第2話 狂気の始まり2
乃斗はその本のページをめくり続けた。目に飛び込んできたのは、奇妙な文字や不思議な図像だった。彼はそれらの意味を理解できなかったが、その謎めいた雰囲気が彼の好奇心を一層かき立てた。ページには、異世界の風景や未知の存在についての記述があり、その一部は明らかに地球のものではなかった。
乃斗の手が震え始めたが、彼はページをめくる手を止めることができなかった。そして、あるページに到達したとき、彼の心は急に冷え込んだ。そのページには、巨大な都市の描写があった。文字はさらに奇妙で、その都市を「ルルイエ」と呼んでいた。図像には、巨大な海底都市と、それを支配する巨大な姿のものが描かれていた。乃斗はその姿が、夢の中で見た影と酷似していることに気付いた。
「これが…ルルイエ?」
乃斗は声に出して呟いた。心の中で何かが警告を発していたが、その都市の詳細を知りたいという欲望が勝っていた。彼はさらに読み進めた。
『ルルイエとは、太古に眠る邪神クトゥルフが封印された都市である。この都市は深海の底に沈み、彼の目覚めの時を待っていると言われる。クトゥルフの信徒たちは、この都市を聖地とし、その復活を祈り続けている。クトゥルフが目覚める時、彼の力は再びこの世界を支配し、人間の理解を超えた恐怖が訪れるだろう。』
乃斗はページをめくる手を止め、冷たい汗が背中を伝うのを感じた。彼が手にしているのはただの本ではない。そこには、現実のものとは思えない世界の知識が詰まっていた。そして、彼がその知識を深く掘り下げるにつれて、その世界が現実に近づいてくるような気がした。
その時、突然のノック音が家の静けさを破った。乃斗は驚き、本を閉じて立ち上がった。玄関に向かうと、ドアの向こうに立っていたのは、見知らぬ男だった。長いコートを着た彼の顔は影に隠れていたが、何か異様な雰囲気を漂わせていた。
「君がその本を手にしたのか?」
男は低い声で尋ねた。乃斗は警戒しながらも頷いた。
「その本は、君のような者が持つべきものではない。返してもらおう。」
乃斗は男の要求に困惑したが、なぜか本を手放すことに抵抗を感じた。それは単なる所有欲ではなく、本能的な何かだった。
「なぜ僕にそんなことを言うんだ?この本が一体何だというんだ?」
男は冷たい笑みを浮かべた。「その本は『ネクロノミコン』の断片だ。邪神たちの秘密が記された禁書だ。持っているだけで危険だ。君は既に何かを見てしまったのだろう?」
乃斗は何か言おうとしたが、言葉が出なかった。彼は夢の中で見た巨大な影と、その本に書かれた内容が頭を離れなかった。
「君はすでに選ばれてしまったのだよ、少年。古きものたちの計画に巻き込まれたのだ。」
男はさらに一歩近づき、乃斗の肩に手を置いた。「だが、まだ遅くはない。その本を返して、元の生活に戻ることができる。さあ、渡してくれ。」
乃斗は本を握りしめ、目を閉じた。何かが彼をその本に縛りつけているようだった。そして、その何かが乃斗に対して語りかけた。
「君は我らの秘密を知ってしまった。もはや後戻りはできない。」
乃斗はゆっくりと目を開け、男を見つめた。彼の中で何かが変わり始めていた。
「僕は…僕は、この本を返すことはできない。」
男は冷たくため息をつき、頭を振った。「そうか。では、君がその選択をしたことを後悔しないように願うよ。」
その言葉を最後に、男は闇に消えた。乃斗はドアを閉め、本を握りしめたまま、その重さを感じていた。それは彼の人生を一変させるものになるだろうと、彼は直感的に理解していた。
乃斗は再び机に戻り、本を開いた。その時、本のページから一筋の光が溢れ出し、彼の視界を覆った。乃斗は光の中で一つのシルエットを見た。それは巨大な、触手を持つ影だった。
「目覚めの時は近い…古きものたちの復活が始まる…」
その声が再び彼の頭に響き渡った。乃斗は恐怖と興奮に震えながら、本のページを見つめ続けた。彼の運命はすでに決まっていたのかもしれない。そして、彼はその運命に抗うことができるかどうか、まだ知る由もなかった。
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