授かったスキル【クラッシュ&ビルド】で異世界を好きに生きる

シマリス

第1話 おっさん転生する

目を開けると壁だった。

いや、壁というよりは岩肌?

見渡すと周囲には鬱蒼とした木々が生い茂っている。


そうだった。


俺は趣味のソロキャンプ中に足を滑らせて崖から転落したんだ。


だが、不思議と怪我はしていないし持っていた荷物も見当たらない。


見上げると五十メートルほどの崖上からは未だにパラパラと小石が落ちている。


「あそこから落ちたのか」


服は防寒用のウィンドブレーカーを来ていたはずだが、随分とみすぼらしい簡素なものに変わっている。


郡司健吾、アラフォー独身。

ゲームとキャンプが趣味の何の取り柄もないおっさん。


最近はお気に入りの焼酎をロックでちびちびやりながら、テントの中でゲームをするのが至福の時。


記憶は残っているし、崖から落ちたことも鮮明に覚えている。

ただ、なぜか服装が変わっていて、体つきも以前のビール腹からほっそりスリム体型になったような。


一体どうなってるんだ?


「死んじゃったね」


ビクッとして声のした方を見ると、誰もいなかったはずの空間に無邪気な笑顔をたたえた男の子が立っていた。


「…」


なんと言ったらいいか分からず、振り向いた姿勢のまま立ち尽くしていると男の子が続ける。


「ごく稀にあるんだよ。別々の世界がつながって肉体が入れ替わっちゃうってのが」


何を言ってるんだ?

俺は死んだのか?


「君は?」


「僕はこういうイレギュラーな時に派遣される案内人」


「あんないにん?」


彼の話によると俺は崖から落ちて死んだが、別世界で復活したらしい。


同じ時間とシチュエーション、その他にもいろいろな偶然が重なると発生する極めて珍しい現象なのだとか。


俗に言う転生ってやつ?

本当にあったんだな。


「そうそう。入れ替わりは天文学的確率なんだけど、僕にとってはよくあることでね。前は科学中心の世界だったんでしょ?

ここは魔法中心の世界だよ。科学力はあんまりだけど」


なるほど。

心の中も読めるとはすでに人でないことは理解した。魔法の世界。そういうのは散々読んできたから割と理解しやすい。


「うんうん。僕は人じゃないよー。この世界では十五歳の時に天啓っていうのがあって特殊スキルと魔力が与えられるんだ。みんなその力を活かして生活していて、君のその身体にも新しいスキルが宿ってるからあとで見てみなよ」


魔法にスキルか。どちらかというとゲームっぽい世界のようだな。


「どんなスキルなんだ?」


「物作りだったかな。詳しく説明してる時間はないから使って確認してみな! すぐに慣れるからさ」


クラフト系か。確かに俺にはぴったりの能力かもしれない。


「なんとなく状況は分かった。こういうのは前世でもよく知ってるよ」


「そうでしょ。さすが選ばれただけあるね。話が早くて助かるよ。この世界は能力も数値化してくれるから分かりやすいと思うよ。いきなりの異世界じゃ可哀想だから言語能力とこれをプレゼントしておくね」


少年はにこりと微笑み、無地の小さな巾着袋を手渡してきた。


「それはどうも」


「君と会うのはこれが最初で最後。残念だ〜。でも、こう見えて僕すごく忙しいんだ。傷は治しておいたから。見た目はちょっとあれだね、ぶっちゃけ汚らしいけど、少しは若返、、そんなに変わらないか。とりあえず、あとは好きに生きてね〜」


そういうと少年はヒラヒラと手を振りながらすっと姿を消した。


何の説明もなく、忙しない少年だ。

いや、少年なんて呼ぶのはおこがましいのか?


きっと神の使者のような存在なのだろう。最後の言葉が少し気になるが、まぁ見た目なんてどうでもいいや。


何ともあっさりと転生してしまったな。


生活のために安月給で働き仕事帰りやたまの休日に趣味の世界に浸る。昔からの友人や会社の同僚と飲みに行って愚痴を吐く。

それはそれで悪くない人生だった。


しかし、未練があるかと言われれば、特に戻りたいというほどでもない。


こんな考えだから転生適合者に選ばれたのか? 家族がいたり、勝ち組だったらこんなふうには思わないのだろう。


四十にもなると急激に体力の衰えを感じるし、元々もてなかった女性関係には拍車がかかり、近寄るだけで気持ち悪がられる始末。

結果、自分の世界に入り込む。


何事にも腰が重くなり、チャレンジ精神は減る一方だ。


唯一気がかりなのは年老いた母親くらいか。

去年親父が死んだショックで急にボケ始めたから、ちょくちょく顔を出していたが大丈夫かな。


ぽっくり逝っちまうんじゃないかと心配していたのに自分が先にぽっくりするとは。あとのことは妹夫婦に任せよう。


この世界で生き抜いていける保障はどこにもないが、一度終わった人生。たとえ失敗しても悔いはない。残された時間を目一杯楽しませてもらう。


たとえ別世界でも生き返っただけ運が良かったんだ。


そういえば能力が見れると言ってたな。

やり方を聞いていなかった。

辺りを見回してもステータス画面のようなものは見えない。


「ステータスオープン」


発声してみたものの変化なし。


しかし、目を閉じて念じるとそれはあった。

瞼の裏にはっきりと浮かび上がる文字。


【魔 力】100

【能 力】筋5 知5 速5 器5

【スキル】収納Max

【ギフト】クラッシュ&ビルド


スキルにステータス。

収納はさっき言ってた袋と連動しているのかな?


Maxとはスキル名なのか、はたまたレベル的なものなのか。

よく分からんが、凄そうなのは間違いなさそうだ。


言語能力のおかげで俺の知っている言葉に変換されているのかもしれない。


そして、もう一つの方が十五歳の時に授かるというユニークスキル。新しいと言ってたから前のこの体の持ち主とは違う能力なんだろうな。


「クラッシュ&ビルドか」


物作りスキルと言ってたし、これもそのままっぽい。物を壊したり、作ったりするスキルなんだろう。


前世でシリーズ初期からやってきた大人気オンラインゲーム『ユアーズクラフト』

通称『ユアクラ』


建物を建てたり、武器を作ってみたり、爆弾でいろいろなものを爆破してみたりと自由度が非常に高いクラフトゲーム。


バックミュージックもなく作業音だけというのが無性に制作意欲をかき立てられた。


最新版ではパソコンでしかできなかったフリークラフト機能が実装され、新ステージも大幅リニューアルされていた。


やりたかったなぁ。


最初はコツコツと豪邸建てたり、人が作った世界をダウンロードして遊んだりするくらいだったけど、終いにはプログラム組んで好き放題してたっけ。


やり始めると時間を忘れて没頭しちゃうんだよな。


「さて、早めに能力を確認しておくか」

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