第25話 殺人者からの求愛 ②

「俺も裏のルートを使って、お前の事を色々と調べたよ。黒木諒は偽名、本名は倉橋愛。26歳・A型・167cm/48kg。3サイズは上から87・61・86」

高校の時の写真を入手すると、当時の黒木はとんでもないブスだった。こいつの親は資産家だった為、黒木はへそくり400万を盗んで家を飛び出したのだ。

「お前って嘘ばっかりついてるよな。陸上部の先輩達にレイプされたの、本当はめっちゃ嬉しかったんだろ。足早いだけのブスが、いきなり男達にチヤホヤされて。

本当はもっとヤリたかったのに、ガキが出来ちまって。お前が女をぶっ殺したいのは、ガキが出来たせいでヤリ〇ンになり損ねたからだろ」

「な…………なんでそこまで俺の事わかるんですか!?まさか悟さんもエスパーか超能力者…………ああっ!!」

俺が黒木の耳をぐりぐりと捩じると、黒木は嬉しそうに頬を赤らめながら喘ぎ声を上げた。そして自分から足を広げ、もっと色々してほしいと言った。

そう、こいつは無類のセックス依存症なのだ。一成に近づいたのも、恐らく整形した一成がイケメンだったからだろう。

だが此のアバズレは、一成がゲイだと知ってがっかりした。其処で三カ月でさっさと一成とオサラバし、日本に帰国したついでに俺と一発ヤリに来たのだ。

「此の傷、お前さては子宮も摘出済か。悪いが俺はお前とはやらねえ。一成から聞いてるだろ、俺は行為そのものが好きじゃないんだ」

「嘘、由香里とはヤリまくってたくせに。あの女みたいに、茶髪の巻き髪にしないとヤラない主義なの?」

「ほんとアホだな、お前…………………俺は獣じゃねえ、人間の男だ。女なら誰でもいいって奴と一緒にするな。俺はな、愛の無いセックスは死んでもしねえ男だ」



俺の言葉を聞いた瞬間、黒木は腹を抱えて笑い始めた。俺の様な安楽死請負人が、愛を口にするのはおかしなことだと笑った。

「いいなあ、悟さんのそういう人間臭いとこ。俺ますます悟さんの事を好きになっちゃいましたよ!」

「いい迷惑だ、此の犯罪者が。明日の朝になったらとっとと消えろ。俺達もやり方は違うが、殺しに関してはプロなんだからな。朝になってもまだお前が此処に居たら、今度は容赦無くあの世に送ってやるぜ」

こんな脅しを言ったところで、黒木には意味が無い事は俺はわかっていた。こいつからは本物の臭いがする。関わると絶対にロクな事にならない奴だ。

「悟さん…………一成さんと本当はどんな関係だったんですか?俺調べたんですよ、一成さんの最期。あの死に方、どう考えても悟さんへの愛情表現ですよね」

「うるせえ、これ以上俺に話しかけるな。あと一成の事も口にするんじゃねえ」

俺は淡々とそう言った後、さっさと黒木の居る部屋から出て行った。そしてイライラしながら自室に戻ると、階段を昇ってきた洸太郎が大丈夫かと声を掛けて来た。

「頭が痛い……………お前、頭痛薬持ってねえか」

「僕の部屋にあります。すぐ取って来るんで、悟さんは部屋で休んでいて下さい」

そう言って洸太郎は廊下を走り、急いで自室へと入っていった。俺は手で額を抑えながら、はあとため息を付いてソファーに座り込んでいった。




俺は極度にストレスを感じると、時々片頭痛を起こすようになっていた。頭痛薬を箱で持ってきた洸太郎が、ペットボトルの水と供に其れを手渡してくれた。

「………………あの女の指紋と髪の毛、こっそりと採取しておいた。まさか俺達相手にバカな事はしねえだろうが、一応警戒の為にデータを取っておいてくれ」

「わかりました、すぐにやります。悟さん、薬飲んだらもう休んだ方がいいと思います。今は骨折もしてるんですし、体を労わる事に専念して下さい」

洸太郎はそう言って、持ってきた自分のノートパソコンを開いていった。俺は貰った薬を飲んだ後、いつまで此処にいるつもりなのかと尋ねた。

「どうしたんです、急に。僕は初めに言った通り、この先も悟さんの傍で働き続けます」

「お前ってホント良い奴だよな、洸太郎。なんで俺なんかと一緒に居るんだよ。俺は絶対にロクな死に方はしねえ……………どんなに綺麗ごと言ったって、俺がしている事は人殺しだ」

俺が弱弱しい声でそう言うと、洸太郎がノートパソコンを打つ手を止めた。そして画面をバタンと閉じ、珍しく大声で「違います」と言った。

「らしくないですね、悟さん。あの黒木って女に何か言われたんですか?」

「別に…………あんな奴の事はどうだっていい。ただ俺は…………………時々酷く寂しくなる。ダメだな、今日の俺は。ムカついて殴りたくなる」

「手が折れてるんですから、これ以上怪我を増やさないで下さいね。僕で良ければ聞きますよ、悟さん。貴方はロボットじゃないのだから、たまには弱気になったっていいじゃないですか」

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