第14話
僕の自己満足の為だけに、死という絶対的な理を捻じ曲げると言う悪夢のフィナーレ。
その後について少し話をするね。
別次元から帰って来た僕に視界は真っ暗だった。
なんか体の感覚も無い。
「バカ。
ヒカゲのバカ。
バカバカバカ。
こんなの嫌だよ。
死なないでよ」
シンシアの泣き声が聞こえる。
なんで泣いてるの?
泣かないでよ。
もう君が死ぬ運命は無いんだよ。
「好きなの。
大好きなの。
初めて会ったあの日から。
あの日のヒカゲの言葉が無かったら私は私を嫌いになってた。
私が私で居られるのはヒカゲが居たからなの。
だからずっと側にいてよ」
段々と体の感覚が戻って来た。
どうやら僕を抱きしめながらシンシアが泣いてるようだ。
「週末一緒に遊園地行くって言ったじゃない。
あんたから誘ったんじゃない。
ちゃんと連れて行ってよ。
約束したでしょ」
「もちろんだよ。
ちゃんと予定空けてるよ」
シンシアはバッと僕を引き離して真正面から顔を見て来る。
「どうしたの?」
「生きてる……」
「生きてるよ。
普通に」
「え!?え!?
でもあいつに体を貫かれて……」
シンシアが確かめるように僕の体を見た。
そんな傷は今は無い。
「なんで?」
「なんでだろう?
僕もよくわからないや」
「大丈夫なの?」
「まあ、なんとも無いね」
シンシアがまた抱きついて泣き出した。
「泣かないでよ。
もう大丈夫だから。
死神にも話つけて来たから」
「意味わかんない。
そんなのどうでもいいの。
ヒカゲが無事なら私なんて……」
「あー、また言ったな。
チューしてやる」
「いいわよ」
「え?」
シンシアが少し離れると僕の顔の前で目を瞑った。
「えーと……
シンシア。
意味わかってる?」
「わかってるからこの体制で待ってるの」
そう言うシンシアの顔はもう真っ赤になっていた。
恥ずかしいならやらなきゃいいのに。
「違うんだよ。
そこは嫌がる所であってだね」
「早くしてよ。
恥ずかしいんだから」
「なら辞めてもいいんだよ」
「あんたが言い出したんでしょうが」
「そうだけどさ……」
「するの?しないの?
どっち!」
「えーと……
しません」
「なによ、意気地なし」
シンシアはフンッとそっぽを向いて唇を尖らせた。
その仕草も可愛い。
「怒ってるの?」
「怒ってる」
「なんで?」
「私が勇気出したのに意気地なしな事。
そのくせ、私の体を触って楽しんでた事。
なにより……」
シンシアは僕の方を向き直して真っ直ぐに僕の目を見た。
その瞳はまだ涙で潤んでいる。
「私の身代わりになって刺された事」
「いや、それは仕方なかったと言うかだね」
「本当に死んじゃったかと思った」
「まあ臨死体験はしたかな」
「バカ」
「確かに僕はバカだけど、バカな事したとは思って無いね」
「バカバカバカ」
「そんなに言わなくても良くない?」
「無事ならさっさと無事って言いなさいよ」
「いや〜意識はあったんだけどね、なんか体が動かなくて」
「なんであんな事したのよバカ」
「だってシンシアは僕の大切な妹だからね」
「その言い方ヤダ」
「何がヤダなの?」
「大切な妹って言い方」
「そう言われても本当の事だし」
シンシアがムッとした顔で僕を睨んだ。
「せめて大切な女の子って言って」
「意味一緒じゃない?」
「違う!」
「まあいいけど。
シンシアは大切な女の子だよ」
「うん」
シンシアは満面の笑みを浮かべた。
この笑顔がまた見れたから体を張った意味もあったってものだ。
「ちょっと待って!?」
ビックリした〜
急にシンシアが大きな声を出すんだもん。
「どうしたの?」
「あんたさっき意識はあったって言ったわよね?」
「うん、言ったよ」
シンシアはなんか少し考え始めた。
それから心配そうに僕を見る。
「いつから?」
「え?」
「いつから意識あったの?」
「いつからって少し前から」
「もっと具体的に!」
「具体的って言われてもな……
なんかシンシアがバカバカ言ってたあたりから」
シンシアの顔が一瞬で真っ赤になった。
ボンッて音が聞こえた気がするくらいに。
「違う!
違うから!
大好きって言ったのは……
その違うから!!」
「わかってるよ。
そんな事無いぐらい」
「それも違う!
違わないけど違う!」
「ん?
どう言う事?
なにが言いたいの?」
「だってだって!
思わず本音が出ただけなの!
だから違うの!
違わないけど違うの!」
「ごめん、全然意味がわからないや」
「もっとちゃんと言いたいの!
気付けバカ!」
次の瞬間にはシンシアの唇が僕の唇に触れた。
時間にしたら一瞬だったのに、唇の柔らかい感触とシンシアの早い鼓動が感じられた。
「ありがとうヒカゲ。
大好き。
だから私を妹としてじゃなくて1人の女として見て」
「気の迷いじゃない?」
「そんな訳無いでしょバーカ」
そう言うシンシアは清々しく微笑んだ。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
何処の国の土地でも無い、地図にも載っていない島。
島の周りは断崖絶壁で囲まれており、普通に上陸するのは不可能。
島全体は深い森となっていて、遥か昔から変わらぬ自然が広がっている。
ここには資格の持つ者しか足を踏み入れてはいけない。
そこに少し前からスミレは1人足を踏み入れていた。
“これでわかったはず。
あの男は危険”
スミレの頭に直接声が響く。
「そうね」
スミレは淡々と短く答える。
スミレの周りには誰もいない。
まるで独り言のように見える。
“世界とは絶妙なバランスで保たれている。
そのバランスが崩れると世界は崩壊する”
「だから?」
“お前はわかっている。
それが何を意味するかを”
「ええ」
“ならばあの男をこの世界から排除せよ”
「嫌よ」
“これでも譲歩している。
消去しろとは言っていない”
「断る」
沈黙が流れる。
森に柔らかい風が吹き抜ける音だけが響く。
“ならば仕方ない。
ノノを極刑に処す”
「待って!」
今まで冷静だったスミレが取り乱した。
「何故そんな話になるの!
あの子は関係無い!」
“関係ある。
彼女は罪を犯した。
その結果がこれだ。
然るべき罰を与える”
「あの子はただ私の問いに答えてくれただけよ!」
“それが罪。
箝口令が敷いていた”
「だからって処刑だなんて」
“猶予を与える。
ノノの処遇はお前次第だ”
それっきり焦りと悲しみの表情を浮かべるスミレの頭に声が響く事は無かった。
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