case1 胸を張る元カノ(2)
中学の時に付き合っていた麻緒とこうして再会できたのは、凄く嬉しくもあり驚いた。
突如決まった転校によりあの時は別れるしかなく、互いに辛い気持ちで離ればなれななってしまった。
クラスメイトたちからも相当心配され、皆が支えてくれたことでこうして立ち直り、進学してからは新たな恋をした。失恋に終わったけどな。
その後には紗奈さんからまで告白され、アレコレと動く事に翻弄されていた俺だが、決して彼女が嫌という訳では無いし、むしろ意識していた。
だから、麻緒の事も好きなのだが、紗奈さんを突き放すというのもできることじゃない。
麻緒にその事を話し、紗奈さんとも向き合いたいという話をした、
「じゃあ今日の放課後、その紗奈さんって子と一緒に帰ろうよ。二人の話も聞きたいし」
麻緒はそう言った。自分の好意を押し付けたりせず、他者を突き放したりもしなかった。
本当にありがたいことだ。
「いいの?私も一緒だなんて」
「元カノが来たからって、今までの関係を無下にはできないよ。麻緒のことは好きだけど、紗奈さんの気持ちにもちゃんと向き合いたいから」
放課後になり、俺は紗奈さんを呼び出して二人きりで話をした。
どことなく彼女からは壁のようなものを感じてしまうが、状況が状況だけに
しかし距離を置いたとしても、未練があることは俺だったわかる。好きな人をそんな唐突過ぎる出来事で簡単に諦められるわけがない。
悪意を向けられたとか嫌なことをされたならともかく、俺は彼女に別段何をした訳でもない。
その好意は嬉しかったんだ、間違いなく。
「えへへ、樹くんは優しいね。そういうことなら私、頑張っちゃうよ?」
「むしろ、今のままじゃ罪悪感があるし、紗奈さんの気が済むまでやって欲しい」
「おっけ!じゃあホテル行こっか!」
「そういうことじゃない!」
自分にもまだチャンスがあると思ったのだろう。希望を
一体なにをするつもりなのかは敢えて聞かないが、その内容をわざわざ聞くほど野暮じゃない。
そして今、麻緒を含めての三人で下校している。彼女と紗奈さんは、俺と出会った時の話で盛り上がっている。
麻緒は中学の時に俺が好きになったこと、紗奈さんは痴漢から助けられたことを。
当事者としては聞いていてかなり恥ずかしい。
「そっか、じゃあ紗奈ちゃんはライバルだね」
「うん、でも負ける気は無いからね。麻緒ちゃん」
盛り上がった二人はガシッと互いの手を握り、獰猛な瞳をしながら笑顔で見つめあった。
俺もちゃんと向き合わないとな。
「そういうわけで樹の左手手はもらい!」
「いいよ、私は右手があるから」
先程までは隣合っていた二人が、今度は俺の隣にやってきた。なんだかんだ仲良くなりそうだな。いい事だ。
これからはこの三人で帰ることになるのだろうか?だとしたら、楽しくなりそうだな。
翌朝、家から出た俺は通学途中でとある人物を待った。まぁわざわざ勿体ぶるほどのことではないが。
待ち合わせ場所にはその人がおらず、ワクワクとした気持ちで彼女を待つ。ドキドキもあるけどね。
「おはよう! 」
待つといっても時間は五分とかからず、彼女は俺を見るなり走って胸に飛び込んできた。
快活な彼女は見ていて心地が良い。
「おはよう麻緒」
胸に顔を埋めていた麻緒はこちらを見て、ニコっと笑い唇を重ねてきた。可愛すぎる。
情熱的な挨拶を終え、俺たちは最寄り駅へと向かう。
次に合流するのはもちろん紗奈さんだ。電車から降り改札口に向かおうとするが、ちょうど紗奈さんが来たところですぐに目が合った。
「おはよう紗奈さん」
「おはよ!」
「おはよう」
これからはこの三人で学校に向かうことになるわけだ。良いね!
さすがに駅ではあまり広がったりできないので、今は麻緒が隣にいて紗奈さんは俺の服を摘むようにして後ろにいる。
電車に乗って俺たちは学校に向かった。
時間が飛んで放課後。これといって何も無かった一日になるはずだったのだが、今から帰ろうと靴を履き替えて外に出た時に、とある人物に呼び止められた。
「いきなりごめんなさい、どうしても樹くんと話がしたいんです。せめて聞くだけでもいいので少しだけでも時間を貰えませんか…?」
「……そうは言われてもね。自分が何したのか分かってる?」
彼女は
俺の四度の告白を振って、それが嫌だったのか先輩と付き合ってそれを見せつけて来た人。
その先輩は俺に散々悪口を垂れ流してきたわけだが、その悪口先輩の彼女が今更なんの用だというのか?
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