第28話 嫉妬渦巻く ②
俺の右手の経過は至って順調だった。もうPC操作は何の問題も無いし、日常生活で困る事は重いものを持てない事ぐらいだった。
安藤の件を断ってからも、洸太郎は安藤のSNSをたまにチェックしていた。何処でやるのかを聞く人間が多いので、安藤がバラしていないか確認する為だった。
流石にそこまでアホではなかったらしく、安藤は只管沈黙を貫いていた。ひょっとしたらDMで俺達の事を漏らす可能性もあったが、その場合の対策は既に講じてあった。
「安藤さんのコメント欄、もうめちゃくちゃ炎上しまくってますね。もう死んだのかとか、目立つ為に嘘を書いたのかとか。こんな事書いたって、此の人達には何の得にもならないのに」
「暇なんだよ、SNSやってる奴は全員。考えてみろ、何が楽しくて自分の情報を全世界に発信するんだ?ビジネスアカウントなら有意義に使えるが、一般人が味わえるのは精々事故満足感ぐらいだろ」
「その些細な満足感の為に、こうやって必死に皆人目を惹く内容をUPしているんですよ。スイーツの盛り合わせとか、高級ホテルのナイトプールとか」
「あほらし……………勝手にやってろ。こっちは命懸けでやってるっていうのに、何で依頼人はアホが多いんだ!?」
俺がそう言った瞬間、頭にズキンと刺すような痛みが走っていった。急いでデスクの引き出しを開け、頭痛薬を取り出して水で喉の奥に流し込んだ。
「最近頻繁ですね、頭痛………一度精密検査を受けた方がいいんじゃありませんか?」
「こんなの只の片頭痛だ、病院に行く程の事じゃねえ。俺の性格がいけねえのかな、イライラするとついこうなっちまって」
俺はそう言って壁に凭れ掛かり、ふと安楽死請負人を止めようかという考えが頭をよぎった。こんなに俺達が命張ってやっているのに、真剣に応えない依頼人に腹が立ってしょうがなかった。
「やはり以前話し合った通り、一種の振るいとして金額を取る事は必要ではありませんか?それなりの額を出すという事は、相手の本気度も図れるわけですし」
「駄目だ、其れは一成の理念に反する。安楽死をビジネスにしたら、俺達は一成の意志を踏みにじる事になる。其れに金は邪魔だ、税務署にでも嗅ぎつけられたら最悪だしな」
例え現ナマ一括払いだとしても、大きな金の動きは必ず連中に気付かれる。その懸念もあって、俺は無償で行う事を徹底していた。
「だがお前の言う通り、もっと厳しく振るいに掛ける必要性は増した。これからその対策を考えるから、お前はもう部屋に戻って休め」
「其れを言うなら悟さんの方です。頭痛も心配ですし、今後の事を考えるのは明日以降にして下さい。お願いですから、少しは僕の言う事も聞いて下さい」
心配そうにそう言う洸太郎を見て、俺は小さな声でわかったと言った。そして洸太郎が退出した後、そのまま倒れこむ様にベッドに横になった。
(俺は悩んでばかりだよ、一成。お前みたいに優しい奴だったら、安藤の件も大目に見てやるんだろうな。でも俺には出来ねえ……………真剣に応えない奴とは、金輪際関わり合いたくない)
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