妹に全てを奪われた裏切り者の悪役聖女はひっそりとカフェ経営をする〜償いのために治療した兵器が溺愛してきます〜

k-ing@二作品書籍化

第1話 全てを失った聖女

「魔王討伐隊が帰ってきたぞー!」


 周囲は歓喜に沸き、民衆の声が空を突き抜けるように響き渡っていた。


「勇者様ー!」

「賢者様ー!」

「月影様ー!」


 討伐隊のメンバーは嬉しそうに手を振っている。

 ただ、そこに私が呼ばれることはなかった。


「あれが勇者たちの邪魔をしたって噂の聖女かしら?」

「やっぱり裏切り者の悪役聖女だから暗いわね」


 聞こえてくるのは私に対しての陰気な噂。

 それを否定するつもりはない。

 彼らのいうことは全て事実だし、私も受け入れている。


「セレーナ、気にすることない」

「いえ、大丈夫です」


 彼は優しく慰めているつもりなのだろうが、私自身その言葉を受け入れざるを得ないと思っている。


 自然に囲まれている我が国は魔物がたびたび襲ってくるため、少しずつ被害が拡大していた。

 それも全て魔王が存在しているからだ。

 魔王は国を支配するために、魔物を操っていると教えられてきた。


 そんな遠国の魔王を討伐するために、リヴァルト公爵家は王命により、隣国の魔王討伐隊の聖女として加わることになった。

 聖女と言っても役割上のことであって、聖国の聖女とは程遠い人物だと自覚している。

 代々リヴァルト公爵家は水属性魔法に優れており、その中に治癒の力がある。

 勇者たちの旅路を安全にするために……本来は次期当主の私ではなく妹が選ばれるはずだった。


 次期当主を支えるために勉学に励んできた鉄仮面のように無表情な姉。

 対照的にいつもニコニコと笑い、皆に好かれる妹。

 どちらが好かれるかといえば、誰が見ても妹の方だし、妹の方が聖女と言われた方が腑に落ちる。


 だが、最終的に選ばれたのは長女である私だ。


 魔法の実力は私の方が上だったのもあり、両親は可愛い娘を危険な場所に連れて行きたくなかったのだろう。


 両親は私に対しては次期当主を支えるためにと、厳しく教育していたからね。


 それに加え、私の方が生還する可能性が高いという判断もあったのだろう。


「本当にセレーナには優しいのね!」

「裏切り者の悪役聖女のくせに……」

「そのような言葉はやめないか!」


 人との関わりが苦手な私はうまくやれなかった。


 実際、聖女としての役割に疑問を抱いていた。


 今回討伐することになった魔王の国は、思った以上に自然豊かな地だった。

 人々は楽しそうに笑い、人間とほぼ変わらない生活を営んでいた。


 本当に魔王は魔物を操ってまで、我が国を襲っているのだろうか。

 そもそも魔物を操る力があると教えられたが、それが本当なのかも知らなかった。

 知らないことばかりで戸惑った私は、魔法が使えるのにもかかわらず彼らに手を出すことができなかった。


 肌の色が少し違ったり、見た目が魔物に近いだけで私たちと変わらない。

 彼らにも家族がいて、大切な人を愛している。

 そんな彼らを勇者たちは無差別に襲っていた。


 傍から見ればどちらが悪なのか?


 私達が倒すのは魔物を操る力がある魔王であって、その国に住む国民ではない。

 そんなことを考えていると、自然と体が動いて、勇者たちに隠れて彼らを治療していた。

 その結果、発覚したときには〝裏切り者の聖女〟と呼ばれるようになってしまった。


 彼らは私たちに友好的であり、勇者たちが負傷することはほとんどなかったのも事実。

 聖女として力を使ったのは彼らに対してだけだ。

 

 だから、何を言われても気にしない。

 私は自分が正しいと思った行動をしただけだから……。



 街を抜け、私たちは城に向かう。

 すぐに王からの謁見があるからだ。


 久しぶりに戻ってきた貴族街の空気が懐かしく感じる。

 これからは勇者ではなく、婚約者を支える立場になる。

 私には小さい頃から決められた婚約者がいた。

 この旅から戻ったら結婚する約束をしてから旅立った。

 政略結婚でもこんな私に優しく接してくれた彼のことを愛していた。

 そんな彼は元気にしているだろうか。


 城に到着すると、すぐに玉座の間へ案内された。

 重厚な扉が静かに開き、勇者たちは堂々と歩き出す。

 その後ろをゆっくりとついていく。


 部屋の中央まで進むと、王の前で跪いた。


「勇者よ、よくぞ帰還した」

「ありがたきお言葉、感謝いたします」

「そなたたち三人には褒美を与えよう」

「ありがとうございます。セレーナには――」

「勇者よ、あやつは裏切ったのだろう? 話は聞いているぞ」


 王の言葉に玉座の間がざわめいた。

 ここには王や勇者たちだけでなく、見知った貴族の当主たちもいる。

 どうやら、ここでも私の話は広まっているようだ。


「リヴァルト公爵家の長女でありながら、貴族の矜持きょうじを忘れるとは」

「申し訳ございません。私の行動が貴族として、そして王の命に背いたことを深く反省しております」


 この場では、どんな爵位の貴族も、王が唯一の権威であることは明らかだった。


「さすがリヴァルト公爵家の教育は行き届いている。ただ、残念ながら次女が公爵家を継ぐことになっているようだ」


 その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中は真っ白になった。

 今まで次期公爵家を支えるために辛いことも乗り越えてきた。


 リヴァルト公爵家には嫡子がいないため、長女である私と婚約者が継ぐことになっていたはずだ。


「ええ、その通りでございます」


 声がする方に目を向けると、そこには現リヴァルト公爵家の当主である父が立っていた。

 そして、その隣には私の婚約者がいる。


「長女のセレーナの婚約は破棄し、次女のマリーナとここにいる婚約者が爵位を継ぐことになりました」

「えっ……」


 これは夢なのだろうか。

 父の隣に立っているのは、私の婚約者だったはずだ。

 私の婚約が破棄され妹の婚約者になる……?


「さらに我が娘は子を孕んでおります。今後も王に支える身として、尽力いたします」

「それはリヴァルト公爵家の未来も明るいな」


 王の一言で、盛大な拍手が鳴り響く。

 私の婚約者と妹の間に子供ができていた。

 否定してと願うも、彼は私に一切目を向けることはなかった。


 討伐隊の聖女として離れていた間に、私は全てを失っていたようだ。


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【あとがき】


溺愛コンテストに向けた新作です。

ちゃんと恋愛になるのか不安ですが、頑張ります笑


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