七十二話 嘘が明かされる
嘘をついたチビ野郎に観月を連れて行ったところ、更に嘘を重ねようとして彼女がそんなことを許すわけがなかった。
元々周囲との関わりがなかった男が、嘘で樹を蹴落として共感を得ていた。しかし観月がその嘘を許さなかったことで薄っぺらい関係は崩壊し、彼の側に着いていた連中はすぐに掌を返した。
樹は小学生の時からの関わりで、とても大事な友人だ。燈璃のとこも笑顔にしてくれているし、本当に感謝しかないヤツなんだ。
そんなアイツを傷付けるというのなら絶対に許さない。
「っ……だって、仕方ないじゃないか!
「一緒にすんな、樹は陰キャなんじゃなくて落ち着きがあって軸があるんだよ。少なくともお前みたいに嘘をついてまで周りと馴れ合ったりしない」
ついに観念したのか、チビが樹への胸中を吐いた。あまりにも一方的な見下した評価。
理解しようともせず、ただただ嫉妬心を拗らせて、でも自分では努力をしたくない。
だから嘘をついて周りを焚き付けて、同じタイプの人間とつるもうとする。
あもりにも短絡的で小賢しいやり方で、薄っぺらい人間関係を築こうとしてる。
だから、今のコイツには仲間など一人もいない。
「そうですよ、樹くんは凄くカッコイイんです。私に嫌な思いをさせられたというのに、樹くんはそれでも優しく接してくれました!困った時は助けてくれるし、ちゃんと話を聞いてくれます。今回のことだって、私が樹くんに付きまとったことが原因だったのに、それを私のせいにしませんでした!」
俺は樹の観月との間にあった出来事を知らない。しかし、二人の間にはなにやら奇妙な関係があるようだ。
それがなんであれ、樹の味方でいてくれるというのなら、俺は言う気はない。
「それなのに……嘘をついて樹くんを悪者にする、そんなあなたは最低です。二度と樹くんを悪く言わないでください」
観月は冷徹な眼差しでヤツを睨んだ。最後の一文は抑揚のない声で告げられ、ソレを言われたヤツは ぅぐっ……と声を上げて黙りこくってしまった。
そうしてヤツの周りには誰も寄り付かず、まともに相手にされなくなったことでいつの間にか姿を消していた。
そういえば薄らと目に涙を浮かべていたような……まぁ自業自得か、どうでもいい。
「なぁ、
「あん?」
一人のクラスメイトが俺の
「その……昨日の事なんだが」
「おう」
「俺さ、
どうやらそういう事らしい。そんな自白をされたところで俺にどうすればいいというのか?
ただただムカついてくるだけだ。
「何があったのかは知らないけど、御堂なりに事情があったってことだよな?それなのに何も聞かないで俺は……」
「さっきからうるせーな」
ダラダラと続ける男に痺れを切らした俺は、苛立ってそう言った。
相手はぱちくりと目を瞬かせている。
「んーなこといちいち俺に言われても知るかよ。本当に悪いと思ってるなら、まずは樹本人に謝ってこい。俺にゃただ頷くことしかできねー」
「……そっそうか……」
至極当然の話だ。誰かに悪いことをしたら謝る相手はその誰かだ。
当事者でなくその友人に謝ったところで、なにも話は進まない。
俺が代わりに許すだなんて、そんなことをする権限もない。ただの自己満足付き合う必要も義理もない。
そんなこと、言うまでもなかろうに……
やがて、俺の当番は終わり今は文化祭を回っているところだ。樹が休んでいると楽しさも半減といったところだろう。
昨日は
たった数分程度とはいえ、やはり好きな人に会えるのは凄く嬉しいものだなと思った。
一年は会えていなかったが、それでもあの声や纏う雰囲気がとても素敵になっていたことが分かった。
もし許されるなら、燈璃と結婚したとしても刹希さんとお付き合いさせていただきたいくらいだ。
文化祭を回っているうちにとある話が流れてきた。あの男の姿が見えないと思ったら、どうやらあいつは途中で呼び出しを食らったらしい。
もし昨日のことで呼び出されたのだとしたら、ほぼ確実にキツい処分が下されるだろう。
なにせ一歩間違えたら命を奪っていたかもしれないんだ、ヘタすりゃ退学かも。
それでも同情はしない、むしろ当たり前だとさえ思うよ。しっかり反省しろ、クソ野郎。
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