五十三話 家族と彼女と
「樹、お父さんに会わせてらっしゃい」
「うん。 おいで、
彼女の手を引いて父さんの場所へ行く。
そこに着いた俺は彼女と共に正座して 手を合わせた。
今では亡くなった父さんに挨拶ができる唯一の場所。
仏壇を前にした彼女は静かに自己紹介をしてくれた。嬉しいものだよ、こういうのは。
「……ありがとう紗奈さん」
「ううん、こっちこそありがとうだよ。お父さんに紹介してくれて嬉しい。ありがとね」
それは当然というものだが、敢えてそれは言わずにその感謝を受け取った。
今度 紗奈さんのご両親に合わせてもらったら俺からもしっかり感謝させてもらおう。
仏壇のある部屋を後にてしリビングに戻り、紗奈さんにお茶を出して椅子に座ってもらった。
しまった、せっかく紗奈さんを呼ぶのならジュースくらい買っておけばよかった!ちょっと後悔……
「ところでさ、さっきの話だけど…紗奈ちゃんが樹を捕まえてくれたんでしょ?きっかけ教えてよキッカケ!」
興奮した様子で姉ちゃんがそう言った。まったく落ち着きなさいよもう…
でも紗奈さんは嬉しそうだ、母さんも昼食の用意をしながらチラチラとこちらを見ているので気になるのだろう。
紗奈さんがその話をすると、姉ちゃんが目を見開かせて俺を見た。
「いやぁ…まさかアンタ、いつの間に紗奈ちゃんに好かれてたのさ?失恋から新しい恋とかなんか素敵じゃない」
素敵なの?イマイチ俺には分からないが、それでも好かれていたのは嬉しいことだ。
紗奈さんが俺を好きになった理由を話す。
最初の出会いと、再会したの時の話。
「はぇー…そりゃ凄いね。長いこと秘めていた想いがそんな形で報われるとか、それどこの恋愛漫画?ってか樹がそんなイケメンムーブかますなんて……アタシビックリだわ」
「そうなんですよ!ほんとに素敵なんです♪」
姉ちゃんの感想に紗奈さんが嬉しそうに返した。その頬は朱に染まっている。
目の前でこんな話をされて照れてしまうところはあるが、それでも嬉しいものだ。
「ところで二人は……もうシたの?」
「ちょっ…!」
姉ちゃんが変な質問をしやがった。そういうデリケートな問題に触れるんじゃないよ。ニヤニヤしちゃって。
「……はい♪」
そんな質問に頬を朱に染めた紗奈さんが伏し目がちに答えて横目でこちらを見た。
その姿があまりにも可愛らしく思わず頭を撫でてしまった。
「へぇ…随分と進んでるのね。羨ましいわぁ……ところで紗奈ちゃん、
「姉さん?」
気でも狂ったか、姉ちゃんがバカなことを言い始めた。ないとは思うけど、それでも、そんなものを期待しないでほしい。
「ありますよ、えーと……」
「紗奈さん?」
俺の思いとは裏腹に紗奈さんはそう言ってスマホのアルバムを物色していた。
えっ?あるの?ってかなにしてんの見せないでよね?
「あっ!そーそーこれです!ほらっ♪」
何かいい写真を見つけたであろう彼女がそう言ってスマホの画面を姉ちゃんに見せた。
姉ちゃんはソレを舐め回すようにじっくりと見ている。
「おぉ……こッこれは……素晴らしい」
「気持ち悪いわ
そんな姉ちゃんの様子を見た母さんが辛辣にそう言った。いいよ母さん、もって言って。
「でっでもこれは!……連絡先教えとくからあとでアタシにも頂戴」
「いいですよ」
「ちょっと、待ってよ なになに 何の写真なのさ!」
俺がそう言うと紗奈さんがソレを見せてくれたのだが、その写真はいつしか彼女を抱いたあとの俺がズボンを履いて上半身が裸の状態だった。
いつの間に撮ってたの気付かなかったんだけど。
「いやぁ、弟ながらいい身体してるわ。鍛えてるのは知ってたけどまさかここまでいい身体なんて……ゴクリ」
「姉さん?」
姉ちゃんが言い終わると同時に俺の胸辺りを見て喉を鳴らした。顔を赤らめるんじゃないやめろ。
「ってかなんでわざわざ俺の
「いや姉だからよ、姉たるもの常に弟の成長記録はとっておかないと」
「刹希ちゃんは昔からブラコンだものねぇ」
やめてブラコンとか言わないで聞きたくないから。ってか母さんもなに笑ってんだよ止めろ。
しかも成長記録ってなに?母さんならまだしも姉ちゃんがやる意味がわからないしそもそも身長体重とかだけでよくない?
それをなにあの写真で鼻息荒くしてしれっと正論っぽく言ってるの?
「だから、アタシはアンタの身体を知っておく義務があるの。決して変なことに使わないから安心して、紗奈ちゃんとの秘密」
「そうですね。さすがにあんまりエッチなのダメですけど、これからも定期的にこういうの送りますね」
「ありがとう!」
そんな紗奈さんの提案に姉ちゃんが彼女の手を握って感謝していた。ナニコレ?
「ふふ、諦めなさい樹」
いつの間にか母さんが後ろにやってきていて困惑している俺の両肩に手を置いてそう言った。
「さっ、ご飯にしましょう。紗奈ちゃんの分もあるから食べてってね♪」
「ありがとうございます♪」
変なことはあったものの、ちゃんと紗奈さんが受け入れられているようで。
俺はそんな光景を見てさっきまでの変な気持ちは吹っ飛んで嬉しい気持ちでいっぱいになった。
「嬉しそうじゃん」
「当たり前だよ」
そんな俺を見た姉ちゃんがニヤニヤしてそう言ったので堂々と返した。
姉ちゃんは俺の頭をそっと撫でて返事をするのだった。
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