第2話 レイスの石を追う者たち

 マグナとフォノンは、ビークルから戦利品で膨れ上がった袋と武器を降ろした。袋と武器をひょいと担ぐと街の入り口へと向かった。


 入り口にある掲示板の前で、数人の商人が集まって話をしていた。掲示板に新しい賞金首でも張り出されたのだろうか。

 端末が普及してきた現在では、ギルドからの情報はシーカー達の端末に直接、送られてくるようになった。そのおかげで、いちいちギルドに賞金首の描かれた紙を取りに行く必要もなくなった。


 その時、鈴のような着信音と共に新しい情報が二人の端末に届いた。端末を覗いていたフォノンが、届いた情報のタイトルを口にした。

覚王かくおう、目撃情報。だってよ」

 フォノンは大きなあくびをしながら言った。

「眉唾物だな、その話」

 マグナは本気にしていないようだった。

「ああ。あれは伝説上の鳥だからな。俺もいるとは思ってないな」

 伝説によると覚王というのは、エメラルド色をした大きなクジャクのような鳥だということ位しか判明していない謎の鳥だった。この世界をあちこち放浪してきた二人ですら、一度も見たことがなかった。

 二人はそんな話を交わしながら、シーカー達を横目に入口の門をくぐると街の奥へと進んでいった。


 赤や黄に色づく落ち葉が、街を行きかう人々の足元をと舞う。ラナティスの街というのは、都の影響を受けているのか、田舎にしては発達している方だった。ゴミ一つ落ちてないし、ビークルの修理屋から、宿屋にギルド、道具も扱うキューブマーケットに花屋と、一通りの店が揃った街だった。整然と並んだ石畳でできた通路の上を、街を観察しながら歩いて行く。道の両脇には食料品や生活用品を扱う露店が軒を連ねていた。

 昔のことを思うと、どの町へ行っても露店で買い物をする人も少なくなった。きっと、すっかり生活に定着した二十四時間営業の便利なキューブストアなる店に客を取られた為だろう。キューブストアの品ぞろえは食料品や生活用品まで網羅していた。

 住人達は、レイスシーカーを見慣れているのか、武器を携えた無骨な大男が歩いているのを見ても、全く驚く様子はなかった。 


 フォノンはビークルを降りてから、ずっと端末をいじったままだ。マグナは、うつむいたままで歩みを進めるフォノンに忠告した。

「フォノン。あまり良くないぞ、そういうの」

 マグナはそう言いながらも、小さな端末を覗き込んだまま屈んで歩く大男の後ろ姿が、どこか愛らしく思えた。

「ああ、わかってる。ギルドの場所を調べてたんだよ」

 フォノンはいきなり立ち止まると、キョロキョロと辺りを見回して言った。

「ギルドはどこにあるんだ?」

「こっちの方だ」

 フォノンは、手の中にある端末で地図を見ながら中央広場の方を指差して進んだ。マグナはフォノンの後ろを付いていった。


 二人は中央広場に着いた。広場の前にあったキューブマーケットの横の通路を真っすぐ進むと、突き当りに宿屋が見えてきた。宿屋の隣にギルドらしき建物があった。

 正面の壁に『Guild』と、手書きのような書体で大きく書いてある。入り口の方へ眼をやると、シーカーらしき人物が出入りしていた。ここがギルドに間違いないだろう。

 フォノンはギルドらしき建物の扉を開けた。二人が中に入っていくと、無愛想な表情のギルドの主が薄汚れた店の奥から顔を覗かせた。

「いらっしゃい」

 店主は二人の特徴を確認しながら、カウンターの方へと歩いてくる。店主が出てきた部屋の扉の上には『コアストーン解析室』という金属のプレートが貼られていた。


 店主は肘をつきながら、木製のカウンター越しに二人に話しかけた。

「どうだい、今回はいい仕事ができたかい?」

 店主はマグナ達の背負った大きなカバンに目をやりながらそう言うと、機械の方を指さして、何かの提示を求めるような仕草をした。

 二人は端末を取り出すとレイスシーカー登録証の画面を表示した。機械にかざすと、ピッと音が鳴り二人のデータを呼び出して照合していた。


 ギルドができたことにより、シーカー達の登録が進んだ。最近は、討伐の最中も端末の所持の義務化が進み、シーカーの行動を把握するようにもなった。シーカーになるものは、流れ者やならず者が多かったために、国としても把握しておく必要性があったのだろう。

 店主は胡散臭そうな目を二人に向けながら、モニターに表示されたデータと二人を見比べた。


「大柄、ヒゲもじゃ、盾持ち斧使い。細身の長身、顎髭と、額の真ん中にアザのある双刀使いか。アザのある黒髪の刀術使いに髭モジャ?」

 改めて目の前にいる二人のレイスシーカーをまじまじと見た。

「俺達の顔に何か付いてるっていうのか?」

 フォノンは呑気に頭をボリボリと掻きながらマグナの方を見た。

「……」

 マグナは無言のまま、咄嗟に額のアザを前髪で隠した。

 二人の評価シートを見たのか、店主の眉がピクリと動いた。

「まさか、あんた達があの盗賊団の百を倒したっていう、マグナとフォノンかい? この街のギルドに立ち寄ってくれて光栄だよ」

 

 ベテランシーカーの来店に、店主はガラリと態度を変えた。

「いや……」マグナがそう言いかけたところで、フォノンが話を奪った。

「いやぁ。戦闘不能にまでは追い詰めたんだがな。命乞いをするもんだから、逃がしてやったんだよ。あの怪我じゃあ、今頃はあちら側だよ。あんときゃ、『キテラ』もいたっけな」

「ん? その珍しい名前はどこかで聞いたことがあるぞ。確か、前に新聞に載ってた魔女狩りのときの断罪リストの中に同じ名前があったな。もしかしてあんた達の仲間だったのかい?」

 流石に店主は客商売だけあって情報通だ。

「おい。余計なことをしゃべるな、フォノン!」

 マグナは動揺したのか声を荒げた。

「あ。すまん」

 口を滑らせてしまったフォノンは、反省していた。

 二人の顔色の変化から重たいものを感じ取ったのか、店主は急いで話を変えた。

「悪い、悪い。興味本位で深入りするもんじゃないよな。レイスシーカーをやってりゃ、そりゃあ色々あるだろうからな。ところであんた達、今日はコアストーンは提出できるのかい?」

 コアストーンの話になった途端に、店主の口調が変わった。

「ああ。これなんだが」

 フォノンはそう言いながら、カバンの中から重厚な色をした二つの純度の高そうな石を取り出した。

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