第14話 誰も探しになんて来ない
日本は自殺大国だという事は誰でも知っているが、その本当の数を知っている者は誰もいない。例えば失踪して消えた者は、決められた年数を超えると不審死という扱いになる。この不審死の数が、年間で平均十五万人はいると言われている。
俺達が安楽死させている人間達は全員、此の不審死というカテゴリーに入る。警察は事件性が有ると判断しない限り、失踪届が出されても捜索はしない。ストーカー被害が良い例だが、被害届を出してもせいぜいパトロールを数回して終わりだろう。届主がストーカーに背中を刺されてやっと、警察は事件と判断して捜査を始めるのだ。
だから俺達が安楽死させている人間は、基本的に警察が本格的に捜査をする事は無い。仮にあったとしても、行方不明者になって終わるだけだ。
俺達は安楽死を請け負う前に、必ず本人もしくは肉親と契約を交わす。無報酬で行う代わりに、此方は一切の責任を負わない。スマホは持ち込み禁止、監視カメラの無い道を通って来る事。
これらを徹底していても、万が一警察が本腰を上げて捜査すれば此処はあっという間に見つかる。まあ見つかったとしても、どうせ何も出てこないので警察はどうする事も出来ないのだが。
安楽死に使う道具は一切此の敷地内には置いていない。俺は表向きはキャンプが趣味という事にしているが、その為に買った小さな山に全て置いてある。
其れを警察が発見したところで、只のキャンプ道具にしか見えないだろう。それらは全て徹底的に洗浄しているので、仮に鑑識が入ったとしても何も出ない。
それ以前に俺達は、こいつは死んでも誰も探しに来ないだろうという人間を選別している。最初のやりとりでまず徹底的に交友関係を聞くが、信用ならないので契約している探偵に調査を任せている。
行方不明者を探すというのは、生半可な気力では続ける事は出来ない。俺は一成を2年半も探していたので、その大変さは身に染みて知っている。
そもそも親しい恋人や親友がいるのなら、本気で死のうとはしないものだ。10代ぐらいなら突発的に電車に飛び込む事もあるだろうが、20代30代になるにつれてその気力も薄れて来る。
人間は自分が最も大事で、子供や親は二の次なのだ。口では子供の為に命捨てる等と言っていても、実行に移せるのは50%ぐらいじゃないだろうか。
俺は肉親の情を全く知らないので、自主的に調べて統計を取ってから考える様にしている。毎月必ず失踪届の人数を見ているが、増える一方で減る気配は全く無い。
どんなに探しても行方不明というのもあるが、それ以前に本気で探していないのだと俺は常に思っている。
本気と言うのは当然仕事も家庭も全て放り投げ、24時間365日の全てを捜索に回しているという意味だ。たまにチラシを配って呼びかけたり、メソメソと家で泣いているだけの人間は論外だ。
そう言う意味では、俺も本気で一成を探してはいなかった。仕事もしていたし、彼女と同棲もしていた。俺が休日に片手間で探しただけで、本気で動いていたあいつを見つけられるわけがなかった。
其れは仕方がない、あの頃の俺は普通の生活を求めていた。失ってからでなければ、人間は本当の事に気付く事が出来ない。俺は情けなくなる程凡人で、一成は出会った時から天才だった。
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