第25話 鉄砂の地

 煙霧の里を出発したルキアたちを乗せたビークルは、山裾を抜けて鉄砂の地に差し掛かっていた。


 細かな鉄粉の舞う鉄砂の地を走っていると、遠くの方では回収業者がメタルレイスの残骸を回収しているのが見えた。レイスシーカー達はレイスを倒すと、高値で売れるコアストーンと部品以外はその場に放置することが多かった。重すぎて全てを回収することが出来なかったためだ。そのため鉄砂の地はメタルレイスの残骸の宝庫であった。世界中を巡回している回収業者にとっては宝の山なのだろう。噂ではメタルレイスの残骸からはぎ取った部品で、生活用品やシーカーの武器を組み上げ、安く販売しているという話だ。


「なんだろう、あれ」

 ニックは、遠くの方から鉄砂を巻き上げながら近づいてくる大型のメタルレイスの群れを発見した。

 大型に属する目のない白い頭のバイソン型レイスだ。がっしりとした体系から、相当な重量であることが想像できる。前方に長く突き出た鋭い角は突き刺さったら一溜りもないだろう。

「なあ。なんで四つ足タイプがこんなに足が速いんだ?」

「金属化すると基本的な能力が上がるのかもよ。これ逃げないとまずいよな」

 ニックはバイソン型レイスの迫力にゾッとしながら、目測で距離を計っていた。

「このままだと、追いつかれるぞ?」

「こういう時のために、いいものがつけてあるんだよね」

 ニックはニタニタと、余裕たっぷりに笑っている。この危機を楽しんでいるようだった。

「また、変なものくっつけてあるんだろ」

 ルキアは呆れた表情をしていた。

「あまりこれは使いたくなかいんだけどね。ちょっと、足で踏ん張っててよ」

 ニックはそう言いながら、ビークルのモードをレースモードに切り替えた。

「どうしてそんなものが一般向けのビー……」

 と、ルキアが質問しようとしかけた瞬間、ニックがアクセルを全開にした。

 Gが掛かったルキアの体はシートにめり込み押し付けられた。ビークルは即座に反応すると、みるみる速度を上げた。

 視界は十センチ四方ほどがはっきり見えているだけだった。道路の脇に見える建物が、一瞬で線となって後方に引き伸ばされた。


 ビークルは、悪路によって飛んだり跳ねたりスライドしていた。車体を支えるスプリングが何処かへ飛んで行ってしまいそうだ。荒れ果てた道路のあちこちに砂利や土の塊が浮いていて、ハンドルをとられる。力強く前進してゆくビークルの、左右にぶれるハンドルを、ニックは必死に押さえつけていた。

 進行方向を見つめるニックの顔は真剣で、いつものニックの呑気な様子はどこにもみあたらなかった。ビークルは何度もコントロールを失いかけたが、コンピューターによる完璧な制御がスピンするのを防いでいた。


 駆け抜けてゆくビークルの過激な動きと、静かな走行音が、あまりにかけ離れていて、とても不思議な感じがした。荒れた地面に噛みつくようにタイヤがめり込み、ビークルを前進させていく。

 フェンダーの内側に巻き上がる鉄砂の音がビークルの室内に響いていた。大きなブロックパターンをした四本のタイヤが舞い上げた鉄砂が、メタルレイスの視界を遮るが、目を持たないバイソン型レイスには、全く効果が無いようだった。

 ニックは冷静にアクセルを全開にしていた。バイソン型メタルレイスは驚異的なスピードでビークルを追いかけてくるが、ビークルのレースモードの推進力にはかなわないようだった。どんどん距離が離れてゆくのを、ニックは満足そうにサイドミラーで確認していた。

 メタルレイスが追跡してこないことを確認すると、ニックはビークルを減速させた。どれほどの距離を走っただろうか。気が付いた時には、見たことのない風景が目の前に広がっていた。

「振り切ったのはいいけどさ、ここは一体どこなんだ?」

 ニックはゆるやかな速度でビークルを走らせた。キョロキョロと辺りを見回しながら、ビークルを隠せそうな場所を探した。


 ルキアたちがいる場所は、地図に乗っていない場所のようでパネルで確認することはできなかった。そのまま、しばらく走って行くと、ビークルを隠すにはちょうど良さそうな朽ちた古寺が見えてきた。

「あそこに見える古寺に向かうよ」

 ニックはそう言うとビークルを古寺に向けた。

 朽ち果てた古寺は、腐った柱や壁が崩れ降ちていて見る影もない。


 何もいないか確認しながらゆっくり近づいていった。瓦礫と化した崩れた古寺の横に大木が横たわっていた。ニックは大木の陰にビークルを停めた。

 木漏れ日が差し込む中で、朽ち果てた古寺の隣にド派手なビークルというミスマッチが、周囲の景色を異質な雰囲気へと変えていた。

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