配信を切り忘れた女性VTuber、右手がドラゴンに覚醒してしまう!~配信切り忘れで住所がバレ、悪質なリア凸をされましたが、もう遅い!!!! 返り討ちにします!!!!~
琴珠
短編
ここは、とあるアパートの一室。
「皆さーん☆ おやすみなさいです☆ いい夢見てね☆」
パソコン画面に向かって、アニメキャラのような声を出す社会人女性。
その女性の動きに合わせるかのように、パソコンに映っている金髪の魔法少女のキャラクターが動く。
~コメント欄~
・おやすみ!
・仕事頑張れ!
・いい夢見ろよ!
このパソコンの前で喋っている女性は、VTuberだ。
同時接続数は20人程と、それ程多くはないが、少なくもない。
どちらにせよ、自分の配信を楽しんでくれる人がいるというのは、嬉しいものである。
「【キャラメルン】としての活動終わり! 明日に備えて寝よう!」
本名は【
今日もVTuberとしての活動を終え、明日に備えて寝ようとするのだが……
・配信切れてなくない!?
・マジだ!
・キャラメルン気付け!
メルは配信を切り忘れていた。
だが、本人はそのことに気が付いていない。
「えっと、そういえばそろそろ通販で欲しいものがあったんだよね! 住所は……」
なんと、配信を切り忘れたまま住所を口に出してしまった。
・うわあああああああああああああああああ!
・やばいやばい!
・ちょっ! マジでやばいって!
・うひょひょ! いいこと聞いたぜ!
そして、5分後。
バギッ!
何者かが、メルの部屋のドアを破壊し、部屋の中へと入ってきた。
「だ、誰ですか!?」
「誰だろうね? 俺は君を知っているよ? ね? キャラメルンちゃん?」
「VTuberとしての私の名前を知っているだと!?」
「うひょひょ! 怖いかい?」
部屋の中に侵入して来た男性は、40代くらいの見た目で、なんと右腕が虎の頭なのだ。
「その虎でドアを壊したのか!?」
「うひょひょ! その通り!」
このままではマズい、今すぐ警察に電話しなくては。
「させないよ!」
男は机の上に置いてあった、メルのスマホを破壊した。
「そんな!?」
絶望的状況であったが、ここでメルの右手が金色に光り輝く。
「なんだこの光はっ!?」
男は思わず叫び、その光が眩しかったのか、腕で顔を覆った。
「これは!?」
その光が収まった時、メルの右手は黒いドラゴンの顔となっていた。
「なんだと!? 覚醒しただと!?」
「これは……!?」
メルはドラゴンを見つめると、ドラゴンもメルを見る。
『メル! この勝負、勝つぞ!』
「喋った!?」
『ああ、そして俺の声は、共鳴者以外にはただの鳴き声にしか聞こえない。向こうも同じく虎と話しているだろうな』
先程から、あり得ないことが起こり過ぎであり、上手く状況が飲み込めない。
『時間はない。立て』
メルは立ち上がると、ドラゴンは言う。
『俺は攻撃をする。お前は回避に専念しろ』
「そ、そんな!?」
ドラゴンの首が伸びるように腕が伸びると、向こうの虎も同じく伸び、空中で互いの顔が何度も何度も激しくぶつかり合う。
とてもではないが、人間の目では負うことのできない速さだ。
「ちっ! まさかお前も覚醒するとはな! 折角、俺の女にしてやろうと思ったのに! どうだ? もしも俺の女になるっつーんなら、許してやるぜ?」
「断る!」
「なにっ!?」
空中でドラゴンと虎の激しいぶつかり合いが続く中、メルと男は会話を続ける。
「どうしてだ! 俺はお前のファンだったんだぞ!?」
「ファンなのは嬉しいが、私達はリアルで知り合い同士って訳じゃない。もしも、私と付き合いたいのなら、まずはVTuberとしての私じゃなくて、リアルの私と知り合いになるべきだった」
「なんだと!?」
「それに、私は普通の人間だ。VTuberだからと言って、特別な人間という訳じゃない。お前はVTuberに幻想を抱きすぎなんだよ」
「このガキガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
男は虎の首を引っ込めると、バックステップでドラゴンの物理攻撃をかわし、虎の顔をメルに向ける。
「食らえ! サンダーボール!!」
虎の口内から、青白い電気の球体が発射された。
『マズい! ファイアボール!!』
ドラゴンも首を引っ込め、電気の球体に向けて火球を発射する。
ぶつかり合ったそれらは爆発し、エネルギーは相殺された。
「許さんぞ!」
「それはこっちのセリフだ。お前の幻想は私が壊してみせる!」
「やってみろおおおおおおおお!!」
ここで、メルはドラゴンに向けて
「ドラゴン、防御を頼む」
『防御だと!?』
ドラゴンは困惑したが、再び虎とぶつかり合う。
メルは男に向かって走る。
「うひょひょひょ! 自分から来るとはな! 俺に惚れたか!」
「違うっ!」
メルは大きくジャンプをすると、空中で左手をギュッと握りしめた。
「確かに曲がってはいるが、お前の想いは本物だ!! そこは認める!! だがな!! 全てが自分の思い通りになる訳じゃねぇ!! 大体お前はこの状況でも、私が惚れていると勝手に思い込む時点で、幻想を抱きすぎてんだよ!! お前にももっと、違う道があっただろ!! やりたいことがあっただろ!! こんだけ行動できるんなら、そっちで頑張れよ!! 私と結ばれたからって、必ずしもお前の人生がハッピーエンドになるなんて、約束されてねぇんだからよ!! 本当にやりたいことから逃げる為に!! 本当に目指したいものから目を背ける為に!! 私を言い訳にしてるんじゃねぇよ!!」
熱血キャラのように、メルは空中で叫ぶ。
それに対し、男は一歩下がる。
「いや、キャラメルンちゃんが彼女になってくれれば、必ず俺は変われる! 俺の人生ハッピーエンド間違いなしなんだよ!」
「ああそうかよ!! だったら、まずはお前の中にあるその幻想を……
ぶっ壊す!!!!」
「ぐああああああああああああっ!?」
高所からダイブするように、メルは男の頬に左拳をめり込ませると、男は吹き飛び壁に叩きつけられた。
そのまま、座るようにぐったりと倒れると、気を失った。
『ガオ……』
男の右手の虎の顔は消え、普通の右手に戻る。
『終わったようだな』
「うん……」
激しい戦いであったが、最後はメルの拳により、決着がついたのであった。
『最後に話したいことがある』
「最後?」
『ああ。ほんの短い時間だったがな』
ここでドラゴンは今回の事件の真相を話す。
ドラゴンと虎は元々異世界のモンスターらしく、人間の腕を媒介にしてこちらの世界に一部だけ召喚されたようだ。
虎は異世界に強制送還されたようで、もうこちらの世界に顔を覗かせることもないらしい。
「でもどうして、私とこの男の腕に?」
『特定の条件を踏むことで、俺達はこっちの世界に顔を出せるんだ。モンスターによって条件は違うが、俺の場合は、【配信の切り忘れ】だな』
「え?」
メルはパソコン画面を見る。
すると、配信が切れていなかったことに気づく。
「うわああああああああああっ! 配信が切れてなかった!!」
・やっと気づいたかw
・気を付けろよ!
・無事だったようで何よりだ
・これは切り抜きされるなw
「こんなの放送事故だって!」
メルは謝罪をした後、大慌てで配信を切った。
『ということだ。短い間だったが、ありがとな!』
右手のドラゴンが金色に光ると、段々と右手に戻っていく。
「なんで!?」
『言っただろ? 条件は【配信の切り忘れ】だ。配信を切ったのもそうだが、そもそもお前が気が付いた時点でそれはもう切り忘れじゃないからな』
つまりは、自然な切り忘れ以外では、このドラゴンはこの世界では存在できないようだ。
「そっか……ありがとうね、ドラゴンさん」
『ああ! もしかしてまた会うかもだが、切り忘れには気を付けるんだぞ!』
「うん!」
その会話の後、メルの右手は元通りの右手に戻ったのであった。
男はその後、ご近所の通報によってやって来た警察に逮捕された。
◇
数日後の夜。
「どうもキャラルンです☆ 今日も1日お疲れ様☆」
仕事から帰宅したメルは、いつも通りVTuberとして活動していた。
配信の切り忘れ、それによって起こる事故は様々だ。
中には笑い話で済むものもあれば、今回のように事件に繋がる可能性もある。
配信者の危険は勿論だが、それをきっかけに、本来染めなくてもいい犯罪に手を染める者も出てくるかもしれない。
お互いの為にも、配信の切り忘れは回避しなくてはならないことなのだろう。
幻想を持つこと自体はなんら悪いことではない。
だが、その幻想を現実にしようとしてはならないのだから。
「今日も配信終わり! アイス食べようっと!」
『俺にも食わせろ!』
なぜか、右手がまたしてもドラゴンの頭になっていた。
これは一体……?
「ええ!? なんで君が!?」
『条件は教えただろ? 今すぐ切っても数分はこっちにいられるから、アイスを食べさせろ!』
「切り忘れってこと!? 大変だ!!」
こうして、今日も彼女の日常は続いていくのであった。
★
【あとがき】
面白かったら、評価などお願いします!
配信を切り忘れた女性VTuber、右手がドラゴンに覚醒してしまう!~配信切り忘れで住所がバレ、悪質なリア凸をされましたが、もう遅い!!!! 返り討ちにします!!!!~ 琴珠 @kotodama22
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