After

カエル

0 凍結の空

 レイガは、長かった己が生涯の絶頂の回想に暮れた。

 ひたすら、いつか約束をした少女に向けた人生だった。決意で塗り固めた志も、人生から色を奪う戦も、足場を不可視のものにするほど積み上げた死体も、ただ、フランカの為に捧げた。

 あの日国をたつと告げた日、再会を誓った一国の姫、フランカの為に。


「随分待たせたな。フランカ」

「ずっと、ずっと待ってたんだから、レイガ」

 そうして、二人は長い長い旅路を経て結ばれた。

 随分長く、過酷で、それでも美しい旅路だった。故にいま手を伝い感じあう体温は、夜明けの冷気を忘れさせるほどに、優しく温かい。

 きっと彼らはそれを生涯誇っていく。その身体が薄汚れて、記憶が廃れて、精神が朽ちていこうともなお輝く景色になる。


 それが、彼らのエピローグ。

 物語の断崖。

 心が朽ちるという結末も、命が尽きるという終焉も二人には許されることはない。


「なに、これ」

 都市の最高に位置する城から、二人は世界を見下ろした。

 遠く、地平線が凍っている。淡い水色の凍土が彼らの国の領地を徐々に徐々に侵食していっている。国土も、人々も、氷結していく。

 その平穏の崩壊のさまはまるで、色を失っていく死体の様だった。

 掴み取った幸福が、手に入れた平和が折りたたまれていく様子を、二人はただ茫然と見つめることしかできなかった。


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