第17話 逃亡請負人 ①

裏社会には、謎の職業の奴がゴロゴロと転がっている。此の河上雄一郎も、その内の一人だった。

俺達が安楽死を請け負うのは、月に1人が平均が限界だ。だが此れはという奴にのみ、逃亡請負人である河上を紹介する様にしている。

今夜俺達の元を訪れた女も、河上に会わせる為に呼び出したのだ。この女は人気アイドルで、芸名を星野アスカといった。

デビューしてからあっという間に売れっ子になり、弱冠19歳でとんでもない金額を稼ぐようになった。普段テレビを見ない俺ですら、コイツの名前ぐらいは知っていた。

だが25歳を過ぎてから、アイドルとしての賞味期限が切れ始めてきた。更に過激なグラビアの仕事など、やりたくもない仕事が山の様に詰め込まれた。

アスカはそのストレスから過食症になり、現在の体重は60キロを軽く超えているらしい。現物を目の前にして、正直これでアイドルを名乗るのは無理があると思った。

「グラビアは修正しまくるから、お腹周りとか隠し解けばなんとかなるけど…………イベントとかはもう駄目、デブとか肉団子とかコメントで書かれまくり」

そう言ってアスカは辛そうな表情で下を向いた。それならアイドルを辞めればいいのだが、こいつはバカなのか年間契約で金を先に貰っていた。

「今マネージャーから、もっと豊胸して爆乳路線で売るって再三言われ続けてるんです。でも私これ以上そんなお仕事したく無い…………でもお金を返さなきゃならないし、もうドン詰まりで死ぬしかないって思っちゃって」




「おい此の馬鹿のブス。お前の選択肢は2つしかない。顔と乳を整形してAVで荒稼ぎするか、俺の言う事を全て聞いて人生からトンズラするか。

後者を選ぶ場合、お前には一切の拒否権は無い。その代わりお前はもうアイドルを辞められるし、食いたいものも好きなだけ食える生活になる」

俺が言うのも何だが、河上も相当に口が悪い男だった。見た目も完全に反社であり、体中をタトゥやらボディピアスで飾っていた。

アスカは完全に河上を前にしてビビッていた。当たり前だろう、体格の良いコイツに凄まれたら誰だってそうなる。

「あの、星野さん。河上さんはこんな人ですけど、仕事はキッチリやってくれる方ですから。貴方は誰にもバレることなく、新天地で新しい生活を送ることが出来ます。勿論新しい戸籍も用意しますし、福祉等の制度も今まで通り受ける事が出来ます」

「それって完全に違法ですよね。バレたら私、警察に捕まるんじゃないですか!?死ねない上に犯罪者になるって、それって超最悪の人生ですよね!?」

アスカが動揺しながらそう言うと、苛立った河上がドーンと机の上に足を乗せた。そして電子タバコを吹かせながら、さっさと決めないと殺すと言った。

「おい豚女、俺の仕事は完璧だって言ってんだろうが。お前みたいな馬鹿にはわからねえ、法の抜け穴を使って色々と用意するんだよ。3時間やるから、その小さい脳味噌フル回転でよく考えろ。わかったな、此のドブス!!」




「杉山ァ、ちゃんと説明してから連れて来いって前も言ったよなあ。なんなんだあの豚女は。なんでちゃんと調教しとかねえんだ、此のクソ馬鹿が!!」

「うるせえんだよ、反社野郎が。こっちはキッチリ金払ってんだから、お前の口でわかるようにちゃんと説明しやがれ。此の筋肉ダルマ!!」

俺と河上が口論になっていると、洸太郎が仲裁に入るのが毎回の定番となっていた。河上は確かに口も態度も最悪だが、仕事に関しては完璧過ぎる程に完璧を貫く男だった。

俺達が安楽死を請け負えない代わりに、河上を紹介して最悪の状態から逃がしてやる。其れもまた、俺達が掲げる理念の一つでもあった。

俺はアスカはまだ生き直せると判断した為、河上に金を払ってアスカの完全逃亡を依頼した。こいつの手に掛かれば、アイドルだろうがなんだろうが消えてやり直す事は確実に出来た。

3時間後、アスカは遂に覚悟を決めて河上に全てを委ねる事にした。すると河上はスマホを取り出し、超デブで不細工な女の写真をアスカに見せていった。

「な、なんですか…………この人。お知り合いの方ですか?」

「ちげーよ、此れからお前が此の姿になるんだよ!今から提携のクリニックに行って、お前の顔を此のブス女の顔に変える。一応お前はアイドルだからな、このぐらいまで劣化させないと生き直しは出来ねえ」

河上のやり方は常にこうだった。兎に角依頼人の外見を大幅に変え、元の外見を完全に潰す事から始まった。

シクシクと泣くアスカにヘルメットを被せ、河上はカスタムしまくったハーレーに跨っていった。時刻は深夜を回っていたが、此処はド田舎なのでマフラーの爆音にクレームが入る事は一切無かった。

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