波打ち際で紡ぐ夏
灯月冬弥
第1話 夏の始まり
空が少しずつ朱に染まり始めた夕暮れ時、蝉の声があたり一面に響き渡っていた。茜色に染まる空の下、波打ち際を歩く少女が一人、静かにその景色を眺めている。少女の名前は、佐藤真由美。高校二年生で、少し内気な性格だが、その瞳には誰にも負けない強い意志が宿っている。
「今年の夏は、何か変わる気がする…」
真由美はふとそう呟き、裸足で砂浜に立つ自分の足元を見つめた。夏休みに入ってまだ数日しか経っていないのに、彼女の心には一抹の不安があった。いつもと同じように過ぎ去ってしまうのではないかという不安。そんな中で、彼女は何かが起こる予感を強く感じていた。
その時、背後から元気な声が聞こえてきた。
「真由美!」
振り返ると、クラスメイトの高橋亮が笑顔で手を振りながら走ってくるのが見えた。亮はいつも明るく、誰にでも気さくに接するタイプで、真由美とは中学からの付き合いだ。彼は、真由美とは対照的に、無邪気でエネルギッシュな性格をしている。
「亮君、どうしたの?」真由美は少し驚きながらも微笑みを浮かべて答えた。
「いや、たまたまここを通りかかったんだ。君も夕日を見に来たの?」
亮は息を切らしながら真由美の隣に立ち、同じように空を見上げた。真由美はその顔を一瞬だけ見つめ、すぐに視線を外した。心のどこかで、亮の存在が特別なものになりつつあることを感じ取っていたが、彼女はその気持ちをうまく言葉にできなかった。
「綺麗だね、夕日」亮がぽつりと呟く。
「うん、そうだね…」
短い沈黙の後、亮が突然提案した。
「なぁ、真由美。今年の夏、俺たちで何か面白いことやらないか?何か、いつもと違うことをさ」
その言葉に、真由美の心は少しだけ弾んだ。何か新しいこと、何か特別なこと。それは彼女が密かに願っていたことでもあった。
「何かって…例えば?」
「うーん、まだ考えてないけど…一緒に何かを作り上げるってのはどう?俺たちだけの秘密基地とか、誰も知らない冒険とかさ!」
亮の言葉に、真由美は思わず笑みを浮かべた。その無邪気な提案に、少しずつ不安が消え去り、代わりに期待が芽生えてきた。
「いいかもね…何か新しいこと、やってみよう」
その瞬間、真由美は確信した。これまでの夏とは違う、何か特別な夏が始まる予感がする。波の音が二人の耳元でささやくように聞こえ、夕日が二人の影を長く伸ばしていた。
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こうして、真由美と亮の特別な夏が幕を開けた。次の瞬間、二人がどんな冒険を始めるのかはまだ誰にもわからないが、その先に待ち受けるものは確かに特別なものに違いない。
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