第12話

観覧車ってのは時間がかかるのが難点だと思うんだよね。

この観覧車なんて一周30分かかるんだって。

つまりヒナタ達を見たのが頂上手前ぐらいだったから15分ぐらい経ってるのかな?


「次は何に乗ろうかしら?」


リリーナは楽しそうに次のアトラクション選びに没頭している。

なんかいつもよりはしゃいでる気がしないでも無い。

これが遊園地の力なのかもしれない。


「ねえリリーナ」

「嫌よ」

「まだ何も言って無いよ」

「デートを切り上げたいでしょ?」

「うん」

「絶対嫌!」

「だけど――」

「って言いたいけどいいわよ」

「え?」


絶対殴られると思ったのに予想外の答えが返って来た。


「どうせヒナタちゃんでしょ?

いいわよ行って。

そのかわり続きは明日よ。

全制覇出来なかったら明日って約束したもの。

あとちゃんと明日迎えに来る事」

「わかった」

「じゃあ行ってらっしゃい」

「行ってきます」


僕はリリーナに見送られて王都を抜け出した。

そのまま森林に入る。


リリーナにはああ言ったけど、ヒナタの方はツバキも居ることだし大丈夫だろう。

と言う事だから僕は僕のやる事をやろう。


『ひれ伏せ』


僕の言霊でチェスターに飛びかかっていた獣人達を残らず地面に叩きつけた。

何が起きたかわからない様子のチェスターの元に歩いて行く。


「あのさ。

君が死を覚悟するのは勝手だけどさ。

うちは完全成功報酬制なんだよ。

死なれたら報酬受け取れないじゃん」


カナリアが頑張って仕事してるのにタダ働きになったら可哀想だからね。

こいつにはそれまで生きといてもらわないとね。


「君は?」


なんて察しの悪い奴。

ちょっと考えたらわかるじゃん。


「僕が誰とかどうでも良くない?」

「そうかもしれんが……」

「お前は何者だ?」


今度はローツが僕に聞いて来る。


おやおや。

僕の言霊に抗うとはなかなかやるね。


「あのさ〜

聞いてた?

君にとっても僕が誰とかどうでも良いでしょ」

「これは群の問題だ。

他人は邪魔をするな」

「本当に僕の話聞いて無いんだね。

このおっさんはウチの依頼人なの。

仕事終わってもおっさんが死んでたら報酬貰えないの。

わかる?」

「その男は群の秘宝を盗み出した大罪人だ」

「知ってるよ。

さっきの話聞いてたから」

「ならば何故庇う」


え〜

なんなのこいつ?

全員僕の話聞いて無いじゃん。


「だ・か・ら。

このおっさんを庇うとかじゃなくて、このおっさんから報酬を貰わないといけないの。

なんでわからないかな〜」

「その男を庇うと言うのなら容赦はしない」


ダメだこいつ。

全然話が通じない。


「辞めといた方がいいよ。

命は大事にしないと」

「そう思うのなら今すぐ立ち去れ」

「それだと報酬貰えないんだってば。

そうだ。

1日だけ待ってよ」

「は?」

「今日中にはお仕事終わると思うんだよね。

そうすれば報酬貰えるから、その後は煮るなり焼くなり好きにしていいよ」

「我々にその提案に乗るメリットが無い」

「あるよ。

ここで僕に全滅させられるっていう最悪のフィナーレにならなくて済むよ」

「妙な術を使えるようだが、これしきの事で我々に勝てるとでも思っているのか?」

「勝ち負け以前に勝負にもならないと思うけどな〜」


ローツが言霊から抜け出して飛びかかって来た。

自信満々なだけあってかなりの身体能力だ。

と言っても驚異って程では無い。


僕がローツの顎を蹴り上げると真上に飛んで行った。

このタイミングで言霊を解除したら、単純な部下達が向かって来る。

その同数のジャベリンを生成して矛先を全員に向けた。


「はい、お終い」


ジャベリンが全ての部下を貫く。

その全てが跡形も無く蒸発した。


「暗部とか言ってた割に動きが単純過ぎるよ。

自分達のフィジカルを過信してる証拠だね」


リボルバーを生成して落ちて来るローツに銃口を向けた。


「おやすみ。

永遠の眠りの中で終わらない悪夢を」


ローツを撃ち抜いて絶滅させる。

死体は落ちて来る前に空中で蒸発させた。


「そうか……

君が……

キャメロットの言っていた……

ボスか……」


チェスターが胸を押さえながら息途切れ途切れに言う。

半分ぐらい息する音で聞きづらい。

もう寿命は無いだろう。


「キャメロットってのが誰かわからないな。

それにしても随分と苦しそうだね」

「多分……

もう持たない。

ここが死に場所なのだろう」

「おっさんも話聞いて無いの?

おっさんが死んだら報酬貰えないじゃん」

「今渡す……

だから一つ頼まれて欲しい」

「内容によるね」

「キャメロットにすまなかったと伝えて欲しい」

「はぁ?

嫌だよ。

そうやって死に際だからってお願い聞いてくれると思った?

死に際の言葉なら許して貰えると思った?

それともそれを伝えて死ねるからって自分だけ楽になろうとしてる?

なんて図々しいんだ。

自分で言いなよ」

「しかし……

俺には時間が……」

「ゴチャゴチャうるさいな〜」


僕は力を使って痛みだけを和らげる。


「な!?

痛みが無くなった!」

「別に治療したわけじゃないよ。

痛みが無くなっただけ。

もうすぐ死ぬ事には変わらない。

でもそれでまだ耐えられるでしょ。

だから自分の口で直接謝りなよ。

言い逃げなんて僕が絶対許さない。

それで許して貰えるか貰えないかはっきりと分かった上であの世に行け」


これがカナリアと会う前だったら間違い無く殺していた。

でもそれを阻止出来なかったのは僕の失態だ。

なら僕が今出来る事はこのおっさんに楽に死なせない事。

きちんとカナリアへの精算をしてあの世に行かせる事だ。

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