第12話 どうしても死ねない男 ②
それから洸太郎は、週1のツーリングに行く度に同じ場所で篠田と会う様になっていた。といっても約束をしていたわけではなく、単に二人の走るコースが同じというだけだった。
篠田はそれなりに偏差値の高い大学を卒業後、散々苦労してブラック企業に入社した。だが其処でのパワハラと激務で心身を壊し、27歳で退職後はずっと派遣で職を転々としていた。
年収は常に200万程度で、恋愛経験はほぼ0に近い。同級生たちが次々と結婚して行く事に耐え切れず、篠田は携帯の全ての連絡先を消去したという。
「お恥ずかしい話ですがね…………山本さんに初めて会ったあの日、私はこの先の山奥で練炭自殺しようとしてたんです。でも怖くて出来なくてね…………これまで何ども自殺を試みたのに、どうやったって最後の一歩が踏み出せないんです」
山本というのは、洸太郎が自分から名乗った偽名だった。篠田はやはり自殺志願者で、今でも練炭自殺を決行すべきか迷っているのだという。
「せめて海外に行ける金があったらなあ……………日本はどうして安楽死を認めないんでしょうね。海外にまで行って、大金払って自殺って…………私の人生なんなんだよって思っちゃうんですよね」
「以前テレビのドキュメンタリーで、難病の方が海外で安楽死をする特集をやっていました。合法化している国でもやはりハードルは高く、その国の場合は医師が見放す程の難病者しか受け付けないそうです」
「そうなんですか……………私から見れば、社会に見捨てられた人間の事も許可して欲しいですよ。これからあと何十年、あんな職場ですり減っていかなきゃならないのか……………」
「僕も首吊りに失敗しているので、自殺に恐怖を感じる篠田さんの気持ちは良くわかります。残念ながら篠田さんは、自力では天国には行けないと思います。何度も躊躇って止まってしまうと、何をやっても恐怖が先に来てしまいますからね」
「結局躊躇うって事はよ、限界の先まで追い詰められてねえって事なんだよ。お前だって真っ先に一成に縋っただろ。自殺をする奴としない奴の分かれ道は、死にたい気持ちが己自身にある恐怖を上回るか。本当にただそれだけだ」
篠田の様な人間は、今此の停滞する日本に山の様に転がっている。政府は此れを放置し続けているので、将来的には生保受給者が増えるのは確定だ。
「もし20年前に政府がこいつらを救済していれば、今みたいな惨状にはなって無かったと思うぜ。俺の経験上、金と安定さえ有れば人は生きていける」
「どうして政府は20年も、この様な人達を放置していたのでしょうね。現在の人口で最も多いのが40代ですから、此の層を救済していれば少子化もましになっていたでしょう」
「金に目がくらんだ、ただそれだけだ。派遣法という人身売買で、政府はこいつらの雇い主から金をたっぷりと吸い上げた。此の国の基本方針は生かさず殺さず、奴隷国民から税金を死ぬまで徴収する。まあ俺は日本の人口は3000万でいいと思っているから、もっと出生率は右肩下がりになってほしいけどな」
翌週から洸太郎は、別のツーリングコースへと変えてバイクを走らせた。其処のパーキングにはカップルや家族連れがうじゃうじゃとおり、うっとおしいですねと洸太郎は戻ってきてから苦笑いを浮かべた。
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