第23話 家を建てる時は業界の闇に注意が必要なんだって②
「今回は土地については直接関係なかったから問題ないが、不動産屋の対応で気をつけないといけないことも数点ある。」
「念の為に聞いておいていいかな?」
後学のためにも聞いておいた方がいいだろう。
「ああ、周りに土地や住宅を買う人がいるならアドバイスしてやってくれ。まず、土地だけを仲介する不動産屋というのは仲介料を少しでも高くしたいものだ。だから『家を建てるための土地が欲しい』と訪れると、総予算から最低限の建築費用を差っ引いた予算で土地を紹介してくる。」
「え、どういうこと?」
「例えば、総額4000万円で土地と建物を購入しようとする。そのうちの1000万円だけを建築費用として除外し、3000万円前後の土地を紹介してくるってことだ。」
「1000万円で家を建てられるの?」
それってヤバい家なんじゃないの?
「ローコスト住宅だとか、不動産屋の取り引き相手の工務店だとかで実際に建築は可能だろうな。ただし、ほとんどの希望は無視されるか、仕様が最低限のものになるかだろうが。むしろ、そういった住宅でキッチンや風呂などの設備が良すぎる家は、耐震性や断熱性などの機能面で劣ることも多いと考えればいい。」
「やっぱり何事も金額で左右されるんだね。」
「学校区の問題や実家に近いところ、通勤の利便性や周囲の環境など、土地選びというのは疎かにできない部分もある。なにせ一生暮らすかもしれないんだからな。近所づきあいなんかも皆無ではないし。ただ、身の丈にあった土地選びをしなければ、待っているのはローン地獄や自己破産だと言っておこう。」
「怖っ!?」
「話を戻すが、総予算の中で土地だけ比重が大きいとどうなると思う?」
「隆人兄ちゃんが言ったように、欠陥住宅を掴まされるよね?」
「そこは誤解しているな。ローコスト住宅だからといって、欠陥住宅とは限らないぞ。仕様書通りの建築で作業もしっかりとしていたら欠陥住宅ではないし、不法建築でもない。ただ、先ほども言ったように耐震性が低かったり、断熱性能が低くて大地震の際の不安や光熱費負担が大きいということになる。それもわかった上で建築を依頼するなら、ニーズに合った商品ということだ。」
「なるほど。家に何を求めるかで良し悪しが変わるってことだね。」
「そういうことだ。その辺りを最初から理解しておかないと、不動産屋の絶妙なトークで『少し高くてもこの土地を買った方がいい』という流れになって、軽く数百万の予算オーバーや希望に合わない家を建築することになる。」
「ええ、ヤバいなぁ。」
「保険と同じで不動産も素人にはよくわからない商品だ。だから国が宅地建物取引士という資格を義務づけて不正な売り方をしないようにしている。だけど、合法なら儲かるやり方をするのが鉄則だからな。最終的にローン額を増やすなり、満足度の低いローコスト住宅を建てるなりしても、不動産屋にとっては知ったことじゃないのさ。」
・・・世の中にはマジで怖い業界があるのね。
「俺だったらそんな所で営業やっていける自信がないなぁ。」
「俺も同じだ。商社にいたころにデベロッパーとして大規模な土地の開発に絡んだことがあったけど、その一部を住宅地として分譲したんだ。グループ内の不動産事業部が一手に引き受けたんだけど、そこから複数の仲介業者がいろいろとやらかしてくれたのを報告で聞いた。彼らは良心の呵責など感じない鋼のメンタルと、凄まじい金の亡者っぷりを見せつけてくれたものだ。すべての不動産屋がそうとは思わないけど、不動産事業部やグループ内の販売会社の奴らが、『不動産を売る時にいちいち客のことなんか気にしてられないですよ』と言っていたのには衝撃を受けたものさ。」
いや、それを聞かされた俺も衝撃的なんだけど。
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