Nowhere to go 処
tokison
第1話 死にたい女子中学生
カランカランと鐘の音が鳴り、扉の向こうから制服を着た少女がやってきた。するとエプロンを付けた若い男が、元気よく「いらっしゃいませ!」と声を掛けた。
此処は小さな街の外れにある、普通の良くある喫茶店。客が其々にコーヒーや紅茶を楽しむ中、少女は暗い表情で店の中へと入っていった。
「あの………………隣町の中学1年生で、富沢菜々美といいます」
「ああ、お待ちしておりました。どうぞこちらへ、お席までご案内します」
店員の男は菜々美を連れ、店内の奥から裏口へ続く扉へと彼女を案内していった。その先には私服姿の若い男が立っており、菜々美を見て「こんにちは」と優しい声で言った。
「此処の庭は花がとても綺麗でしょう。すぐにお席にお飲み物をお持ちします。こちらのメニュー表からお選び下さい」
店員の男にそう声を掛けられると、菜々美は小さな声でオレンジジュースと言った。そして庭に用意された席に座ると、私服姿の男がその隣に座っていった。
「はじめまして、僕は慶宗洸太郎と申します。メールでは何度もお話していますよね」
「そうですね……………じゃあ私が何をしに此処に来たのか、貴方は勿論ご存じなのですよね」
菜々美がそう言うと、洸太郎は勿論と言って笑みを浮かべた。此の庭の席に座って話をする者は、生きる事が苦しくて安楽死を望む者だけと決まっていた。
菜々美の家は裕福ではあったが、昔から父と母の仲が非常に悪かった。時折父親は母親に暴力を振るい、母親はそのストレスを菜々美に向ける事で発散していた。
菜々美は制服の袖を捲って、母親に殴られた痣を洸太郎に見せていった。此れはほんの一部であり、彼女の全身には数えきれないほどの暴力の後があるという。
家庭内があまりにも険悪な為、菜々美は勉強をする事にも苦痛を感じていた。菜々美は一人っ子の為、高学歴の父親から事ある毎に成績を落とすなと釘を刺されていた。
「本当にもう、私の心は限界なんです……………。学校の皆に痣を見られたくないので、体育や水泳の授業は仮病で全て欠席しています。
成績も少しも上がらなくて、クラスメートにどんどん追い抜かされていて………この事が知られる度に、父に激しく叱責されるんです」
「とても苦しい思いをしているのですね。この件について、先生やスクールカウンセラーなどに相談はされましたか?」
「1度だけ、カウンセラーさんに………………でも私の納得のいくアドバイスが貰えなくて。担任の先生は、揉め事を嫌う性格なので全く頼りになりません」
菜々美は其処まで言った後、ポロポロと涙をこぼしながら「死にたい」と言った。もう父から失跡される事にも、母から暴力を受ける事にも耐えられなかった。
洸太郎が泣いている菜々美にハンカチを差し出すと、傍に置いていたスマホから着信音が鳴っていった。
「洸太郎、ダメだそのガキは。俺達が関与するべき事じゃねえ。とっとと追い返せ」
その言葉を聞いた瞬間、洸太郎は「わかりました」と言った。そして泣いている菜々美に向かって、頑張って生きて下さいと言った。
「どうでしたか、未成年向けのお悩み相談室は。僕に話して、少しは心が晴れましたか?」
「は…………!!??そんなわけないじゃないですか、バカにしてるんですか!!??さっき私言いましたよね、死にたいって!!私、真剣なんです!!」
菜々美は発狂する様にそう言い、白いテーブルを拳でドンと叩いた。しかし隣に座っている洸太郎は、穏やかな口調で「落ち着いて下さい」と言った。
「貴方が生きる理由は3つあります。1つ目は貴方の悩みは専門機関に相談すれば解決出来る事。2つ目はあなたの家庭が裕福である事。そして最後の3つ目ですが………………」
「ピーキャー泣いているだけで、自分から何も行動を起こしていないからだ。ガキだからって甘えんじゃねえ、此のブス!!!」
洸太郎が持っていたスマホから、ボスと呼ばれる男の声が発せられていった。菜々美は絶望的な表情を浮かべ、テーブルにうつ伏せになってワンワンと涙を流していった。
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