流れ星

泥泥になって、くたくたの、いつもの帰路の真夜中の道を、無のままに歩いていた頃、辺りを明るくするほどの光が僕を通過して頭上で一瞬のうちに消えた。

きっと流れ星であろう。

それにしてはとても近い気がし、若干の疑いを持ったが深く考えるほどのこともなく、ただ、久しぶりの出来事に少々心が躍った。

僕は記憶していた。

いつだったか、仕事の打ち上げの会に呼ばれた時、宴もたけなわ、その間に一服をば、と幾人かでテラスに出て煙草をふかしていた。

窓を挟んだ向こうは賑やかなものだが、こちらは夜虫のさえずりが聞こえるほどの静寂。

深淵に漂う星々はとても美しく、知らなかったかのように、星が綺麗だ、なんて、物語の台詞のようなことを口々にする。

しかし誰もシニカルな態度を示すことなく、ただただ純粋に、見たままの感動を口にしているのだ。

燃え尽きて積もった灰が崩れ落ちそうになっているのに気付き、灰皿へ灰を落とした時、隣の人が「あっ、流れ星だ」と言った。

僕は食い気味になって言った。

「願いが叶うな!願いを言った方が良い。」と。

そんな出来事があったことすら忘れて久々に再会をしたところ、彼は願いを叶えていた。

心の底からめでたいと思った。

それを今この瞬間に思い出したのだった。

迷信である。

彼がその日まで耐えがたい努力と日々を過ごしてきた結果なのである。

しかし、そんな迷信を信じたくなる時だって、頼りたくなる時だってあるさ。

人でもなく、ものでもなく、自分自身でもなく、単なる純粋な、救いを信じてみたくなる時だってあるのさ。

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