第16話
ルリがドラゴンに向かって優雅に礼をした。
ドラゴンはそれをただただ見つめる。
「マスターのご期待に応えて華麗に討伐して見せます」
ドラゴンは水流を吐く。
それをすり抜ける様に飛んだルリが顎にステッキを突き刺す。
軽くのけ反ったドラゴンの頭に周り込んで脳天をステッキで叩きつけた。
派手な水飛沫をあげてドラゴンが沈む。
「ではとどめを――」
「させない!」
天井の穴からクリファがルリ目掛けて舞い降りて来る。
その間に割り込んで刀でダブルセイバーを受け止めた。
「また会ったな龍神の巫女よ」
「どけ!
ナイトメア!」
「そんな寂しい事言わずに俺と舞おうではないか」
水中から真っ直ぐと水流が上がって僕とクリファの間を裂く。
ドラゴンが大口を開けてルリに迫るがルリは軽く躱した。
そのままドラゴンは水中へとダイブして行きながら尻尾でルリを襲う。
ルリのステッキから抜いた仕込み刀が尻尾の先を切り落とした。
「ギャャャャャャーーーー!!!!」
金切り声のような叫び声を上げながらドラゴンが顔を出して水流を吐き出す。
痛みでのたうち回っているのか、乱雑に頭を振る為水流が天井を切り裂いていく。
「龍神様!
お気を確かに!」
龍神に訴えるクリファに水流が迫る。
おい。
こいつ避ける気が無いぞ。
僕は刀で切り掛かる。
クリファがダブルセイバーで受け止めた瞬間魔力を爆発させて弾くと、その後すぐにクリファがいた所を水流が切り裂く。
尚もドラゴンを気にするクリファに再び切り掛かる。
クリファも再びダブルセイバーで受け止めた。
「おいおい。
よそ見とは酷いではないか。
嫉妬で狂いそうだ」
「今はお前に構っている暇は無い!」
「そう言わずに構ってくれよ」
「邪魔だ!
離れろ!」
クリファが押し返して来るが、すぐに切り掛かる事で否応無しに応戦させる。
前回同様、いや前回以上のスピードと身のこなしだ。
ダブルセイバーなんて前世では見た事が無い。
それは扱いが難しいからだ。
どう考えても自傷のリスクと利便性が釣り合っていない。
僕もそう思っていた。
だけどその認識を改める事にするよ。
それだけクリファは使いこなしている。
一本の武器なのに二本の武器が変幻自在に襲って来る感覚。
そして空いている左手の使い方が上手い。
鋭い攻撃やフェイントをダブルセイバーの攻撃の合間に入れて後隙を無くす。
と思ったら攻撃を逸らす防御にも使う。
更に両足と尻尾も織り交ぜる事によって無限のバリエーションの攻撃や防御を披露してくれる。
そして前回と違って無駄な動きは全く無い。
惚れ惚れする動きだ。
なにより最低限の布から覗くスレンダーな身体が煌びやかだ。
僕はウキウキしながら刀を交える。
「なんていい女だ。
見てるだけで興奮して来るぞ」
「なっ!?
黙れ気持ち悪い!?」
「黙らないさ。
そのしなやかな動き。
それによって見える煌びやかな身体。
眼福としか言いようが無い」
クリファの動きが更に速く鋭くなった。
間違い無く嫌がっている。
「だが不満もある。
どこか他所に気を取られている。
俺は嫉妬深いんだ。
ルリ。
片付けろ」
「分かりましたマスター」
ルリがドラゴンに目掛けて指を鳴らす。
すると天井の穴から真っ直ぐに密度の濃い魔力の柱がドラゴンを飲み込む。
ドラゴンの聞き取れ無い苦しそうな雄叫びが響き渡る
「バーン」
ルリの声に合わせてドラゴンは破裂してした。
「龍神様ー!!」
クリファが絶望の声を上げて動きが止まった。
「どうでしたかマスター?
マスターのようなオーロラにはまだなりませんが」
「素晴らしい光景だったぞ」
「ありがとうございますマスター」
ルリはシルクハットを脱いで、舞台を終えたかのように優雅に礼をした。
「よくも!
よくもよくも!!」
再びクリファが攻撃して来る。
また一段階速く鋭くなっている。
「よくも龍神様を!
殺す!
今ここでお前を殺す!!」
「やっと本気で俺を見てくれたか。
嬉しいぞ煌びやかな巫女よ」
僕は空いてる方の手にも刀を生成して応戦する。
凄い。
凄いぞ。
凄く強いぞ。
なんて言う怒涛の攻撃。
この世界で戦った中でもトップクラスの強さだ。
まだこんな逸材が居たなんて。
この世界はなんて広いんだ。
彼女はきっと善人だ。
今にして思えば悪党で無くて良かった。
だってこんないい女を一度犯すだけで殺すなんて勿体なさ過ぎる。
「死ね!
ナイトメア!!」
「そんな熱烈に名前を呼ばれると激って来るでは無いか」
この純度100%の殺意。
その全てを一身で受けていると言う優越感。
一瞬の油断で死ぬと言う緊張感。
もう堪らない。
「そんなに龍神様とやらが大事か?」
「当たり前だ!」
「何故?」
「龍神様は私達竜人族にとっての神様だ。
神様が大事なのは当たり前の事だ」
「ただそれだけか?」
「それ以外に何がある?」
「素晴らしい信仰心だな。
俺には理解出来んよ」
「お前みたいな奴にわかってたまるか!」
「ならば教えてくれ。
それは龍神様とやらに殺されてもいいと言う事なのか?」
「それが龍神様の意思というのなら、私は龍神様の巫女としてこの命を捧げる」
「そこに何の意思がある?」
「神様の意思なんて私には計り知れない。
だけど必ずや竜人族を救ってくれる」
「ハハハハハ。
これは傑作だ。
傑作過ぎて笑えて来る」
「なにがおかしいんだ!」
クリファの攻撃の隙を突いて蹴り飛ばす。
クリファは背中きら壁に激突した。
その衝撃でドラゴンによって切り刻まれた天井が崩れ始める。
「お前1人の命で竜人族全てを救ってくれるのか?
それは安上がりな神様だな」
「龍神様を馬鹿にするな!」
クリファがダブルセイバーを投げる。
僕は回転しながら迫るダブルセイバーを刀で弾き飛ばす。
「馬鹿になどしていない。
俺が馬鹿にしているのは、自らの命にそれだけの価値があると過信している煌びやかな巫女。
お前だ」
本格的に崩れて来た天井の瓦礫が雪崩となって僕とクリファの間を隔てる。
「グッド・ナイト・今宵はいい夢を」
僕とルリはその雪崩に紛れて洞窟から逃げ出した。
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