EASY MONEY (その5)
「オレたち魔王軍と一戦交えてもらおう」
「「「「「「「「「「「はあ!?」」」」」」」」」」」
黒魔団全員が、コイツ何言いだすんだと驚愕の表情で魔王を凝視している。
そんな中ただ一人、宰相セーレスのみ、そんなことだろうという顔で澄ましていた。
魔王領宰相の面目躍如である。
「ン?聞こえなかったか?それならもう一回言ってやろう。オレた・・・」
「「「「「「「「「「「やかましい!?」」」」」」」」」」」
さすが腐っても魔王、シュウたち全員のツッコみにまるで動じる様子はない。
「で、どうだ?受けてくれるのだろう。まさかこの期に及んでイヤとは言うまいな」
凄まじく底冷えのする笑顔で回答を迫ってきた。
圧倒的な強者のオーラに、黒魔団一同、呼吸さえままならない。
そんな状況下で流石リーダーを張っているだけのことはあった。
シュウは持てる意志力を総動員し、言葉を絞り出した。
「も、もし嫌だと言ったら?」
「あん、お前らもしかして断るつもりなのか?」
触れられそうなほど濃厚で純粋な殺意が、魔王ゼパルースから奔流の如く押し寄せて来る。
まるで猛虎と子猫ほどもあるそのオーラのレベル差に、両者は端から勝負にならなかった。
魔王の逆鱗に触れれば、一撃で即死に至らしめる攻撃が放たれると確信できた。
この場で言ってはならない言葉があった、
しかし、内心の葛藤をねじ伏せ、とうとうシュウはそれを口に出してしまった。
「断る」
その言葉に呼応し、即座に黒魔団は臨戦体制を取った。
必ず来るであろう魔王の必殺の攻撃を待ち受けた。
しかし、一向に攻撃が襲来する気配はなかった。
攻撃の代わりに、信じられないものを見せられ、一行はより甚大なダメージを受けることになった。
今の今まで殺気をまき散らしていた魔王のオーラが突然消え失せた。
魔王はテーブルに両手を突き項垂れている。
体が小刻みに震えている。
聞こえてくるのは笑い声であろうか?
いや違う。
微かに、途切れ々々に聞こえてくるのは嗚咽の声だ。
表情を伺うことのできない俯いた顔から、涙がポタポタと滴り落ち、テーブルを濡らしている。
「何故だ・・・。何故オレを拒む?オレはただ純粋に戦いたいだけなのに・・・。誰一人オレと戦ってくれない。そんなにオレが嫌いなのか・・・」
絞り出すようにそう呟くと、堪え切れずに号泣し始めた。
その背中を弟のセーレスがなだめるようにさすっていた。
ひとしきり泣いたら気持ちが収まったのか、魔王は時折しゃくりあげながらも、シュウたちと改めて対面していた。
「醜態を見せてしまってすまん。どうにも気の持って行き処がなくてな、つい・・・」
それまでと打って変わった魔王のしおらしい態度に、一行は面食らって言葉もなかった。
「つい、じゃあありませんよ姉さん。魔王ともあろうものが人前で号泣するとは・・・。全く威厳も何もあったもんじゃない」
「だからすまんと言っておろうが。小さいことをいつまでもネチネチ、ネチネチ・・・」
「小さくなんかありませんよ。いいですか、そもそも魔王たる・・・」
「ウ・ル・サ・イ!聞・こ・え・なーい」
姉弟喧嘩がまた始まった。今日何度目だ?
「あのー、俺たちもう帰ってもいいですよねえ?また明日出直しますんで・・・」
「だ・め・だ!そんな調子のいいこと言って、城を出たら速攻で魔族領を抜け出すつもりだろう!」
「うっ」
「なあ、そんなつれないこと言うなよ。お願いだからオレたちと戦ってくれよ」
「そんなこと言われても・・・」
「後生だ!頼む、この通りだ!」
「いや、でも・・・」
「もうお前たちしかいないんだ。魔族領でもハンターギルドでもオレの相手をしてくれるものは一人もいないんだ。ホンの1回でいい。受けてくれたら特別報酬をやろう。なんでもお前たちの望むものを授けよう。約束する!だからな、頼む。お願いだ、この通りだ。魔王一生のお願いだ」
魔王全身全霊の懇願に、一行はさすがに彼女が少しかわいそうになった。
ちょっと待て、と部屋の隅で再度相談する。
(ねえ、一度くらいならいいんじゃないのぉ?)
(特別報酬くれるって言ってるしさあ。あたい欲しいものがあるんだよねえ)
(殺し合いをするわけじゃなし、いいんじゃないか)
(エイコーの言う通りだよ。一回適当にやってお茶を濁せばいいと思うよ)
(わたしおなかがすいて死にそうです。お昼もいただけなかったですし・・・)
(そうね、ユキの言う通りだわ。まずご馳走してもらいましょうよ。話はそれからよ)
「それでは皆様、話は一旦棚上げといたしまして、ささやかですが晩餐の用意が整いましたので、しばしお付き合いを頂けますでしょうか?」
シナモンの言葉を拾ったかのようなセーレスの提案に、空腹が限界に来ていた一行は一も二もなく飛びついたのだった。
オードブルから肉類中心のパワフルな晩餐も終わりに近づき、デザートに移っていた。
人間腹が満ちて甘いものを食べている時は喧嘩なんぞでいないものだ。
頃合いを見計らってシュウが切り出した。
「なあゼパルース、勝負の事なんだが。勝負っていっても色々あるだろう。何をする心算なんだ?」
「ようやく真剣に考えてくれたか。嬉しいぞ。まあ先刻も言ったが命の取り合いなど毛ほども考えていない。ただ全力を尽くして勝負したいだけだ」
ウキウキと今にも鼻歌を歌い出しそうなくらい魔王は機嫌がよさそうに見える。
「条件は決まっているのかな?」
勝負の結果いかんでは、自分が治療に専念せざるを得ないのだから、ケイにとっては呑気にデザートを食べている場合ではなかった。
「なんでも有りだ。肉弾戦も武器も魔法もしたい放題だ」
「人数制限はあるのかしら?」
「そっちは全員で構わんぞ。こっちはオレ一人でで相手をしてもいいが、せっかくの機会だ、魔王軍の精鋭にも訓練の機会を与えてやろう」
シナモンの質問は藪蛇に終わった。
「魔法の撃ち合いや肉弾戦のみだと、戦力バランスが悪いな。魔王と魔王軍の戦士のみとおれたち全員ならいい勝負になるんじゃないか?」
エイコーがこれ以上規模が拡大しないように火消しに走る。
「ふむ、そのあたりが落としどころか。ではこちらは何人で行こうか?」
「そうねえ、10倍くらいでいいかな」
クメールがしっれと挑発する。
「10倍とは随分と舐められたものだ。吐いた唾は飲めんぞ。後悔するなよ」
魔王は歯をむき出して獰猛に嗤った。
「そっちこそぉ、あたしたちを見くびらないほうがいいわよぉ」
「まあいいだろう。勝利条件は全員戦闘不能か降伏でどうだ?」
「いいとも。万一けが人が発生しても、うちには優秀な医療スタッフがいるから、サービスで全員綺麗に直してやるぜ。死んでさえいなければな。なあケイ、トーカ」
「自分に任せてくれ。やる前より元気にしてやるからな」
「マスターとワタシにお任せ下さい。元通りにして見せます」
医療スタッフとして非戦闘員扱いになったケイとトーカもやる気十分だ。
「場所はどうする?」
「わざわざ魔族領まで出張るのはちょっと勘弁してほしい。俺たちはよその出だからそっちにまかせるわ。適当に決めてくれ」
「心得た。決行の日時はどうする?」
「そうだな。俺たちがここを発ってから20日後でどうだ?その頃なら旅の疲れも抜けて万全な体調にもどっているはずだ」
「よかろう。では勝負の日はお前たちが出立してから20日後。場所と時間は後日ギルド経由で知らせよう。逃げようなどと考えないほうが身のためだぞ」
「何言ってやがる。そっちこそきちんと雁首揃えて待ってな」
魔王とシュウはがっちり握手を交わした。
これで契約成立だ。
「おいシュウ、肝心の褒美の中身を聞いてねえぞ」
慌ててシンが指摘したが後の祭りだ。
契約はすでに締結されている。
「そうだった。おいゼパルース、褒美に何をくれるんだ?」
「心配するな、シュウ。久しぶりの相手だ。大盤振る舞いといこう」
「姉さん程々にね」
セーレスがくぎを刺す。
「しみったれたことを言うなセーレス。まあ聞いておれ」
宰相を押さえると、にやりと笑って褒美の中身を披露する。
「まずお前たちの、魔族領での完全な行動の自由を保障しよう。何時でも何処でも好きなことを好きにしてよい。もちろん魔族領の法律の定める範囲内み限られるがな。そうそう、オレの城にいつでも来て構わんぞ。門番には顔パスにしておいてやる」
セーレスがぎょっとした表情を見せる。
「次に、お前たちが勝負で倒した魔王軍戦士1人につき、金貨10枚の賞金を与えよう。ただし、お前たちが1人欠ける毎に戦士10人分、金貨100枚の罰金を取るものとする。そしてまあ不可能だろうが、もしもオレを倒すことができたら・・・」
「金貨500枚を特別褒章として与えよう。勝負の手付金として金貨100枚を渡すから、帰りにセーレスから受け取るがいい」
たっぷり間をおいて宣言した。
セーレスが頭を抱え悶絶している。
「気前がいいわね。さっすが魔王サマ。なんならその次の勝負も受けてもいいわよ」
クメールの瞳に山盛りの金貨が映っている。
取らぬワーキャットの皮算用だ。
「最後に、勝負を受けてくれたことへのオレからの感謝の印として」
魔王の封蝋が施された書類をセーレスから受け取り、シュウに差し出す。
「この先お前たちが苦境に立たされ助力が必要になった時、迷わずオレを頼れ。何時いかなる時、いかなる相手でもお前たちのためにこの力を揮うことを、オレの誇りにかけて誓おう。これに、お前たちが魔王ゼパルースの盟友である、との聖言が記してある。霊験あらたかだぞ。さあ持って行け」
「魔王様、今回の出費は全額あなたのお小遣いから差っ引いておきますので。悪しからず」
せっかくのいい雰囲気を台無しにする、宰相セーレスの面目躍如の一言だった。
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