吟遊詩人

おお、ついさっきまではあれだけ怒り散らかしていたというにに、なんだ次はこいつの肩を持つのかい。

ああ、多様性ってやつだね、分かるよ、万能な言葉だものな、違和感があるものの、納得する、というか、せざるを得ないものな。

悪さに目覚めたちんぴら見習いが、群れになって、ふっかけておいて向かってこられたら、上等だと言いながら被害者面して勝った気になって、正義面してへらへらしている奴らのお得意の論法というやつだ、いや常套手段か。

ん??仕事を終えた吟遊詩人がほら、一仕事終えて、にやにやしながら、食卓についてるぜ。

景気の良い声でいつものを通してご機嫌に一杯決め込んでいやがる。

あてはないかと目ぼしい料理にフォークを突き刺し、目前に持ってきてにやつく。

それをあてに両端のヴァイキングが汚ねえ唾を飛ばし合う。

その合間から汚ねえ咀嚼音を鳴らしながらけたけたと下品に声を上げ、机をたたいていやがる。

話題に飽きたなら次の食材でたきつける。

面白いほどに踊ってくれるもので、くだらなくどうでもよく意味のない市場ができて、無価値の品が飛ぶように売れて、そんでもって野次馬まで集まってきて、騒ぎに乗じて略奪、どっちが勝つかなんて博打がはじまって、目を血走らせたヴァイキング達が斧を持って場外乱闘にまで発展し殺し合いをはじめ、大いに盛り上がって愉快で仕方がない。

十分に満足して最後の一杯を一気に飲み干し、終わりの合図のでかいげっぷを鳴らしたとて、収拾のつかないこの現場を、ふらつく体で人込みをかきわけご機嫌に後にし姿を消す。

落ち着いたときには、何故こうなったのかも分からない群衆が、血に塗れた手でものを口にかきこみ酒で流し込み、下呂を吐き、用を足した時には夜空はなんて綺麗なのだろうか、なんてファンタジーの一説を呟くから鼻で笑ってしまう。

大切にしたかったものというのは、こんなにも近くにあったというのに、流れていくてめえの汚物すら見えていないし、自身を汚していることにさえ気づいていない。

蛮族の宴は未だ繰り返すものだ。

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