THERA’S TOUCH (その3)
プール遊びも一段落すると、デッキチェアに寝そべりデザートを楽しむ。
お楽しみの、プリン・ア・ラ・モードや冷凍フルーツをクラッシュし、その上にコンデンスミルクや甘いシロップをかけたフルーツシャーベットが好評だ。
アダルトなお姉さま方は、きりっと冷やしたカクテルで優雅なひと時を楽しんだ。
その後は、動き足りないクメールは、男どもを誘って晩御飯狩りに行く。
見事に大物を狩った彼女は意気揚々と凱旋してきたのであった。
日が暮れると、夜の闇は森の雰囲気を一変させた。
相変わらず泉の周辺は魔獣の気配はなく、静寂に支配されていた。
文明から切り離された原初の自然の中に、明かりもなく放り出されると、己自身がいかに矮小なものかいやがうえにも思い知らされる。
そのためヒトは昼の光をそこに持ち込み、対抗する意思ののろしを上げるのだ。
一行は森の気配に負けぬよう、派手なキャンプファイアーをぶち上げ気勢を上げた。
夕食は明かりを囲んでパスタと汁物の麺類祭りの後、よく冷やしたエールと昼の得物で作ったサカナとバカ話で酒盛りになだれ込んだのだった。
ひとしきり騒いだ後、場が落ち着いたことを見計らってシュウは動き始めた。
「おーいケイ、ちょっといいか」
トシと真面目な顔で話し込んでいたケイに声をかけると、ケイとトーカが連れ立って来た。
「心臓の培養、進んでる?」
「うーん、クローン技術はこの世界の技術水準じゃムリ目だから、エイコーに臓器を複製できる魔法を構築してもらっているところ」
「移植はやれそう?」
「そこは自分の腕次第。経験を積んで”クリニック”を進化させればいけると踏んでいる。トーカもいるしな」
隣のトーカは、恥ずかしさ半分、誇らしさ半分で真っ赤になってそれでもやる気に満ちた表情をしている。
「そうだな。お前がこの計画のキモだからな。頼んだ」
「任しとけ」
「トーカちゃんもよろしくね。こいつは覚悟を決めたら頼りになるんだけどなあ、底に行くまでが面倒くさいんだ」
「マスターのサポートはお任せください。必ずやる気にさせます」
「うんうん、いい子に育ってお父さんは嬉しいよ」
「あっち行け、バカヤロー!」
ケイの罵声を浴びてシュウはほうほうの体で逃げ出した。
「エイコーいいか?」
次にシュウは酒瓶とジョッキを持ってエイコーのそばに移動した。
エイコーはユキ、トシ、シナモンを車座になって座り、飲んでいた。
「どしたシュウ?」
「お前さあ、魔法の習得はかどってる?」
「おう、四元魔法は応用までいけるぞ」
「じゃあ、冷凍保存のほうは?」
「そっちは氷魔法の初歩で十分だ」
「すげーじゃん。じゃあシンとの連携は進んでる?」
「シンが召喚した魔法書に載っているヤツを、ユキが検索しておれが使うまでに1分てとこかな」
「おー早いな。でも実戦投入には最低5秒、可能なら3秒までは削って欲しいな」
「そりゃ無茶ぶりすぎだろ。まあやってみるけどよ」
「期待してるぜ。それとさっきケイに聞いたんだけど、臓器複製手間取ってるんだって?」
「ああ、魔法で発現した現象は、魔法の終了もしくはマナの供給が止まると消滅しちまうんだよ。重要臓器が突然消滅したら・・・」
「そりゃマズいわ。・・・じゃあドッペルゲンガーを部分的に召喚して、安定させた後取り出して保存するのはどう?」
「ドッペルゲンガーか・・・。そのアプローチは考えなかったな。ミーナと相談してみるわ」
「おう、よろしく。そういやユキちゃん。凄腕の占い師ってアルカンじゃあ有名らしいじゃん」
「凄腕だなんて、恥ずかしいです・・・」
真っ赤になって照れる。
「いいって々々。コイツの働きはユキちゃんにかかってるんだからさ」
「嬉しいです。わたし頑張ります」
「頼もしいねえ。そうだ!いっそのことシンが召喚したものを、コイツを通さず直でユキちゃんが検索掛けて、結果だけコイツに強制インスト―ルしたらが早くないか?」
「・・・多分できます。それ」
少し考えて彼女はシュウのアイデアを肯定した。
「俺の意思はあ!」
エイコーが抗議する。
「い~んだよ、お前は所詮移動砲台なんだから。じゃあユキちゃんその線で高速化を頼むわ」
「はい!任せてください」
すごくいい顔で彼女は答える。
自分の役割が明確化されるとやる気が爆上がりだなあ、感心するシュウだった。
「それでだトシ、お前の”エスピオナージ”その後どうなってる?」
エイコーたちの隣に座っているトシに向き直った。
「斥候・隠密の上位スキルだけあって、今やアルカン中フリーパスさ」
「すげーな、予想以上だ。じゃあ”メタモルフォーゼ”は?」
「そっちは進展なしだな。相変わらず僕だけしか擬態できないな。もう少しで何かつかめそうなんだけど・・・」
「そう焦るな。”メタモルフォ―ゼ”については、擬態対象を思念も含めた抽象選択の可能と他者を擬態できるようにする範囲の拡大が当面の目標だな。お前だけじゃなくほかのヤツも擬態できるようになると戦術の幅が広がるからな」
手元のジョッキをグイっと呷る。
「付与魔術が突破口になるかもしれん。ミーナと話してみたらどうだ?」
「ああ、ミーナとエイコーと一度相談してみるよ」
「期待してるぜトシ」
「ところでアイリス姐さん」
「何でしょう?」
「女子部をまとめてくれていて本当にありがとう。おかげで何の心配もなく動くことができる」
礼を言って頭を下げる。
「いい子たちばかりだから私も楽しんでいるだけよ?まとめる必要なんてないわ。皆自分の役割をちゃんと理解しているもの」
「それでもさ。これからは間違いなくギリギリの戦いが続くことになる。一歩間違えばこの中の誰かが、最悪全員が死ぬような、ね。その時大事なのは迷わないこと。全員が一つの意思の元統一して動くことができることだ。だからこれまで通り女子部を頼むよ。ついでにトシもね」
「任せて頂戴。私が必ず守り通すわ」
そう言い切って、シナモンは隣のトシにしなだれかかった。
最後は皆と離れたところでまったりゴロゴロしているシンとクメールだ。
「なーにそんな離れたところでイチャついてるんだあ、お前らは」
「ちゃうぞ、ちょっと人目を憚っただけだ」
「あたいは別に気にしないけど」
「お前はむしろもっと気にしてくれ、メル」
「何でよ。そんなにあたいが邪魔なの?」
彼女はむくれてより一層シンに体をすり寄せた。
「メルをもっと構ってやれよ。でないと話が進まん」
「そうだよ、構え」
胡坐をかいたシンの膝の上に体を乗せ、両手を後ろの彼の首に回し思いっきり自分の体重を彼に預る。
「わかった々々。それでシュウ話はなんだ?」
膝の上でクメールをあやしながら訪ねる。
「お前のスキルのことなんだけどな、今どんな状態なんだ?」
「そうだな、ここんとこトシやエイコーと色々スキルの実験と検証をしてきたんだけどな」
「うんうん」
「結論から言うと召喚精度が上がった」
「おお、すげえ。で具体的には?」
「まず、この世界の過去から現在に至る一点に存在したことのある本なら、どんな稀覯本だろうと召喚できるようになった。それも形態は書籍に限らない。メモだろうが紙の切れっ端び殴り書きされたのだろうがお構いなしだ」
シンは一息にジョッキを飲み干すと、すかさずクメールがお代わりを注ぐ。
「この前なんかマルディグラの歴史上もっとも偉大な魔導士の奥義書を召喚したんだけどな。断章との触れ込みだったが、実際は断片だけでそれも暗号で書かれている代物だった」
にやりと笑って後を続ける。
「誰もが読めないはずだったんだが、ここが”THE BOOK"の凄いところでな。日本の同人誌がメルたちにも読めるようになっていたように、暗号が自動で解読され平文で記されていたんだ。大したサービスっぷりだろ」
「本当なら”THE BOOK”超有能じゃん。で中身は何が書いてあったんだ?」
「なに、奥さんから言いつけられた買い物のリストだったよ」
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