レイスシーカー ~紅色の霧の彼方に~
深山 有煎(ふかやま うせん)
第1話 吹き抜ける風
金属の切れ目から、茶褐色の液体が滴り落ちて、地面に染みを作っていた。ねじ曲がった金属の手足、内部から流れ出る液体が、冷たく地面に広がっていた。焦げた鉄と油の混ざったような独特の匂いが鼻を突く。メタルレイスの配線や部品の剥き出しになった腕が、戦闘の激しさを物語っていた。
「おい、マグナ。ギルドからのメッセージみたか? またどこかの町から人が消えたらしいな」
岩のような体格の男はそう言いながら、メタルレイスの金属質の皮膚を叩いて音の大きさを聞き分けている。硬さを調べてコアストーンを探しているようだ。仕草からすると大雑把な性格だということが分かる。
男は腰に差した特殊な短刀を抜くと、メタルレイスの心臓部の表面を、こじ開けるようにはぎ取った。金属の表皮をはぎ取った中はというと、意外にも生肉のような細胞に覆われていた。どうやらこの中に、男のお目当てのコアストーンがあるようだ。手に持った短刀を使い、慣れた手つきで切り裂いていった。ぬめりのある花びらのように包まれた厚めの膜を一枚一枚剥ぎとっていくと、宝石のような綺麗なコアストーンが現れた。コアストーンを丁寧に取り外すと、目を細めながら品定めしていた。
古代彫刻のような顔つきをしたマグナの方は、一人黙々と戦利品を袋に詰め込んでいる。一区切りついたのか、言葉を返した。
「ああ、フォノン。また紅色の霧が出たのか」
マグナは、相棒であるフォノンの方にちらっと目をやった。
「やったぞ、マグナ! コイツは高評価がつきそうなコアストーンだぞ。久しぶりに温かい食事にありつけそうだな」
フォノンはマグナの方へコアストーンを掲げて言った。討伐に出ると、二・三週間町に戻らないこともあった。一つの町をベースキャンプのような中継地とすることもあったが、討伐の内容によって様々だった。表現を変えると、レイスシーカーというのは、ビークルで移動し続ける渡り鳥のようだった。
「コアストーンのほうは、ギルドに報告するのを忘れるなよ」
コアストーンというのは、メタルレイスから採れる、いわゆるレアメタルのようなものだ。下取りのような形となるが、ギルドに納めてハンターの評価に影響してくる。言ってみれば、レイスハンターの義務のようなものだ。
「わかってるさ。ここから一番近いギルドは、南にあるラナティスって町みたいだな」
フォノンは、端末の地図でラナティスの街の位置を確認しながら言った。
「そうか。初めて行く街だよな。素敵な女神様がいたらいいな」
そんな言葉を返したマグナは、ずっと前に野営をしていた時にフォノンにこんな話をしていた。マグナの理想の女神像とは、自分の人生のすべてをささげてもいいと思える女性だと。
「なあ、マグナ。お前は、女性に何を求めてるんだ? みんな同じようなものだろう」
「フォノン。お前は、わかってないな。それが妻子持ちの言葉か? 自分の女神様は必ずどこかにいるもんさ」
同性であるフォノンから見ても、マグナはいい男だったのだが、面食いであることと、レイスシーカーという危険な仕事のせいなのか、婚期を逃して歳は三十路に入ろうとしていた。
そんな会話を交わすと、二人は膨れ上がったカバンを担ぎ、ビークルを停めた場所へと向かった。
二人は戦利品の入った袋を乗せると、ビークルに乗り込んだ。二人が乗り込んだのは、大きなタイヤを六つ備えた、どんな地形でも走破できそうな装甲車タイプのビークルだった。マグナは運転席に、フォノンは助手席に座った。フォノンは満足そうに戦利品で膨らんだカバンを抱えながら、端末でラナティスの町の位置を確認していた。
運転席に座ったマグナは、ガバッとアクセルを開けるとビークルを走らせた。二人を乗せたビークルのタイヤがしっかり有れた路面を噛んでいる。
景色は風に溶けるように後ろへ流れ去っていく。
砂煙を巻き上げながらビークルは平原を南下して行く。二十分ほどビークルに揺られただろうか。広大な地平線の向こうに、ラナティスの街が見えてきた。
街の入口には、長い影を落とす大木が一本そびえ立っていた。その幹はひび割れ、根が地面を這うように広がっていた。木陰には砂埃をかぶったバギーが数台並び、無人のまま停められている。マグナはその脇にビークルを滑り込ませると動力を静かに切った。
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