最終話 今更好きだと言われても
咲恵さんとこれからについて話し合った後、紗奈さんの部屋に戻って改めてその話を彼女にも伝えた。
困った時は頼って欲しいと言われたことを。
「そっかそっか、お母さんも応援してくれてるんだね♪」
「そうだね」
あの時はどうなる事かと思ったが、咲恵さんは俺のこともちゃんと人として接してくれて、本当に幸せ者だなと感じていた。
思えば早いものだ。
観月に告白したところから始まって、そこから紗奈さんが声をかけてくれたことが始まったわけだが、そういえばあの次の日とかその辺でも好透が助けてくれたっけ。
観月とあの先輩の二人に絡まれた時のことだ。
そんなことを思い出していると、紗奈さんがえいっ!と抱き着いてきて、そのまま押し倒される。
「それなら早くお母さんに孫を見せてあげないとね♪」
そう舌なめずりをした紗奈さんは、ゆっくりと顔を近付けて首元にキスをしてきた。
最近知ったのだが、彼女はよほど興奮している時は首元からキスをする。多分今日はヤバいかもしれない。咲恵さんにバレないといいなぁ……
すると紗奈さんのスマホにメッセージが届いたようで、彼女は斜め後ろに置いてあるソレを手に取った。胸を張るその体勢がちょっとアカンやつだけど。
なにせ彼女はミニスカートだ、履いてないのがよく見える。やる気満々かい。
「あっ♪お母さん出かけたみたいだよ樹くん……んふふ♪」
彼女はそういいながらスカートを摘んで持ち上げる。あまりに明確な誘惑に、俺は理性を捨てた。
安心したのもあったのだろう、いつもより一段と激しく、また多く愛し合った俺たちは例によって夕方を迎えていた。
紗奈さんに連れられてシャワーを浴び、ゆっくりしていると咲恵さんが帰ってきた。
妙にニコニコしていたことを見るに、間違いなく分かっているだろう。そりゃ大人の女性なのだからある程度の酸いも甘いも、それに欲だって知っているはずだ。
それから暫くして夕食をいただき、楽しい時間はあっという間に終わって、夜の帳がすっかり降りた頃、咲恵さんが車で送ってくれるということになった。
彼女の勧めによって紗奈さんと一緒に後部座席に乗せてもらい、二人で手を繋ぎながら今日の残りの時間を楽しんだ。
そうして十分と少し経った頃、俺の家に到着した。
「ありがとうございます咲恵さん」
「どういたしまして。これからもよろしくね♪」
車から降りて紗奈さんとキスをしていると、唐突に家の扉が開いた。
出てきたのは母さん姉さんで、俺を見るなりスタスタとこちらにやってきた。
「あ!刹希さんとお義母さん!」
「えっ!?」
二人に気付いた紗奈さんがその名前を呼ぶと咲恵さんも驚いたような声を出して、車から降りた。
「こんばんは。樹の母です、紗奈さんには息子がお世話になってます」
「はじめまして、紗奈の母です。こちらこそウチの娘が……」
母さんと咲恵さんが大人同士の挨拶をしている間、姉さんは俺たちの元にやってきた。紗奈さんと抱き合っている。
あれ外堀が……まぁいいか。
「紗奈、そろそろ行くわよ」
「はーい、じゃあね樹くん!」
「うん、じゃあね」
ひとしきり
母さんたちもすっかり仲良くなったようで、さっきもすごく楽しそうに話をしていた。
走り去っていく車に三人で手を振って、紗奈さんたちを見送った。車が向こうに行ったあたりで家に入った。
もうすっかり夜は冷える時期になった。
そして迎えた月曜日。また今日を含めた五日間は学校に行かねばならないが、それでもあまり嫌に感じないのは紗奈さんのおかげだろう。
彼女と共に学校に向かい授業を受けて、燈璃や壱斗を交えて昼食を食べる
「燈璃ちゃんも良かったら今度家においでよ!お母さんが会いたがってたから」
「ソレいいな。じゃあ今度邪魔するぜ」
土曜日に俺が咲恵さんと会ったという話をしていた紗奈さんが、燈璃にそう言った。咲恵さんならきっと燈璃とも仲良くしてくれるだろう。
ちなみに俺と壱斗はそんな二人と向かい合いながら雑談をしていた。
それからも特に変わったことはなく、放課後を迎えて図書室へと向かう。やっぱり紗奈さんと一緒に静かに本を読むのもいいな。
「あっ……」
二人で図書室に入ると、案の定観月がいた。
彼女をほっといて本を選び、それを持って椅子に座る。アレとは離れているよ。
だが観月は隣に座ってきた。なんやねん邪魔やな。
「あれ?樹くん奇遇ですね!隣に座ってくれるなんてもしかして私のことが……!」
「何言ってるの観月さん?」
「妄言も大概にしろ」
呆れるほどに白々しい観月に冷たい目と声をかける紗奈さんと、思い切り本音が出た俺である。
もう相手にするのも疲れてしまう。
「二人して辛辣すぎません……?」
「自分が何したかわかってねぇなマジ……まぁソコに座っててもいいから、静かにしててくれよ」
「はい!」
めっちゃくちゃキラッキラな笑顔の観月だが、マジで今更がすぎる。嬉しくねー。
とりあえず無視しとこ、相手にするだけ疲れるわ。
それからはなんだかんだ彼女も静かにしていて、紗奈さんが傍にいてくれたお陰で心の中は平穏だった。
学校が閉まる時間となり、読んでいた本を戻して図書室から出る。観月の追尾能力が向上しているようで俺たちとタイミングはバッチリだ。嬉しくねー。
「樹くん、好きです!」
「はぁ?バカ?」
校門をくぐってしばらく、意味不明に着いてきた観月が唐突にそんなことを言い出した。無視してたんだから諦めて帰れよ。
「やっぱりダメです!諦めきれません!往生際が悪いのは百も承知ですけど、それでもやっぱり好きなんです」
「もう好きにして」
もうすっかり呆れている俺はそんな事しか言えなかった。マジで他にいい相手探せよ。
あのクソ先輩とかいいんじゃない?どうでもいいし口には出さないけどさ。
「そうですか、なら好きにしますね。えいっ……ぐえ」
少しだけ予想していたがやはり抱き着こうとしてきたので、その顎を下から掌を押し当てるように掴む。
そのまま手を伸ばすと観月が変な声を出した。
「何するんですか、好きにしていいって言ったじゃないですか!」
「あぁ、だから俺も好きにしたよ。それでも分かんないならこうしてやる」
言っても分からないなら行動で見せるまでと、俺は隣にいる紗奈さんを抱き締めてこれみよがしにキスをした。少しだけ深めのソレを。
それを見た観月は勿論絶句、そのまま帰ってくれていいんだがな。
「ぐぬぬ、胸がキュッとしますねこれ……」
「ちなみに言っておくけどね観月さん?こないだ樹くん、私のお母さんと仲良くなったからね」
自慢気に紗奈さんが観月に言った。なんなら咲恵さんは母さんとも仲良くしてくれそうなので、これからの長い付き合いも心配はなさそうだ。
いいことだね、観月に邪魔はされたくないな。
ちなみに彼女は愕然としている。
「そういう訳だから、今更好きとか困るんで他の相手を探してくれよ。じゃあな観月さん」
驚きに固まっている観月を放って、俺たちは家に向かう。しかしすぐに正気を戻したらしい観月が走ってきた。帰れ。
「樹くん待ってくださいー!」
「やっべ逃げろ!」
「だね!」
紗奈さんの手を握って追い付かれないように走り出す。ヤツは意外と速いが、撒けるだろうか?
だけどそんな事は言っていられない。
今更好きだと言われても、もうキミに興味は無いんだ!
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