は任務完了報告のため、森を歩いていたが、遅々として進まない。

すべてジュンのせいである。


いや、正確に言えばジュンの息子か。



全然収まらねえよ。

腰蓑にした服がコスコスして、むしろ危ういって。


あーこのままじゃあ、意味もなく果ててしまう。

最悪だ。

歩くだけでイクとか、ゴブリンよりも化け物じみてる。

落ち着け俺。考えるんだ俺。エロとは程遠い、ゴブリンをッ!


ゴブリンの死体――。

割れた脳みそ、だるんだるんの肌――。

臭い口とドロドロのヨダレ――。



クソッ。どうしたんだ息子よ!どうしてそんなにも、駄々をこねるんだ!


「強情な奴め……」


「え?」


俺は仕方なく、瞑想に入ることにした。


「レイア!ちょっとストップ。一度瞑想に入る」


俺は中腰の姿勢から足を大きく開き、息子へと余計な刺激を与えないようにした。

そして、スッと目を閉じ、両の手を合わせ、出来るだけ脳みそに血液が集まるように、前を向く。


俺が頭に思い浮かべるのは、ゴブリンのキモさ一択だ。

ブヨっとした殴り心地、ギィャッという断末魔。

俺は生命を奪った……。

あれ?

このままじゃ俺、ゴブリン殺して興奮してるド変態じゃないか。

いかんいかん。


キモいゴブリン、ゴブリンキモい。

臭くて汚い緑色の小3を殺したんだ……。

悲しいだろう俺よ。

殺すべき命だったとしても、ギンギンにしてる場合じゃないだろう俺よ!


「なるほど。殺生後の祈りか(変わった姿勢だが、宗教のことを茶化すのはよそう)」


レイアがバカで助かる。

あながち間違いでもないし、今は黙っててほしい。

お前のその透き通るような美声が、息子をめざめさせてしまうだろぉぉぉが!


「うわー。ゴブリンがいるよダーリーン♡」

「ふんっ。見るに堪えないな行こうぜ」


「おい見ろ。※※※おっ勃ててやがる」

「もうっ、やめなさいよ」



……あんだ?

遠くからキャッキャした、リア充大学生時代みたいな声が聞こえる。


危険と血と死が満ちる森に参戦てか?

おう、ナメてんなボケが。

ここはなあ!色ボケた猿みたいな、年中発情期の男女が、足を踏み入れていい場所じゃあねんだ!


ガサガサ――。


あれ?どんどん近づいてきてる?


あんな奴らと会話したくねえー。

俺とは完全に対極の人間じゃんよお。やだよー。



早く鎮まれ息子よ!!

ああ、分かっている。

生身の女性を肌で感じてしまったのだ。

お前が取り憑かれてしまうのも分かるぞ。

くそっ。

神主を呼んで地鎮祭ならぬ、地ん鎮祭でも行わねば鎮まる気がしない。


ガサガサ――。


「……やだー見てみて!ゴブリンみたーい」

「おい止めろ失礼だぞ!」


……ゴブリン見たい?

あれ?俺に言ってる?


「なんか臭いわね。あの人もしかして犯されたのかしら」

「だとしたら……ブハハハ。ガバガバになってんじゃね?」


……ブハハハ?

あれ?俺が笑われてる?


あ、ヤバい。

泣きそう。

すごく動悸がする。


あ、やだ。レイア助けて。


「ゲホンッ。そこのお方。ゴブリンを倒されたのでしょう?」


「ああそうだ、私たちが倒した。ところで先程から失礼だぞ。私の仲間を侮辱して、どういうつもりだ!」


レイア……。


「ああ、うちの仲間がすまない。ちょっと浮かれてんだよ。ところでアナタは騎士殿か?」


「い、いやまだ騎士ではない」


「では冒険者?」


「ああそうだ。ビリガン冒険者ギルドの冒険者だ」


ありがとうレイア。

お前って、最高にドジでバカだけど、根はむちゃくちゃ素直でいい奴なんだな。

あとは貞操さえ緩ければ、最高のヒロインだってのに……。


クスクス――。


「ビリガンだって」

「あの腰振りビリガンか?」

「ただの変態でしょ。うけるー」

「弱小も弱小の冒険者ギルドじゃないか」


奴らは笑っていた。

腰振りビリガンを貶された。それは仕方ない。俺だって心の中で何回も貶したからな。

でもなんかムカつくなコイツら。

あの腰振りビリガンは、俺を拾ってくれた、一応恩人だぞ。


「あの人も何してんだろうね」

「祈り……か?変なポーズだ」

「もしかして、掘られて興奮してんのか?」

「あー。勃起してんじゃないのー?」


クスクス――。


ぐふっ。

クソが。だから嫌いなんだよ陽キャは!

簡単に人の心を弄びやがる。

死ね!全陽キャは滅べ!


「あのー、なんで騎士の格好してるんですかー?」

「おい止めろよ。騎士に憧れてるだけだろ」

「女で騎士なんて無理に決まってるじゃーん。うけるー」

「おいおい、そのへんにしとけよ。彼女の顔がひきつってるじゃないか。ハハハ」


レイア……。


「ぐっ。き、貴様ら、人を小馬鹿にして何が楽しいんだ!」


「はあ?キモッ。喋りかけないでくれる?底辺ギルドのクソ冒険者のくせに」


「人をそうやって嘲る者は――」


「あーはいはい。どうせアレでしょ?男に捨てられて仕事がなくて冒険者になった口でしょ?ザマァないわね。だから年増になる前に結婚しなきゃいけないのよ?分かるー?オバさん」


「……私は、まだ」


レイア……。

なんか俺、ムカついてきたよ。


「口を閉じよッ!そこなアバズレ!」


「は、はあ?誰に――」


「貴様なんと言った」


「はあ?オバさんって言ったわよ」


「違うッ!その前だ!」


「……なんて言ったっけ」


仲間なのかセフレなのか彼氏なのか、隣の男とゴニョゴニョ話始めた女は、ようやく俺の欲しい答えを言った。


「勃起でもしてんじゃないのかって言ったわよ。なに?図星なわけ?」


「ふんっ。馬鹿なオナゴだ」


「おい!さっきから俺の女を――」


「大地の神へと心臓を。地平の神へと目を。天の神へと指先に宿る魔力を。そして、創世の神へと全てを捧げるこの祈り。この姿勢を愚弄するかっ!」


中腰なので、心臓は大地に向かっている。

目はつぶってるが、地平を見ている。

合わせた手の指先は空へ、そして……まあ、適当に全身を捧げる。

って感じでこじつけに、こじつけて、この姿勢を説明してみた。


図星過ぎてムカついたから、強い人オーラと、関わってはイケナイ危ない人オーラを放ちながら、威圧できればそれで良し。

のつもりだったのがだ。


「ま、まさか?」


なんか男の方がノリがよくて、俺もついつい調子に乗ってしまう。


「愚かなり。不殺の禁を破りし我が、神々へ許しを請うていたというのに。お主らは笑ったな。勃起でもしてるんじゃね?とか言って。ならばよい。見るか?神々が我に与えし罰を」


「い、いやそれは、やめておく。ちょっと口が過ぎただけだ勘弁してくれ!」


「では去れ!神の怒りがお主らへ向く前に!」


「そ、そうだな、プリッケ冒険者ギルドへ帰ろう!」

「ねえどうしたの?ただ勃起を隠してるだけで――」

「バカ!それ以上言うな!マジでアイツはヤバい!」


そう言って彼らは、プリケツ冒険者ギルドへと帰っていった。

プリッケだったか?まあなんでもいいや。


ふう。頭をフル回転させたから、ポコチンもしぼんできたな。そろそろ行くかね。

中腰の姿勢を解いて、目をパチリと開けると、レイアが驚愕してた。


「ど、どうした?レイア」


まだギンギンなのかと思い、一応確認してみるが大丈夫。ちょっとだけシミがついてるけど、んまあ、これは小便だ。うん。小便。


「ジュン、まさか。お前の宗教って……」


「ん?」


「過度な禁欲で知られ、あの魔王も信仰しているという、雄々しき汝を禁ずる宗教、雄汝禁教オナンキンきょうか?」


「オナき……だと!?そんな卑猥な名、いや、違う。そんな過酷な宗教があるのか!?」


「あるのかってお前がさっき言ってたろ。大地の神、地平の神、天の神、創世の神と。まさに、雄汝禁教オナンキンきょうの信仰する神だ」


「マジかよ」


こうして俺は、オナ禁教……ではなくて、雄汝禁教オナンキンきょうというドM宗教の敬虔なる信者となった。


それに、レイアからの視線に憧れのようなものを感じるのは、なぜだろうか。


「人として君を尊敬するよジュン」


「……あそ」


もう、男とは見られていないようだ。

息子よ。今日はいっぱい遊ぼうな。






――――作者より――――

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