第3話

 ――今は、履いてないから。


 そんな早乙女の言葉が気になり、昼食は味がしなかった。


 昼休み後の、授業、四時限目。

 やはり授業に集中できない。


 俺は気が付くと、早乙女の方へ視線を向けていた。

 彼女はいつも通り、背筋を真っ直ぐ伸ばした、姿勢の良い座り方で授業を受けている。

 スカートからは、白く長い脚が伸びている。


 清楚な女性らしく、足はしっかりと閉じられていた。

 当然、中身は確認できない。


 だが、気になる。


「……?」


 視線を上げると、早乙女と目が合った。

 早乙女は悪戯っぽく、微笑む。

 どうやら視線に気付かれていたようだ。


 気まずくなった俺は黒板の方を向く。

 少しして、携帯が振動した。


『どうしたの?』


 早乙女からのメッセージだ。

 俺は少し悩んでから、携帯に文章を打ちこむ。


『履いていないって、何の話だ?』


 そう打ち込んでから、俺は早乙女に視線を向ける。

 彼女は携帯を前に悩んでいる様子を見せたが、俺の視線に気付くと、ボールペンを手に取った。


 そして斜め下を指さした。

 ボールペンの先は、早乙女のスカートの奥、鼠径部を指していた。

 ……やはり、そういうことらしい。


 思わず息を飲んだ。



 そして放課後。


「今日もよろしくね。氷室君」

「……ああ」


 今日は俺と早乙女が、日直の日だった。

 いつも通り、教室で作業を続ける。


 だが、早乙女のスカートの中身が気になって仕方がない。

 スカート丈自体は膝より上で、今時の女子高生らしくそこそこ短いのだが、そこはお嬢様だからか。

 ガードが堅い。

 大股で歩いたりは絶対にしないので、見えそうで見えない。

 だからこそ、気になってしまう。


 つい、視線で追ってしまう。

 そして目が合うたびに、早乙女は悪戯っぽく笑う。


 もう、我慢の限界だ。


「あのさ」


 耐えきれず、俺は早乙女に話しかけた。


「何?」

「どういうつもりなんだ?」

「何が?」

「……履いてないとか、色とか」

「端的に言えば、そうね。……趣味、かしら」


 趣味ね。

 要するに俺を揶揄って、遊んでいるわけだ。

 それ自体は最初から、分かっていた。だが、問題はそこじゃない。


「どうして俺なんだ?」


 早乙女に好かれるようなことをした記憶はない。

 だが、こうした行為を連日、続けられると……やはり「俺に気があるんじゃないか?」と思ってしまう。


「あなたは言いふらしたりしないでしょう?」

「勘違いして、迫られるとは思わないのか? 今はこうして、二人っきりだが」

「何? 今から私のこと、襲うつもりなの?」

「……いや、そんなことはないが」

「ほらね」


 クスっと早乙女は笑った。

 俺にも立場があるので、そんなことは絶対にしないが……。

 思考を見透かされるのは、腹立たしい。


「正直、迷惑だ。やめてくれ。不愉快だ」

「それは嘘ね」

「どうしてそう思う? 興味のない女にセクハラされて、嬉しいと思うか?」

「私のこと、不躾な目で見てたくせに。良く言うわね」


 ギクッ。


「そんなことはないが」

「あら、そう。私の勘違いだったかしら。なら、いいけど」


 早乙女は楽しそうに笑った。

 この女……。

 

 俺は反論を試みようとするが、上手い言葉が出てこない。

 早乙女はそんな俺を見て愉快そうに笑うと、手を叩いた。


「ハイ、話はこれでい。……仕事、終わらせてしまいましょう」

「その前に一つ、聞いて良いか?」

「何?」

「本当に履いてないのか?」


 どうにかして、この腹黒聖女を言いくるめてやりたい。

 俺の頭はそれでいっぱいだった。


「あら、やっぱり気になるの? さて、どっちかしらね」

「そうか。なら、嘘なんだな」

「……は?」


 早乙女は眉を顰めた。

 今までの余裕そうな態度が崩れた。

 俺は内心でほくそ笑む。


「どうしてそうなるのかしら?」

「お前にそんな勇気があるとは思えない」


 正直、履いていないだろうなとは思っている。

 以前、ポケットに脱いだショーツを入れていた(つまり履いていなかった)からだ。

 一度やったなら、二度目もやるだろう。


「それに断言できないのも、怪しい。やっぱり本当はちゃんと履いているからだろう?」

「……っく」


 早乙女は悔しそうに唇を歪め、目を泳がせた。

反論を探しているのだろう。

 そしてしばらくしてから、こちらを睨みつけて来た。


「……本当よ。履いてない。これで、満足かしら」


 早乙女は仄かに頬を赤らめ、こちらを睨みつけながらそう言った。

 今までぼやかしていたことを、はっきり明言したのは意外だった。

 それが驚いていることに満足したのか、早乙女は口元を僅かに緩めた。


「で、証拠は?」

「……え?」

「証拠は? ないだろ。どうせ、色も嘘だろう? 俺には確かめようがないもんな」


 スカートを捲って、見せない限り。

 そして早乙女は、聖女様はそこまでは、やらないし、できないだろう。

 履いていることを証明することは、不可能だ。


「ぐぬっ……」


 こればかりはどうしようもないらしい。

 早乙女は悔しそうに表情を歪め、こちらを睨みつけるだけで、何も言い返せない様子だった。

 俺の勝ちだな。


「気になることは否定しないけど。でも、どうせ、嘘だしなぁ」

「あぁ、そう。そこまで言うなら……」


 早乙女はスカートを摘まんだ。


「か、確認、する……?」


 顔を真っ赤にさせ、そう言った。

 ……は?


「な、何言ってるんだ、お前」

「証拠を見せろって言ったのは、そっちでしょう?」

「いや、だからって……」

「一瞬だけよ。証拠、見せてあげる」


 早乙女はそう言うと、ゆっくりとスカートをたくし上げた。

 白く健康的な太ももが、ゆっくりと姿を現していく。

 そしてスカートのラインが三角地帯に差し掛かり……。


「……!」


 俺は慌てて顔を逸らした。

 気が付くと、心臓が激しく鼓動していた。


 意を決し、視線を戻すと……。


「見なかったのは、あなただから」


 勝ち誇った表情の早乙女がそこにいた。

 スカートの丈はいつもの位置に戻っている。


「それとも、まだ信じないと言うつもりかしら。自分から目を逸らしたのに」

「……そこまで、往生際は悪くない」


 本当に履いていないなら、むしろ捲らないんじゃないだろうか?

 本当に履いていないのか? それとも、履いているのか?

 むしろ俺の中で疑念は深まってしまった。


 だがそれも含めて、早乙女の思惑のうちだろう。


 クソ、目を逸らさなければ良かった……。

 いい物、見れたはずなのに。


「じゃあ……これからも、よろしくね? 氷室君」

「……勝手にしろ」


 こうして俺は聖女様、もとい、性女様の露出癖に付き合わされることになったのだった。


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