三十六話 当然の不幸
肩で風を切りながらズンズンと町を行くこの情けない男は
彼は よりによって自分が見下していた相手に為す術なくあしらわれてしまったことにどうしようもない怒りを抱えていた。
目をつけていた
色々と迷走しまくっていた観月であるがこの情けない男にアレコレ許すほど貞操観念は緩くはなかったようだ……が、もし
それはそれとして、今の槍坂は自分の怒りに赴くままその辺の女をナンパでもして犯そうという魂胆であるが、観月や麻緒といったツラだけは良い女性とワンチャンあってしまったためにその未練を断ち切れずにいた。
そのせいか中々気の乗るような女がおらず相手を決めかねていた。
そのまま諦めれば良かったのだが、その最中である女性が目に付いた。
ルックスが良く、ちょっと遊んでそうではあるがまだまだこれからだといい印象を抱いた槍坂は彼女を選ぶ事にした。
誰かを待っているのか暇そうにスマホを眺めるその女性に槍坂が声をかける。
「おっ、お姉さん暇?今からちょっと……」
「無理」
遊ばない? そんなことを言おうとした槍坂を一蹴し、まるで興味が無いような態度でスマホを弄る。
今までの事もありイライラしていた槍坂は彼女に詰め寄る。
「いやいや、せめてちょっとくらい……」
「うざっ、無理だって」
いきなり距離を詰められたことで露骨に不快感を示し拒否の意を示した彼女。
槍坂はめちゃめちゃ短気な性格だったため、もう我慢の限界だった。みっともない男だ。
「テメェ!ざけんなよ!」
そう言って槍坂は女性の胸倉を掴む。
もちろんその女性は抵抗している、なんなら槍坂よりパワーがあった。
「うっざいなぁもう!今彼氏と待ち合わせなんだよあっち行け!」
そう言った彼女に胸倉を掴み返され締めあげられる槍坂は うぐうぐと情けない声を上げている。
なんとかその手を離しさせようと思い切り彼女を殴ろうとした。
少し遡った頃、とある青年二人が町を歩いていた。場所はあの女性がいた場所とそう離れておらず、五分と掛からずその場所へ着くだろう。
片方は女性の彼氏であり、もう片方は二人が合流したら離れる予定であった。
「やっべ、ちと遅くなっちまった」
「アイカさんにキレられるっスね」
諸事情により遅くなった彼氏の方……ツヨシは焦っていたが、相方である酒匂という男はツヨシの焦りを見てちょっと面白そうにしている。
「マサのヤツ、上手くいってるみたいだな」
「ッスね、刺された傷も癒えたみたいで安心ッスよ」
友人のことについて話す二人の速度は少し速い。それはもはや競歩といえるものであったが、なぜ走らないのかというと、なんだかんだ話す事があるからである。また今度にすればいいのに。
それでも今の時間を楽しむくらいには仲の良い関係である訳で、それを否定はできない。
「
「でもマサ君ってどっち選ぶんスかね、見てる分には楽しいんでいいんスけど」
呑気なそんな話をしていると、そろそろ待ち合わせの場所に着くところだった。
「確かに気になるとこ……ん?」
「どしたんス……?あれ?」
急に足を止めたツヨシに酒匂が困惑するも、彼の視線をおった酒匂は事態を把握した。
ツヨシはすぐに '' その場所 '' へ向かい、とある男の手を掴む。
危うく自分の彼女が殴られるところであったので、その雰囲気はだいぶ殺気立っている。
「おい、俺の彼女に何してんだクソ野郎」
底冷えするような声でそんな事を言った、ちなみに彼女は胸倉を掴まれたままである。
言い逃れはできない状況だった。
「いぇっ…アンタまさか……」
自分の手首を掴んだ相手を見て槍坂は掠れるような声でそう言った。
少し前に麻緒に絡んでいたバカ二人をあしらった時とは大きく違い、自分より圧倒的に強い相手を目の前にして身を硬くした。
よりによってこの辺りでは名も顔も知れた男の彼女に手を出したということで 槍坂はこれから自分の身に降りかかる不幸に、先んじて恐怖してしまっていた。
「あれ?ツヨシくん、コイツあれっスよ。この辺で女食いしてるっていうヤツ」
「あ?」
ツヨシの隣にいる酒匂が、槍坂の顔を見てそう言った。イタズラが過ぎた彼はその過去の行いのせいで知る人には知られていたのだ。
酒匂の情報網はそれほどまでに広かった。
そして、槍坂の行いを知り どうにかならないかと悩んでいたツヨシはそのことを聞いて怒気をより強くした。
「いっいや!俺はその…」
「諦めろよ、とっくに顔は割れてんだ」
何とか逃れようとする槍坂であるが、酒匂が感情のない声でそう言った。
ツヨシの恋人に手を出そうとした挙句、過去の悪事によって狙われている槍坂のこれからは一体どうなるのか、考えるまでもないだろう。
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