幕間 ースキル検証ー
目的の蔵書目録は手に入った。
早速これを使ってシンのスキルの検証を行う。
”THE BOOK”はこの世界の本でも有効なのだろうか。
結論から言うと、成功だった。
スキルは書名で個体認識をしているらしい。
ただし、いまだ出版業界など存在しないマルディグラだ。
平民に余分な知恵をつけさせないよう、知識は特権階級が独占している状態なので、そもそも書籍の流通量は多くない。
加えて同一書名・同一著者名で異なる版元から多種類制作されることなどほとんどない。
現代日本で書名のみで検索をかけても年代・出版社・版・言語毎の膨大な情報に埋もれ収拾がつかなくなってしまうだろう。
その点マルディグラは書名のみでかなり限定することができ、著者名が加わればほぼ
間違いなく特定可能だった。
言語については、シュウ達召喚者は召喚者特典のおかげで自動的に言語が相互変換される。
シンが召喚対象を認識していれば”THE BOOK”で召喚することができる。
その際原典として召喚されようが和訳されていようが召喚者特典が発動している以上意味をなさないというべきだった。
シンは原語で書かれた目録を読んだ時その内容を理解しているが、果たしてそれを原語としてなのか日本語としてなのか全くシンの意識には残らない。
何をどう理解しているのか意識されない以上、召喚行為自体も言語に依存しないと結論づけられた。
要は召喚されたものが使用可能な状態にあるということがポイントだ。
シュウ達が使うのであれば言語に依存しないが、ミーナやクメールが読むのであれば現地語一択だ。
日本語の同人誌が彼女達でも読めたのは、現地語バージョンに変換されたからに他ならない。
召喚条件はほかにもありそうだった。
本を絞り込む要素はこれら以外にも、~語版、~写本、制作年、など多岐にわたるが、これから追々検証を進めていけばいい。
きっとこれらを指定することによってさらに厳密な召喚が可能となるだろう。
シンの”THE BOOK”は、一点ものないし現存するものが極めて少ない稀覯本に最も適したスキルだった。
そう、例えば魔導書、中でも奥義や禁断の知識が記されているものなどに。
ちなみに噂のタネ本の召喚を試みたが、蔵書目録が膨大なうえに目録には内容が書かれていなかったため、断念するしかなかった。
次にケイのスキル“クリニック”を検証した。
このスキルは文字通り、どこでも個人病院だ。
任意の場所に現代日本の設備の整った医療空間を作り出すことができる。
その上設備や備品もカスタマイズ可能だ。
治癒魔法頼みで貧弱な医療水準のマルディグラでは革命的なスキルといえる。
便利な反面、制約もある。
一つは現在の佳の医療知識・技術をベースにしているため、スキルの向上にはケイの医師としての能力の底上げが必須だということ。
高度な医療を施すにはそれ相応の能力が必要な点はとても現実的だ。
そしてもう一つ、現在この設備を使いこなすことができるのは、ケイとトーカの2人だけなので、多数の患者や広範囲な地域への対応は困難だということ。
スタンピードや戦争が起こらなことを切に祈るばかりだ。
当面ポーションや薬の材料の入手は外部に頼ることになるが、いずれは”THE BOOK”のアシストで内製できるところまで持っていきたい。
パーティーとしての活動には変更はない。
ギルドの依頼を中心にハンター技術を上げ、いずれ来る邪神の封印解除に備える。
そのうえで個々のユニークスキルに熟達、可能であれば進化させる。
シンは召喚できる本のバリエーションを増やす。
将来的には実在しないものを召喚できるレベルまで到達したい。
ケイは現場の経験を増やしていく。
技術の向上を兼ねてアルカンの施術院や薬師ギルドのボランティアなんかが候補だ。治療魔法との融合もできたら尚良し。
エイコーは使える魔法のバリエーションを増やすこと、そのためにもマナの保有量を増大させることが急務だ。
それにはマナが枯渇するまで使って回復させるのが最短の方法らしい。
しかしマナが枯渇すると、二日酔いを何倍にも酷くした体調不良に襲われるらしい。ご愁傷様である。
スキルの精度やバリエーションを増やすため、魔法訓練と並行して、辻占いの屋台を出して接触する人数や種族増やしていくことになった。
もしかしたら、有益な情報を手に入れることもあるだろうから。
トシは使用できるサブスキルに習熟することと情報調達能力の向上に取り組むことになった。
クメールと組んで、エイコーが町で集めた噂や相談事の裏取りや、場合によっては解決に動く。
ゆくゆくは裏社会を牛耳っていけたら神殿への対抗手段となるだろう。
ミーナは、怪しまれない程度に教団とは距離を置いて、動向を把握することに努めてもらう。教団は現状ジリ貧で今後もあまり期待できないし、かといって敵対されるとそれはそれで厄介な存在になる。
現状維持でせいぜい神殿と潰し合ってくれればこちらも自由に動けるというものだ。
準備は着々と整いつつあった。
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