第19話 車の所有権解除

「査定させていただいた所、目立った傷もなく走行距離も少ない。色も人気色で、社外品ですがナビもついている。車内もかなり綺麗な状態でした。大事に乗られていたようですね。」


「ありがとうございます。でも、ローンの残金があるから、買取額はそれほど期待できないのでは?」


「そうですね。一般的な買取ということであれば所有権解除に時間がかかりますから、本来は今の時点での買取はしておりません。残債を一括支払いいただいて、所有権解除の書類がそろったら改めて査定といった流れが正式な流れとなります。」


「やっぱりそうなんですか?」


「あくまで一般的な流れとしてはですがね。」


隆人兄ちゃんの紹介でやって来た中古車買取店は、俺が車を購入したディーラーの中古車部門の販売店だった。


「といいますと?」


所有権解除については、あらかじめ隆人兄ちゃんから説明されている。


車検証の名義人蘭には所有者と使用者の欄があり、ローンやリースを組んだ時には所有者は借入先やディーラーの名前が入るそうだ。


この所有者の名義が自分出ない場合、車の売却どころか住所変更も簡単にはできない仕組みになっている。


ローンを完済して初めて自分の車となるのだから、あたりまえのことだとは思う。ただ、そのために買取額がローン残金を上回っていても、簡単に売却することができないのである。


隆人兄ちゃんが車のローンは短めがいいというのは、金利手数料が低いということ以外にここがポイントでもあるらしい。


新車登録から三年で一回目の車検を迎える。その頃までにローンの支払いが終わっていれば、買取額も高めというわけだ。


「36回払いだとそれまでに終わらないのでは?」と聞いてみると、「ボーナス併用払いなんかせずに事前に繰り上げ返済するといい。早ければ早いほど金利の支払いが減るからな。そもそも、余裕のないローンを組むなんて独身貴族がやるべきで、家族を持ったらやっちゃダメだろう?それだけの稼ぎがあるなら一括で買うべきだし、家族を養う責任を持てないなら結婚なんてするなって感じだよ。」だって。辛辣だけど、確かにその通りだと思う。


「お客様は弊社の新車部門でローンを組まれています。これをご覧下さい。メーカー系のファイナンス会社をご利用ですので、車検証の所有者は弊社です。ということは、うちで買取りをさせていただければ、所有権解除や名義変更も弊社ですべて処理できます。」


ディーラーでメーカー系ローンを利用すると、所有者はディーラーになる。例えば、トヨタファイナンスならネッツトヨタ〇〇株式会社、ホンダファイナンスならホンダカーズ〇〇株式会社のようになると考えればいいようだ。


「でも、買取だとやはり減額なのでしょう?」


「実は、お客様の車は中古車市場でもかなりの人気でして、入荷待ちの方も数名いらっしゃいます。その方たちが購入したいとおっしゃるなら、所有権解除にかかる時間など問題にはならないでしょう。」


なるほど。


買い手がついてしまえば、所有権解除に多少の時間がかかっても商品価値が下がることはないということか。



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