EASY MONEY (その1)
ユキ、トーカ、シナモンたちスキル娘を常時実体化を維持できるようになり、シュウたちはそろそろアルカン域外での活動も経験しようと、彼女らの登録も兼ねてギルドを訪れていた。
いつものようにアイリスの列に並び、順番を待つ。
大所帯なので二手に分かれて効率よく進めることにした。
ミーナ、シン、クメール、トシの4人はクエストボードへ行っている。
シュウはリーダーなのでスキル娘たちの引率だ。
他にケイ、エイコーも男除けのため参加している。
順番待ちの間にハンターたちの世間話が耳に入ってくる。
「ねえねえあたしこの前占ってもらっちゃった」
「あー、あの美人でよく当たるって評判の占い師さんか。あんた行くって言ってたもんね。すごい的中率なんだって?混んでなかった?」
「うん、1時間待ちだった」
「うわー、ウチじゃ無理だ。で、どうだったの?名に占ってもらったの?」
「あたしさあ、この前あのクソ野郎に騙されて身代わりの腕輪取られちゃったじゃない」
「ああ。アレね。酒場で引っかけられた男にあんた腕輪までお持ち帰りされたってヤツ」
「はいはいそれはいーから。あんま悔しいから腕輪だけでも取り返せないかなって思って男の居場所を占ってもらったの」
「おー怖い。それで?」
「そしたらさ、占い師さんあたしの手を取って、あたしの目をこうジッと覗き込んでさ、『あなたは腕輪をお探しですね』って言うわけ。あたしもうびっくりしちゃってウンウン頷くしかなかったの。あたし占ってもらう目的も、ましてや腕輪の事なんか一言も言ってなかったのによ」
「判っちゃうんだ。凄いわね。で、それから」
「手を離すと、手元にあった小箱から紙とペンを取り出してね、サラサラ何か書くわけ。で、書き終えたらあたしの顔を見て『腕輪は男の手元にはもうないから、男を探しても無駄です。その代わりここに行きなさい』ってさっき書いた紙を渡してくれたの。その紙には何が書いてあったと思う?」
「わかんないわよ。請求書かなんか?」
「もう、バカばっか言って。地図なの。アルカンの西地区の壁際に寂れた教会があるでしょ」
「ああの、ぼろぼろの死霊が出るってウワサの」
「そう、そこに行ってみろってことみたいで。占いはそれでお終い。助手の男の子が出てきてさ、お金をその子に払ったら店の外に追い出されちゃった」
「ふーん。で、それからどうしたの?」
「見料は高くなかったんだけどさ、なんか癪じゃない。その場所に行ってみたわよ」
「そしたら?」
「あったのよ!ほんとに。ボロボロの説教壇の上に置いてあったの。ほんとよ。も―あたし一発で信者になっちゃった」
順番が回って来たので、聞いてた話はそこまででお終いになった。
カウンタ越しに、アイリスに用件を伝える。
「また女性ですか。しかも年端も行かない子供まで・・・」
トーカがひどくお冠だ。
「まあいいですけどね。そちらさえよろしければ。ハンターに年齢制限はありませんし、恋愛も結婚も本人さえ了承していれば特に問題はありませんけどねぇ・・・」
とひどく渋い顔でくどくど嫌味を言われたものの、無事3人の登録は終了した。
丁度そこに依頼票を持った3人がやってきた。
「結構いいのが残っていたぞ」嬉しそうにシンがアイリスさんに手渡した。
それに目を落とした彼女はぎょっとした表情になった。
シンたちが持ち込んだ依頼票の内容は
分 類:護衛
依頼内容:魔族領王都までのキャラバンの護衛
期 間:10日~2週間
報 酬:共通金貨30枚
推奨人数:10~20人
補 足:護衛は片道のみ。王都からの足は自分で確保すること
食事は各自用意。キャラバンからの提供を受ける場合、実費を食費とし
て別途徴収。
「ふーん」、護衛依頼かあ。魔族領ねえ・・・」
「帰りは自腹か・・・」
「シュウもトシもそう嫌な顔すんなって。その分任務が終わったら自由にしていいってことじゃないか。片道分で旅行できるんだぞ」
「そうかもな、シン。それで、魔族領ってどんな所?」
「それについては私からご説明差し上げます」
話を聞いていたアイリスが、内容が自分の分野になったとたんすかさず割って入った。
「皆さま、2階の打ち合わいらしてください」
アイリス手元の紙に何やら書き込むと。振り返り
「カイーユ、紙に書いてある資料を2階の打ち合わせ室に持って来て頂戴」
分厚い資料の乗った長テーブルの片側には黒魔団全員が、反対側にはアイリスが腰掛けている。
ちなみにカイーユは、部屋の隅に椅子を並べて簡易ベッドを作り、その上にひっくり返っていた。
「そういえば、さっき階段ですれ違った偉そうな能面オバさん誰?俺たちの事ものすごい形相で睨んでいたけど・・・」
シュウの何気ない一言に、アイリスがビクっと体を震わせたことをミーナは見逃さなかった。
アイリスは少しの間逡巡していたが、やがて意を決してその名を口にした。
「あの方は、当ギルドのギルドマスター、サマンサ様ですわ」
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