六十話 ホントは諦めきれなくて

 放課後になっていつも通り図書室に入り本を読む。

 今まで通りのルーティンだけど、それは一時なくなっていた。それはあの槍坂先輩と付き合っていた時のこと。


 でも彼と別れた今はまたこうして図書室に来るのだけれど、やっぱり彼はやってこない。

 私が自分で突き放した樹くん。


 彼はたまに図書室にやってくるようで、その度に時々チラチラと彼を見ているのだけれど、やっぱり気付いてくれないようで虚しい気持ちになってくる。


 七瀬さんに夢中な彼、本当なら私がその立場だったのに……

 

 仲睦まじくしている二人を見ているとあまりに悔しい気持ちになってくる。

 私と麻緒ちゃんに見せつけるようにキスをしていた二人を思い出すと、あんまりな現実に頭がおかしくなってしまう。


 締め付けられて苦しくなる胸、悔しい気持ち。

 決別したハズの想いが度々悲鳴をあげ 樹くんに抱きつきたくなる。

 でも、彼から感じられる無関心がそれを許すことはなく、ただ逃げることしかできない。


 いつか私に向けていた優しい眼は、もう見ることは無いのかもしれない。いつか彼が私に好きだと言ってくれた、その告白おもいも……


 最近は彼のいる教室の前を通るようにしていて、その度に必ず彼の姿をこの眼に納めるようにしてる。

 友人たちと談笑している彼を見る度に暖かい気持ちになって、それを無下にした事実にまた虚しくなる。


 日に日に魅力が増していく樹くんがとてもかっこよくて、ほかの人たちに良さを見出すことができない私は、いつになったら彼への気持ちが収まるのだろう?


 時々誰かに呼び出されては告白もされるけど、大体来るのは全然ときめかない人ばかり。

 もっと樹くんを見習って欲しい。


 今日も告白されて、その用事が終わって教室に戻る最中に廊下で人とぶつかった。


「あっごめん」


「いえ、私こそ……ちゃんと、見てなく…て…」


 ぶつかったのは私の大好きな樹くんだった。

 彼を見ていると胸がドキドキと激しく高鳴って言葉がだんだん尻すぼみになっていく。


「観月さん?」


「……ハッ、あぁいえなんでもないんですごめんなさい!」


 まともに喋れなくなった私の顔を覗き込みながら樹くんが私の名前を呼ぶ。

 ほんの少しだけ近くなった彼の顔で私の心臓が爆発しそうなほどにドキッとして顔が熱くなる。

 早口にまくし立てて彼の前から走る、変な姿を見せてしまって恥ずかしい……

 ほんの一瞬だけ見た彼がいやに艶っぽく、私の身体がはしたなく疼き始めてしまう。


 今の私が " こんな事 " になっているだなんて彼は知っているのだろうか?きっと知ったら軽蔑するかも……あっ、いけない!

 変なことを考えてしまいまた疼く身体を落ち着けようと、私はその後の授業に集中する事にした。


 諦めるって言ったくせに、情けないなぁ……



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 はぁ、今日の樹もエロかっこいいなぁ……

 あんな澄ました顔してるクセに、七瀬さんとはあんな熱烈なキスをしてそれを見せつけて……

 まさかNTRとは違うけど、そんなモノに目覚めるだなんて思いもしなかった。


 彼には諦めたというふうで接しているけど、その実 ウチは全然諦めきれていない。


 好きな人がほかの女の子にもっと凄い姿を見せていると思うと身体が疼いてくる。誰かそういうビデオはよ!

 樹のあられもない姿なんて絶対見たら抑えられる自信はないし、間違いなく飛びついてる。


 同じ教室だし樹はウチの席の斜め前だからチラチラとその横顔が見えるしで、オカz……眼福には困らない。


 一昨日も昨日も七瀬さんと手を繋いでいたし、すごくイチャイチャしていて頭がおかしくなって身体がおかしくなった。

 もしウチが中学の時に間違えていなければきっと彼の隣は貰っているし、それは初めても同じ。もちろんウチが捧げることもそう。

 もしあの二人が学校で " そういう事 " をしていたら間違いなく録画してるし使ってる。


 ただ樹って意外と隙がないから全然そういうのが見られない。七瀬さんに貰おうかな?そりゃ無理か。


 今日二人は何するのかな?そろそろ樹の首筋にあるキスマークが薄くなってきているのであまりタイミングが無いのかな?

 どこまでマークを付けてるんだろう、脱がして見てみたい……


 あぁもう最近こんなことばっか、疼いてばっかで仕方ない……

 こんなウチを知ったらきっと彼に冷たい目で見られるかも、でもそれもアリ……あーヤバ、おかしくなってきそう。



 最初は樹と七瀬さんの関係を考えると色々と苦しくなってきたけど、今はもう開き直ってそれも一つの楽しみになってきた。


 胸は苦しいのに見ていて疼く身体という変な組み合わせがウチの脳を焼いてくる。

 時々誰だかよく分かんない人達が告白してくるんだけど、樹に比べたらなんてことないモブだった。もっとやらしくなってから来て欲しい、もっと言うと樹みたいに……なんてね。


 そんなこと言って、結局いつまでも未練タラタラで諦めるとかできなくて。

 自分の小さなプライドのためにいた嘘がすきなひとを追い詰めて傷付けて、自分はそこから離れた。


 久しぶりに会って嫌われるのも当然で、むしろ殴られないだけ全然軽いよなぁ……

 樹の受けた心の傷はずっと重い。それでも彼に寄り添っていた人達のおかげで何とかなっただけなんだ。




 ウチの罪は、決して許されるものじゃないんだ。

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