第27話 紅色の霧の追跡者
子供のメタルワームが檻の中で、大人しくじっとしている。メタルワームというのは、本来とてもおとなしい性格で、よほどのことがなければ暴れるようなことはしない。
子供型のメタルレイスにだけは決して手を出してはいけないというのはレイスシーカーとしての暗黙の了解だった。メタルワームの子供から、大変貴重な良質のコアストーンが取れるということはシーカーの世界では常識だった。ものによっては、一個三百万クリスタで取引されるという話だ。
メタルワームというのはまさに名前の通りで、頑丈な牙をいくつも持った金属のミミズだ。メタルレイスであっても、メタルワームの牙にかかればバラバラに噛み千切られてしまうだろう。メタルワームは自然の土の中に生息しているミミズとよく似た仕組みを持っていた。鉄砂の中に現れ鉄砂を食し、金属成分を自然の土へと分解するその仕組みは、未だ解明されてはいない。グロテスクな見かけと違って、メタルワームの行っていることはとても繊細だった。
囚われているメタルワームを取り囲むように、黒いバトルスーツを着込んだ三人のシーカーーが立って話をしていた。どうやら善行をしているわけではなさそうだ。当然、ルキア達は見過ごすことはしなかった。ルキア達は暫くシーカー達の様子を観察することにした。
シーカー達の近くには、シーカー達のものであろうホバークラフトが止められていた。二匹の大型の餓狼型レイスが地面につながれている。餓狼型レイスの体躯は冷たく光を反射する。全身を覆った黒鉄の装甲が、威圧的な存在感を放っている。首元には重厚な首輪が装着され、そこからは分厚い鎖が伸びて、地面に打ち込まれた杭に絡みついていた。
背中には乗り手のための鞍が据え付けられている。黒革で作られた鞍は簡素ながら頑丈に見え、金属製の留め具でしっかりと固定されていた。その鞍の脇からは足を支えるための鐙が垂れ下がり、乗り手の準備を待っているようだ。
鋭い光を宿した赤い瞳が鎖に拘束されていることに苛立ちを見せ、低く唸り声を上げるたびに鋭い牙を覗かせた。その姿は、今にも縛りを断ち切り自由を取り戻そうとする野獣そのものだった。
「どうしようか? ニック」
ルキアは双眼鏡を覗くのを止めるとニックの方をみた。
「少し様子を見ていよう。どっちにしたって、見過ごせないよな」
ニックは双眼鏡を覗いたままで、三人のハンターの動きに目を光らせた。
「こっちはいいよ。いつでも行ける」
――二人はビークルに戻ると、そのままシーカー達の様子を伺っていた。
「連中が動き出したぞ。メタルワームを何処かへ連れて行くみたいだ」
ニックも双眼鏡をしまい込むと、ビークルに飛び乗った。
二匹の餓狼型レイスが先導するように進んで、メタルワームを載せた重そうなホバークラフトが後をついて行く。しっかりと距離を開けてから、ルキア達は一定の速度でゆっくり後を追いかけた。そのまま、しばらく進むと三人のハンター達は、何処からか満ちてきた紅色の霧の中へと消えた。
「おい。まずいだろこれ。紅色の霧の中に入って行っちゃったよ。どうしよう?」
紅色の霧の中へ、自ら入ろうなどと考えたこともなかったルキア達は少し戸惑った。
「行くしかないだろう」
ルキア達は紅色の霧の中へと入る決心をした。
ビークルの機動音が微かに響く。紅色の霧が重く立ち込め視界を覆い隠していた。わずか数メートル先ですら霞んで見える。目を凝らしても輪郭すら曖昧だ。
ビークルの速度をさらに落とすと、まるで手探りをするように進んだ。濃い霧はまるで壁のようで、前方の風景が飲み込まれていくようだった。
ニックは何度もハンドルを握り直しながら、目の前の微かな影や動きを見逃さないように集中していた。一方でルキアは視界の悪さに苛立ちながらも、窓越しにじっと霧の中を見据えていた。全身に緊張が走る中、二人は静寂を破らないよう息を潜めて進み続けた。
二人は特殊なマスクに手を当て、どこにも隙間のないことを確認した。念のためビークルの窓を全部閉めた。
しばらく進むと、霧の奥からぼんやりと巨大な影が浮かび上がってきた。紅色の霧の中に浮かぶその輪郭は、まるで幻のように不確かでありながらも、不気味な存在感を放っていた。
ニックはハンドルを握り直すと、速度をさらに落とした。ビークルは慎重に霧の中を進み、巨大な影へとゆっくり近づいていった。緊張感が漂う車内では、ルキアが双眼鏡を手にしながら、霧越しに前方の状況を探っていた。
「ビークルを止めるよ」
ニックはそう言うとビークルを止めた。二人はシーカー達との距離を慎重に保ちながら、その動きを伺っていた。
「戦闘が終わるまで、焔はここに隠れてて」
近くに置いてあった毛布を、後部座席で小さくかがむ焔に被せた。
ニックは後部座席に置かれたケースの中から、擲弾発射器付きのアサルトライフルを取り出した。一方、ルキアは無言のまま刀を握りしめると、ビークルのドアを静かに開けた。ルキアとニックは、無言のまま戦う準備を始めた。
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