時々履いて来ない隣の席の聖女様は、俺にだけこっそりスカートの中について教えてくれる

桜木桜

第1話 俺にだけこっそり何かを教えてくれる聖女様

 俺――氷室春樹のクラスには“聖女様”がいる。


 早乙女聖良。

 今、この学校でもっとも美人で可愛らしいと噂される、美少女だ。


 遠い北欧にルーツを感じさせる、整った顔立ち。

 絹のように美しい銀髪に、宝石のように煌めく碧い瞳。

 すらっとした長い手足。

 制服の上からでもしっかりと分かる、メリハリのある体つき。


 何より名門出身故に感じさせる、優雅な立ち居振る舞い。

 そして何より、どんな相手にも優しく、穏やかに接する姿は、気品と清らかさを感じさせる。


 そんな彼女を誰かが“聖女様”と呼び出し、それは自然と学校中の生徒に膾炙された。

 ……まあ、彼女の性格云々だけでなく、逆から読むと「良“聖女”乙女早」になるから、という理由も大きいが。


 そんな美少女、早乙女は俺の隣の席に座っている。

 もちろん、だからと言ってどうと言うことはない。


 たまにその横顔を眺めて「うわ、睫毛なが!」と見惚れたり、胸をチラ見して「デカっ……」と驚嘆したりする程度だ。


 特に会話もなく、挨拶を交わす程度の関係……のはずだった。

 一週間前までは。


「おはよう、氷室さん」

「あぁ……おはよう。早乙女さん」


 俺が挨拶を返すと、早乙女は微笑を浮かべた。

 慈悲深そうな、聖女の微笑みだ。

 

 そして彼女は席に着く。

 ここまでは、普通だ。


 席に着いてしばらく、彼女は携帯を取り出した。

 そして何やら操作を始める。

 同時に俺の携帯が僅かに振動した。


 メッセージが届いていた。


『今日は黒』


 早乙女からのメッセージだ。

 思わず隣の席に視線を向ける。


 すると早乙女は悪戯っぽく微笑み、ウィンクをした。

 ……いや、意味分からん。


 ここ一週間、毎朝、早乙女はこのような謎のメッセージを送りつけてくる。


 今日は黒。今日は白。今日は青。今日は赤。今日はピンク。

 何かの色について、聞いてくる。


『何の話?』


 メッセージを送り返してみると、すぐに返答が来た。


『何だと思う?』


 分かるわけないだろ。

 と、言いたいところだが薄々察しがついている。

 アレの色なんじゃないかと。


 しかし早乙女がそんなことを俺に教えてくれる理由が分からない。

 何より、あの“聖女”様がそんなことするか? と疑問が湧く。

 

 しかし、だからこそ、気になる。

 本当にスカートの中身について、教えてくれているのかどうか。

 本当にその色の下着を履いているのか。


 モヤモヤする。


 そのせいか授業も集中できず、気が付くと三時限目を終えていた。

 もう、昼休みだ。

 学食で何を食べようかな……そう思っていると。


 後ろから袖を引かれた。

 そこには聖女様……早乙女がいた。


 一瞬、ドキっとする。


「何か用か?」


 聞き返すと、早乙女は悪戯っぽく微笑んだ。

 そして俺の耳元で、囁いた。


「今、履いてないから」

「……は?」

「じゃあ、放課後、またね。氷室?」

 

 早乙女は微笑むと、俺に軽く手を振って別れてしまった。

 一方、俺は早乙女の言葉の意味を理解するのに、少し時間を要した。


 履いてない……。

 何を?


 ……パンツを!?


 そんな、馬鹿な!!



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