第12話

スミレとノノは寝るのを忘れて語り合った。

立方体の外にまで楽しそうな声が聞こえる程だった。


そんな時間も突然の終わりを迎える。

なんの前ぶれも無く立方体の一面が開いた。


「時間」


スミレは喋るのを辞めて立方体から出る。

長時間無理な体制でいたつけで体は凝り固まってあちこちが痺れている体を伸ばすと自然に色っぽい声が漏れる。


「クスッ」


思わずノノが笑うとスミレが拗ねたような顔を見せた。


「笑わないでよ」

「えへっ。

仕返し」


そう言って笑い合う二人に精霊王は無慈悲に言い放った。


「ノノ。

自由の時間は終わり」


近くには2人の精霊が小さな檻を運んで来てる。

ノノはそれに少し怯みながらも笑顔を絶やさずにいた。


「ありがとうスミレ。

楽しかった」

「私もよ」

「ノノンアール。

約束だ」

「ええ。

感謝するわ精霊王。

おかげで覚悟が決まった」


ノノは檻に向かって飛んで行く。

その後ろ姿を見たスミレは剣を生成して檻を吊るす鎖を断ち切った。

そしてノノを優しい掴んで逃走した。


「ダメだよスミレ!

約束は守らないと!」

「ノノ。

出口はどっち?」


スミレはノノの静止を無視して元来た道を全力で駆け抜けて行く。


「無理だよスミレ。

ここでは精霊王の力は絶対。

この町から抜け出す事は出来ない」

「そんな事無いはず。

ノノ教えて。

出口は何処にあるの?」

「出口に行ってもダメだよ。

ここから出るのには精霊王の許しがいる」

「その出口は何処?」

「このまま真っ直ぐだけど……」


スミレはノノに言われた通り真っ直ぐに進む。

気味が悪いぐらい追手は来ない。

でもそんな事を気にしている時間は無い。

ただひたすらに駆け抜けた。

そして何も無い空間へと辿り着いた。


「ここだよ。

だけどここからは出れない」


本当にら何も無い空間。

スミレはなんとか出口を見つけようと見渡す。


「無駄だ。

ここからは私の意思が無いと出口は開かない」


スミレの後ろから精霊王が見下ろす。

スミレは振り向いて剣を構えた。


「ノノンアール。

こちらは要求をのんだ。

なのにこの仕打ちはどうしてだ?」

「言ったでしょ?

覚悟は決まったって。

私はあなたと事を構えてでもノノを自由にするわ」

「ダメだよスミレ。

謝って。

今ならまだ許してくれるかもしれない」

「嫌よ。

彼が元の世界に帰るのも嫌。

ノノが処刑されるのも嫌。

だから両方手に入れる。

どんな手を使ってでも。

彼ならそうする。

私も彼と同じ悪党だから。

彼に追い付く為にもどっちも諦めるわけにはいかない」


精霊王の周りに精霊達が集まってくる。

その精霊達がヒカゲと対峙した時にスミレに力を貸した精霊達。

精霊の中でも戦闘のエリート達だ。

そのエリート達が構える。


「スミレ。

辞めようよ。

私は罪に問われる事は覚悟してた」

「絶対に嫌」

「私も嫌。

こんな事になるなんて思っても無かった。

お願いスミレ。

精霊王には逆らえない」

「そうだノノンアール。

今ならまだ許そう。

約束を守れ」

「お断りよ」


精霊達の攻撃が一斉にスミレを襲う。

スミレは宙を舞い躱し、その剣で攻撃を弾く。

その攻撃は凄まじく、対応するのもやっただ。

その中でただ強かに精霊王の首を狙う。


「無理だよスミレ。

例えここを切り抜けられたとしても、精霊王に歯向かえば精霊術は使えない。

どっちにしても私とはもう会えない」


スミレは大量の剣を生成し超能力で飛ばして精霊達の攻撃にぶつける。

更にノノを放して背中で隠してから両手に剣を取り精霊達の攻撃を切り裂いていく。


「そうだったとしても関係無い。

例えもうノノと話す事が出来なくなったとしても、ノノと会う事が出来なくなったとしても、あんな窮屈な所に戻したりはしない。

それが間違った事だとしても関係無い。

私はヒーローじゃない。

悪党としてノノの自由は奪い取ってみせる」


精霊達とスミレの攻撃は均衡を保っていた。

しかし精霊王の元に他の精霊達が集まっていく。

それによって攻撃の手数は増えていく。

スミレも負けじと剣の数を増やして行くが限界はある。

遂に精霊の攻撃が無数の剣を潜り抜け、スミレの持つ剣をも弾き飛ばす。

そこにもう一撃が迫る。

その攻撃がスミレに直撃する寸前、一迅の風がその攻撃を弾き飛ばした。


「スミレ。

私も戦う。

ここまで私の事を思ってくれたあなたの為に」


その風を放ったノノが覚悟を決めた。

スミレが生成した剣にノノが風を付与していく。

スミレの魔力とノノの風が混ざり合って回転しながら精霊達の攻撃を巻き込みながら弾いて行く。


それほど時間経たずして精霊王の周りにいた精霊達は攻撃から一転防戦一方となっていた。


ノノはスミレ自身と両手の剣に風を付与した。

そして2人は精霊王目掛けて飛ぶ。

精霊達が精霊王の前に防御しようと集まってくるも、スミレの一振りから巻き起こる暴風で散り散りになった。


その隙間を台風のような風を巻き起こしながらスミレとノノは精霊王と突っ込んだ。

2人を巻き起こす風で精霊王の周りの精霊達は吹き飛んで行く。

吹き飛ばされない者もその場で耐えるのに精一杯。

もはや敵は精霊王ただ1人。

スミレの右手に持つ剣は濃い紫色からオーロラ色へと変わる。


スミレは渾身の一撃を放つ。

その一撃は精霊王の左腕によって阻まれた。

そして間髪入れずに精霊王はスミレにデコピンをした。

スミレの体は簡単に弾かれて地面に激突した。

その衝撃は凄まじく、スミレは何度も回転しながら数回地面に叩きつけられてから止まる。


「スミレ!

しっかりしてスミレ!」


ノノが急いでスミレの元に駆けつけた。

スミレは痛みに耐えながらもフラフラと立ち上がり精霊王を忌々しそうに見上げる。

その精霊王の両目からは涙が流れていた。


「悲しい。

ここまで精霊と心通わせる精霊術師を私は知らない。

精霊術師の為に精霊王たる私に歯向かう精霊を私はしらない。

故に悲しい。

そんな友情で結ばれた2人を処分しなくてはならない。

もう一度だけチャンスをやろうノノンアール。

あの男をこの世から排除せよ」

「断る」

「どうしてだ?

それさえしてくれればノノの罪には目を瞑ろう。

2人の友情の邪魔をしないと誓おう。

なのに何が不満なのだ?」

「私はヒカゲを失いたく無い。

ただそれだけよ」

「そうか。

意思は変わらぬか。

ならば仕方がない」


精霊王は右の掌を真っ直ぐ上に向ける。

その先で火、水、風、地、雷の力が集約されて渦巻いて球体になる。

その球体は時間と共に大きくなっていく。

もはやさっきスミレとノノが合わせて作り上げた力を遥かに凌駕する力が集まっていた。

その凄まじさから周りに居た精霊達はみんな避難をしていた。


「私とて本意では無い。

しかし私にはこの世を守る使命がある。

許せ。

この世の守護者たる精霊王としてこれ以上譲歩する事は出来ぬのだ」


精霊王は涙を流しながら言葉を紡いだ。

彼の言葉に嘘偽りは無い。

精霊王はスミレとノノを殺したくは無かった。

だが彼に課せられた使命がそれを許してはくれない。

精霊王は使命の為に自らの心に鞭を打つ。


「ノノ。

あなただけならこの地から出れるの?」

「そんな事はしない」

「しないと言う事は出来るのね」

「嘘は付きたく無いから言うけど出れるよ。

でも出ない」

「ねえノノ。

お願いを聞いて」

「嫌だ。

聞きたく無い」

「大丈夫よノノ。

私は諦めていないわ。

絶対に諦めない。

でも、万が一にもダメだった時。

ノノはヒカゲの所に行って」

「そんなの嫌だ」

「お願い。

万が一の時は彼に伝えて欲しいの。

私は最後まであなたの美学を貫いたって」


スミレもまた言葉に嘘偽り無かった。

決して諦めてはいなかった。

けれど賢い彼女はダメだった時を考えずにはいられなかった。

そして確信していた。

ヒカゲならばノノを守ってくれると。

精霊王にも負けないと。

その為に精霊術を見せた。

初見で無ければ万が一もありえない。

そう信じてやまなかった。


スミレは右手の剣にありったけの魔力を注ぐ。

ノノも風を付与する。

精霊王はあえてそれを待ってから球体を放った。

ゆっくりとしかし確実にスミレの方に向かって来る。

彼女が見た走馬灯は全てヒカゲとの物ばかり。

そして彼女はポツリを呟く。


「やっぱり一度ぐらい抱いて欲しかった」


その声は空が割れる音に掻き消された。

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