第3ー1話 アドミラ・チェレーブロという狂人

颯爽と受付までやって来たのは、女優のような装いの女性だった。


つばひろの帽子から覗く青い瞳。

うっすらと汗ばんだ額をハンカチで拭う。その腕は、日の光を知らないかのように真っ白で。


「……ぁ」


俺は言葉を失った。

清楚ここに極まれり。まさに体現している。

そして清楚の概念を打ち砕く、たわわな実り。


ああ、最高だ。


何が最高って、ハレンチに感じないのがいい!

誰かを誘惑するような、エロい服じゃないのがいいんだなあ。

あのウサ耳シェリスとは違ってな!


チラリとソファに目を向けると、シェリスはこの女性に釘付けだった。

うんうん。分かるぞ。お前とは違って、陽の側の住人だからな、

お前はどっちかって言うと陰の側。まあ、それが悪いわけではないけども。

人間誰しも、光を求めてしまうじゃない。

実りを求めてしまうじゃない。


「あのぉ」


「……サトウジュンイチ!ジュンと呼んでください!王に召喚されし伝説の勇者で、なんと独身!訳あって今は、このギルドのバイトリーダーです!よろしくお願いします!」


「はあい。私はアドミラ・チェレーブロですぅ。よろしくねジュンさん」


「ジュンでいいですよー。僕はアドミラって――」


「それよりもぉ!私、冒険者になれますぅ?」


「……うんなれるよー!」


冒険者登録証を取り出し、受付に叩きつけた。

余裕だなこの仕事。


あっ!とその前に。

ちゃんと調をしないとな。


「登録にあたって、少し調べる必要があるんだけど――」


「ジューンちゃん!それ、私に任せてくれるぴょん?」


しゃしゃり出てきたのは、シェリスだった。


「え?いや、これはギルド職員の――」


「ジューンちゃーん?いいよね?ぴょん」


ええ?すげぇ圧。

なんでや!なんでアンタがしゃしゃるんだ!

意味が……はっ!


「アドミラちゃん?帽子を取るぴょんね」


「はぁい」


ファサッとなびく髪は、瞳と同じ青だった。

肩にかかるぐらいの長さで、耳にかけるとまた違った表情が見れて最高!なんだけどさ……。


「はあ。すごく可愛いねアドミラたん。こっち見て私の目を見てぴょん。はあ、はあ」


「はぁい。ねえ、お姉さんどうしたの?ハアハアしてるう」


「シェリスって呼んでぴょん。はあ、はあ」


コイツは完全に女好きだ。

顔を赤らめて、はあはあ言いながら、人の髪をなぞる真性の変態だ。


これ止めるべきか?

いやでも、これはこれで見たい。

そうだろ?息子。うん、息子も頷いてらあ。


「それじゃアドミラたん?危ない物持ってないか調べるぴょん」


「はっ。ええ?胸まで触るんですう?」


「はあ、はあ。これが凶器な……凶悪な毒を仕込んでる可能性も捨てきれないぴょん」


……こ、これは見てていいんだろうか。

ちょっと、アレだな。

刺激が強すぎて、ノーハンドでフィニッシュを迎えそうなんですけど。


「そ、それじゃアドミラたん?スカートの中、見させてもらうね?はあ、はあ」


「ええ?それは恥ずかしいですぅ」


「ああ、あのド変態の男に見られるのとどっちがいいの?ほら、私のほうがいいでしょう?同性なんだし、ぴょん。はあ、はあ」


なんでい!人をド変態だ?

おめえも大概でしょうがバカちんがあ!

トレードマークのぴょんも忘れてるしよ。

ハアハアって、興奮しすぎだろ。顔が火照りすぎて、目も潤んでらあ。


……ヤダ。それも可愛い。


ずっとこの光景を見てたいな。

日本なら確実に金が発生してたはず。

ありがたや異世界。最高だぜ主人公補正。


と思っていたら、アドミラが思いがけない行動を取った。


「うーん。ていっ!」


「ふげっ」


アドミラの掌底が、シェリスのみぞおちに深くめり込んだのだ。


「っっっひぃ、っっっっひぃ」


「だ、大丈夫かシェリス」


「ひぃっ!ひぃっ!だ、だぁぁいじゃぉぶ」


いや大丈夫ではないのは明白だ。

アレは、一時的に呼吸できないやつだ。

可哀想に。


うずくまるシェリスを見ても、表情ひとつ変えないアドミラ。

そう、ニコニコ笑ったままなのだ。


「ひぃ、はあ、はあ。アドミラたん?ど、どうしたぴょん?」


シェリスは掌底を受けたことにより、自身のキャラという自我を思い出したようだ。


「はぁいどうぞ」


ファサッ――。


「……ア、アド、アドミラたんの、中に」


一瞬だけ、本当に一瞬だが間違いなく見た。

ファサッっとスカートの裾を持ち上げて、うずくまるシェリスを食べる前に、俺は脳に焼き付けた。


彼女のパンティーは水色だった。


「はぁいどうぞ。シェリスは変態ですねぇ」


「ええ?い、いや違うのよ。これは、そのギルドの……」


「うんうん。そうねぇ。はい終わりぃ」


ファサッ――。


あっ、また……。

ありがとうアドミラさん。

そして勇気ある行動をしてくれたシェリス、君を讃える。

俺は思わず拍手をしてしまった。

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